このことが無かったら五足のくつはできなかったに違いない その12.
『時代の変化』
日本でも古くからの温泉地などへ行くと、 「よくこんな急峻なところにつくったなあ」というような 自然の造り出した地形に素直に従った旅館に出会い、 感心させられることがある。
しかし、いつのころからか、 私にとってみればつまらない旅館が増えたような気がする。
それは、 日本が高度経済成長期に入った頃から増えたのではなかろうか。 つまり、 工務店が旅館を造りやすい状態の土地にして長方形の箱を造り、 そのなかに客室を入れ込むという効率優先の手法である。
実際、私が、今の五足のくつAゾーンの部分の土地を購入した頃、 地元の数件の土木会社から、Bゾーンの土地とつないで、 コンクリートで平坦な土地にしないか、という提案があった。
そうすれば、大きい旅館ができるじゃないか、というわけである。
二つの土地の間を流れる小さい川は、 土管を通せばよい、という説明だったことを記憶している。
私は、その当時、建築よりも ランドスケープが主人公の旅館を創ろうと思っていた。
威容という形容詞で飾る建築、 たとえば、その玄関口を誇らしげに構える「グランドホテル」が その役割を終えようとしている時代の流れを感じていた。
何よりも大事なことは、 自然が教えてくれる時代に入ろうとしていたのだろうと思う。
隈研吾先生の「負ける建築」が刊行されたのは、 たしか2004年だった。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?