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『寝落ち』


これはまだレンタルビデオの主流が『ビデオテープ』だった頃の話。


当時、仕事で忙しくしていた僕は、大好きだった筈の映画が、全く観れない状況にいた。


その為か毎日苛々するし、空虚な気持ちに陥ったりして、ストレスが倍増。


『このままではマズイ!』


と、本能で身の危機を察知したのか、時間を作って気楽に映画を観る事にした。


普段ならホラーかSF、アクションやコメディなどの『日常より乖離した世界』が好みなのだが、何故かその日は邦画推理サスペンスをチョイス。


深夜、実家の茶の間にて鑑賞する事にした。

・・・で。案の定、ツマラナイのと疲れもあってか、冒頭30分程で眠りについてしまったのだ。


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幾ら4月下旬とは云え、夜ともなると、まだまだ少し肌寒く、僕は茶の間の炬燵に身を深く埋め、完全に寝入ってしまった。


映画は観る人も無いままストーリーを紡ぎ、また蛍光灯は寝入る僕を、こうこうと照らし続ける・・・

ふと、僕が頭を委ねる畳の近くに、人の気配を感じた。


『スッ』と少し、畳の擦れる音が聞こえ、その気配が移動していく。


僕は寝ぼけたままボンヤリと


『ああ、家族の誰かが電気を消しに来た』


と思った。


・・・のだが、茶の間は電気が消えた様子もなく、その気配は僕の寝る炬燵の周りを、ゆっくりグルリグルリと移動し続ける。


『コイツは家族じゃない!!!』


と、思った瞬間に・・・


僕の目が覚めた。


時刻は早朝5時。

茶の間の蛍光灯は明るく僕を照らし、テレビはビデオが終了した為に、青い画面になっていた。


あれは夢だったのだろうか?

朝になり、起き出してきた家族に、昨晩、茶の間に来たか聞いてみたが、来ていないと言う。


逆に『夜中に家の中を歩き周ってどうしたんだ?』と聞かれた。

それ以来、夜中に茶の間で寝るのはやめた。


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