見出し画像

花火

梅雨はもう開けたのか。雨が降らないまま一日が終わろうとしている。軒下のツバメの巣も空だった。

昨晩、ベッドの上で小説『三体』を読みながら寝落ちした。2人の登場人物が夜のルーブル美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチの”モナ・リザ”の絵を見ている場面。ある文章がどうしても頭に入らず、何度も読み返すうちに意識が薄れた。

翌朝、問題の文章を読み返したらイメージがすんなり頭に入ってきた。何なんだこれは。解けない数学の問題を一晩寝かせると突然解けるようになるアレか。

モナリザが変形し、壁も変形し、氷のように溶けていく。それと同時にルーヴル美術館は崩壊し、落ちていくレンガは赤熱したマグマに変わったが、それがふたりの近くを通過したときは、澄んだ泉のようにひんやり感じられた。彼らもルーヴル美術館とともに落ち、溶けたヨーロッパを突き抜けて、地球の中心に向かって落ちていった。とうとう中心にたどりついたとき、まわりの世界は爆発し、絢爛豪華な宇宙花火のシャワーとなった。それから火花が消え、目の輝きの中で、宇宙は水晶のように透明になった。星々はクリスタルの光芒が織りなす銀色の巨大な毛布となり、惑星は振動して美しい音楽を奏で、星野はその密度を増して満ちる潮となった。宇宙が収縮し縮退し、とうとうすべてが創造的な愛の光の中で消滅した。

劉 慈欣 (著), 大森 望 (翻訳), 立原 透耶 (翻訳), 上原 かおり (翻訳), 泊 功 (翻訳) 『三体Ⅱ 黒暗森林(上)』早川書房,p.232

『三体』に登場する発想の豊かさには毎回驚かされる。私に物理科学の素養が無いせいかもしれない。歴代の物理学者たちの天才的なひらめきに由来する発想なのか、それとも著者オリジナルの着想なのか。その境界が分からない。その境界が知りたい。

***

国道134号線沿いの道を歩いていると、視界がうすぼんやりとしてきた。煙だった。浜辺で若者たちが輪になって花火をしている。花火の煙が海風に吹かれ、こちらまで漂ってきたようだ。国道を走る自動車の白々しいライトが煙の向こうに吸い込まれ、萎れるように消えた。

煙に鼻を突っ込んだらスモークチーズが食べたくなり、コンビニでチーズを買った。帰宅すると、押入れから燻製器を取り出すのが面倒になり、チーズはスモークしないまま食べた。ふつうのチーズだった。

本日18:11時点でSmartNewsにトップ表示された記事。

・JR東海、726億円赤字転落 新幹線利用客が84%減(共同通信)
・「おかねのけいさんできません」男性自殺障害の記載「自治会が強要」(毎日新聞)
・アイフォーン新機種、10月発売米アップル、前年より遅れ(共同通信)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?