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羅生門とオキナワ

ある夏の昼下がり、私は横浜にいた。その日はとにかく暑く、建物の日陰をつたって歩かなければ倒れてしまうほどの日差しがさしていた。
横浜五番街は煙草の吸い殻やチューハイの缶がそこら中に転がっており、いかにも繁華街の裏側といった顔をしている。小汚ない路地だが、メインストリートはライブ会場のように人が溢れかえっており、喧騒から離れ一息つくのにはちょうどいい穴場スポットである。

ガード下のビニール本が所狭しと並ぶ本屋。奥が小さな酒屋になっていて、酒やつまみが置いてある。そこでスーパードライのミニ缶を買って店を出た。日陰にある自販機の隣でプシュッと缶を開け、勢い良く口に流し込む。自分でも音が分かるくらい、一回、二回、三回と喉を鳴らし、やがてビールは無くなった。ふぅっと息を吐き、缶をゴミ箱に放り込む。歩き出そうとすると足元に見知らぬ老婆が座り込んでいた。

髪も衣服もボロボロで、完全に弱りきっている。おそらく長時間この辺りにいるのだろう。得も知れない絶望感が羅生門を彷彿とさせる。
老婆は絶え入るような声で話しかけてきた。

す、すみません、昨晩追い剥ぎに遭いまして。財布も携帯も全て盗まれてしまいました。どうかお恵みいただけませんか…。

面倒なことに巻き込まれたと思ったので、すぐ近くに交番があることを伝え立ち去ろうとした。

すると老婆。

ウワァーッッ!!待ってください、助けてくださいィィーッ!!

と声を張り上げ、周囲から注目を浴びる始末となった。野郎、やりやがった。

こうなってしまっては対応せざるを得ない。嘘か本当かはさておき、形だけは話を聞いて三千円渡した。千円で風呂に入り、千円で何か食べ、千円で好きなものを買うといいと伝えた。

あ、ありがとうございますぅーッ!!必ず返しますーッ!ヒィーーッ!!

と奇声を上げたので、本当に静かにしてほしかった。

その夜。
反町にある銭湯にいき、風呂上がりに駅前のコンビニでスリーファイブオー エムエルのスーパードライを買ってベンチで飲んでいると、ある男が話しかけてきた。

あの、すみません。千葉に行くにはどっちに行けばいいですか?

え?いやここ横浜ですけど?歩きでは行けないと思いますよ。

男の服は汗でびっしょりと濡れており、短パンにサンダルで流浪しているような様子だった。訛りがあり、沖縄出身らしい。話を聞くと、嘘か本当かは分からないが茅ヶ崎から歩いてここまで来たのだという。そしてこの足で千葉の友人宅まで行くらしい。

なんでそんな無謀なことしてるんですか?と聞くと、財布と携帯を友人宅に置き忘れたため取りに行くのだという。電車で行けばいいじゃないですかというと、財布が無いためお金がないのだという。

またこのパターンかよと思ったが、男の真っ直ぐな眼にやられてしまい支援することにした。マネーの虎の社長の気持ちが少し分かった。携帯の乗り換え案内を見ると、終電で千葉まで行けることが分かった。そして三千円渡した。

ありがとうございます、このご恩は一生忘れません!! 必ず返しに来ます!!

そう言って男は改札へと向かっていった。


そんなことを思い出す夏の夜。
羅生門とオキナワは無事だったのだろうか。

あれからちょうど一年が経ち、一向に連絡がないが彼らも忙しいのだろう。

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