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「1984年、友人宅で体験した怪異の事。」

 これは、まだ私が高校生だった1984年の春頃の話です。

 当時、私にはとても仲の良かった友人Nがおりました。

 Nは家庭での色々な問題のせいで少しグレていて、不良の先輩達とトラブルを起こしては、何度も警察沙汰になる様な、言わば問題児。

 でも私とは映画や音楽、漫画など共通の趣味が多い為か、極々普通に遊んでいました。

         🌀

 その日も、いつもの様に学校帰りにNの家に寄り、夜遅くまで楽しく遊んだ私が帰ろうとすると・・・

  「泊まっていけよ」

  Nが私を引き止めます。


 「明日用事があるから帰るよ。」

  と私が断ろうとすると・・・


 「お願いだから泊まっていって!」


  と、Nが涙目で懇願してきたのです。

 強気で喧嘩っ早いNとは思えないその姿に違和感を感じた私は、その理由を聞いてみました。


「実は夜中に祖父ちゃんのお化けがでるんだよ・・・それが怖くて怖くて・・・」



 Nの部屋と襖一枚隔てた隣の部屋・・・
仏間より毎晩の様に、亡くなったお祖父ちゃんが来るというのです。


 Nは目に涙を浮かべ、身体は少し震えていました。


 その夜、私は仕方無くNの家に泊まる事になったのです。


         🌀


 夜も更け時計が零時を指す頃・・・
私達は布団を二組敷き、電気を点けたまま横になりました。


 Nは私の手を握り、怖さを紛らわす為に映画や漫画、好きなアイドルの話をしていましたが、私が隣に居る事で安心したのでしょうか・・・


いつしか寝息をたて始めました。


 私は一人、緊張感のせいか中々眠りにつく事が出来ません。
 それでもなんとか目を瞑り、ようやくウトウトし始めると・・・


「トッ、トッ、トッ。」


 隣の部屋から聞こえる物音で目が覚めてしまいました。


 それは何かが畳の上を歩いている様な音です。


「トッ、トッ、トッ。」


 その音は隣の部屋から廊下へ出ると、この部屋の入り口の前で止まりました


[きっとNのお母さんが様子を見に来たんだ!]


と私は自分に言い聞かせ、更に固く目を瞑りました。



すーーーーーーっ



 静かに引き戸が開かれ、何かが部屋に入って来る気配を感じます。


 その瞬間!私の身体は動かなくなりました。


 [金縛りだっ!]



 私は怖さで悲鳴を上げそうになりましたが、声が出ません!


 その[何か]は「トッ、トッ、トッ。」と、私達を伺うように布団の周りを歩いています。


 音が私の足元に来たと思った瞬間、その[何か]が私の足に乗ってきました!


「ズン。 ズン。 ズン。 」


 ソレはゆっくり、ゆっくりと、足の上をやって来ます。


 あまりの怖さに逃げたくても、身体は金縛りで一向に動きません。


 『もう終わりだ!』

 と諦めたその瞬間!




 ソレはのお腹の上で止まりました。


 少しズシリとした重さを感じますが、決して嫌な感じではなく、仄かな暖かさを感じる・・・そんな気がした事を今も覚えております。


『なんだ。猫じゃないか!』

 以前、猫を飼っていた私は、よく一緒に寝ていて似た様な経験をしていた事を思い出しました。

 すっかり恐怖心消えた私は、そのまま安心して眠りについたのでした。




 翌朝、グッスリ眠れたNに[お化けは出なかった事、そして猫が寝に来た事]を伝えました。

 Nは少し困った顔をしました。


「ウチに猫は居ないんだけど・・・。」





 あの夜、私の上に乗って来た[何か]は、一体何だったのでしょう・・・。

 その後、Nは部屋を別室に移してから、数ヵ月後には家を出ました。

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