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このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その1.

このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない   ~その1

これまで「このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない」 というような出来事がたくさんあった。
面白いことに、そのような出来事が私の目の前にあらわれるときは、 必ずしもハッピーな様相ではなく、 むしろその逆のアンハッピーな事態であることが多い。 時間が経過して、ようやくその出来事が 自分の人生でどのような意味があったのかがわかるのである。

あれは昭和60年の出来事だった。
旅館 伊賀屋が、 突然、近所の同業者の保証債務を支払わなければならなくなった。 しかも父が倒れた。
当時、いずれなんらかの手法での表現者になろうと決めていた私は、 百年以上続いた家業の倒産の瞬間は 自分の目で見届けなければならないと思い、 東京の大学を中退して天草へ帰ってきた。
確かに帳簿を見ると、倒産間違いなし、という状況で、 銀行などもそう思っている風だった。 周りの人たちも、なんでわざわざ東京の大学を辞めてまで、 倒産寸前の旅館に帰ってきたのか不思議に思っているようだった。
私はといえば、暇なので、本ばかり読んでいたが、 ある時、「なぜ」という疑問が沸き起こってきた。
「なぜ伊賀屋にお客様がいらっしゃるのだろう」
その日から、私は、 伊賀屋に来られたお客様方にたずねるようになった。

「どこから、 なにをするため、 どうやって伊賀屋を知って、 伊賀屋に来られたのか」
その結果は、次の通りだった。
「福岡から来た、と答えられたお客様が6割を超えている」
「魚料理を食べに来た、と答えられたお客様が9割を超えている」
「媒体でいえば、当時、民営化されたばかりのNTTの タウンページで知って来たと答えられたお客様が殆どである」

そこで、私は、NTTのタウンページを見てみたが、 不思議なことに気付いた。 大きい旅館が大きい広告を出し、 小さい旅館は小さい広告しか出していない。
「大きいことはいいことだ」と言っていた時代である。
これでは、大きい旅館にしかお客様は行かないはずである。
私は、天草の旅館で一番大きい広告を出すことを決断した。
当然、福岡地域に、である。
コピーも決まった。
「天草で一番の御馳走の自信あります」

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当時、伊賀屋で使っていた封筒。 封筒のコピーは当然「天草で一番のご馳走の自信あります」

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