Dream バイバイ。13話目 最終話

ーー山口 梅子(20歳)、桃子(50歳)の場合ーー(in dream)ーー

それは、母が私が寝てるベッドの横で必死に祈る様に手を組んでブツブツと呟いている光景から始まった。
良く耳を覚ますと。
桃子「あなた。お願いします。この子まで連れて行かないで下さい。お願いします。私の。大事な。大事な。半身なのよ。お願いします。あなたがいなくなって、この子まで居なくなったら、私はどうやって生きていけば良いの?!お願いです。お願いです。」

そう。呪文の様にぶつぶつと唱えていた。
意外だった。母は、正直私がいない方が楽になるし、自由になると思っていたから。
私の記憶がある限りあんなに必死な母を見た事が無かった。
何においても温度が低く、最近は何も感じない人形の様な目をしていたから。

心の中で問いかけてみた。
(「ねぇ。お母さん。。。」
(お母さんなんて呼ぶの何年振りだろうか。最近は全く呼んで無かったな。)
「私はお母さんの側で生きてて良いの?」)

画面が一瞬暗くフェードアウトしたかと思ったら、今度は薄暗い家の中で、母が父の位牌に先程同様、呪文の様に唱えていた。
その姿は強く私の心に突き刺さった。
小さく丸まった背中は、たった一人で生きている母の孤独を写していたから。
とても、とても、寂しそうだった。

そもそも私が『夢を作って見せる人になる。』と言っていたのだって、映像を作ることが好きだからなわけでもなく、ただ一つ。父を亡くして落ち込んで悲しんでる母を元気づけたい、笑顔を見てみたいと言う思いからだった。

今まで薄暗く、ずっと夢の奥底で眠っていた私は、改めて何か大事なものを忘れていたものを思い出し、みぞおち辺りが微かに熱くエネルギーが満たされる感覚を
覚えた。

花束を抱えて病室に入っていく母。
母は花瓶を手にし一旦病室を出たかと思ったら花瓶に移し変えて戻ってきた。
そして、寝ている私に話しかけた。

桃子「梅子。今日は貴方の20歳のお誕生日と、偶然に今日は成人の日ですって。
ここまで生きてきてくれて、ありがとう。
お母さんの中ではまだ貴方は、14歳のままで止まってる。でも、あなたももう、20歳になったのね。生まれてきてくれてありがとう。
あなたがいてくれたから、私も今日まで生きてこれたのよ。ありがとう。
本当は一緒にケーキでも食べながらお祝いしたかったけどね。。」
そう言って、私が大好きだったケーキ屋さんの箱を少し掲げてみせた。

これは夢なのか実際に自分で見た光景だったのか、よく分からなかったが、私はゆっくり目を開けると眩しい光と共に白い見慣れない天井があった。

目線をゆっくり動かすと窓の外を眺めている母の姿が見えた。
母を呼ぼうと思ったがずっと使っていなかったせいか、声にならずヒューヒューと空気が通る音だけが微かにでただけだった。
(「お母さん。私、お母さんに夢作ってあげる。そして大好きなお父さんの夢、見せてあげたい。そして、笑って。生きて。」)
そう伝えたかったが、なんとか全身に力を入れて出た言葉は掠れた声の
「ゆ、、、め、、、」の2文字だった。

外を眺めていた母は、眼球が落ちてしまいそうなほど目を見開いて振り返った。

桃子「梅子?」

母の問いに心の中で答えた。
(はい。お母さん。。おはよう。。なんか、よく寝た。)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

6年間ずっと寝たきりだった私は、勉強も体力も筋力も別人のように落ちていたが、事故に遭うまでの鬱屈した思いや考えは沢山寝たせいか、すっかり無くなって自分でもびっくりするぐらいにやる気に満ちていた。
リハビリを死ぬ程頑張り、勉強も高卒認定も取り、驚くほどのスピードで回復した私は2年後、母が通っていた夢制作会社に就職が決まった。
ずっと私の事を気にかけてくれていた社長の計らいもあった。

今日は私の初めてのお客様がいらっしゃいます。
会社の入り口のドアが開くと一人の笑顔の女性が入ってきた。

私は立ち上がり、笑顔で迎えた。

梅子「お母さん。お待ちしておりました。
夢チップ、出来てますので、こちらへどうぞ。」

こうして私の夢を売る仕事が始まった。

山口 梅子、桃子 編 end.

Dream バイバイ。完。


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