Dream バイバイ。8話目

ーー佐々木 優二(39歳)の場合。ーーNo.2ーー(in Dream)

朝起きて、リビングに行くと朝の眩い光の入る明るい台所に立ってる友梨が居た。
俺は夢の中で嗚呼、これは夢なんだと、夢の無い感想を抱く。
リビングに立ってる友梨は娘を産む前の、少しほっそりとした体付きをしていた。
笑顔でおはようと俺に声を掛けてくれた。

優二「毎朝ありがとうね。お弁当も作ってくれて。」そう声を掛けたら、
ふふふと笑って「どう致しまして。」
そう君は答えた。

友梨「朝ごはん、ちゃんと食べてる?ご飯、ちゃんと食べないと元気でないよ。」

君は俺の前に座って、味噌汁を飲んでいる俺を見つめながら、そう言った。

優二「うん。。ま、まぁ。時々。」

俺の記憶にある君の姿からは少し若い君が目の前で自分を見つめてくれることに照れを感じて目線を味噌汁の具に移して、ふと視線を感じなくなったと思い、目線をまた目の前に戻したら、さっきまでいた君はもう居なかった。
俺は妙な焦りを覚えてお椀を置き、立ち上がって
優二「友梨!!おい!友梨!何処?!」そう叫んで振り返ると、

生まれたばかりであろう娘のオムツ替えに苦戦してる、先程に比べると少しふっくらとした友梨がいた。
友梨「ゆうくん!!!ちょっと友ちゃんのおむつ交換手伝って〜。私、なんか下手くそだわ〜。全然うまくできなんだけどぉ〜。」
優二「大丈夫だよ。すぐみんな慣れるよ。」そう言って、近づいてオムツの反対側を抑えて一緒にオムツを履かせた。
友梨「ありがとう〜。ふぅ〜。ゆうくん居てくれて、良かった〜。」
この時の友梨はそう言ってくれたけど、後に、友梨はオムツ替えもお風呂に入れるのも、一人でサクサクとこなせる様になっていた。

いや、俺が仕事が忙しかったから、友梨に任せっきりだったから、友梨が一人でせざるお得なかったんだ。
俺は友梨だったらなんでも出来るって勝手に思っていたのかも。

急に焦る気持ちが出てきて、俺は友ちゃんのお着替えも持ってくるね!!って、慌てて子供服がしまってある引き出しを開けたが、どれを持っていっていいのか良くわからないので何枚か組み合わせて手に取り、リビングに戻ったら誰も居なかった。
俺はまた、周りを見回しながら「友梨!!」そう叫んだ。
全く返事がなかったので玄関を飛び出したら、玄関前で三輪車を漕いでる少し大きくなった娘と後ろを押してる友梨がいた。
友梨「ゆうくん!!見て!友ちゃん、三輪車上手に乗れるんだよ!」
優二「おう!本当だ!友ちゃん天才だな〜。」
友梨「違うよぉ〜。私が教えるのが上手なの!!」
優二「そうだね!友梨は教える天才だな!!」
そう言って、友ちゃんの三輪車を乗る様子を眺めていて、ふと横を見ると隣にいるはずの友梨の姿がなかった。
また振り返り友ちゃんの方を見たら、夕陽をバックに友梨と友ちゃんが手を繋いで歩いていた。おそらくアレは友梨と友ちゃんだと思う。
なんせ、夕陽が強く、シルエットになっていて、振り返った二人の顔も良く見えなかった。
友梨「ゆうくん!早く!!」そう言って、友梨が空いているもう片方の手を差し出した。
俺は慌てて駆けつけて、友梨の手を握った。
思っていた以上に小さくて細い手だった。

友梨「今度からはゆうくんが友ちゃんの手を取って引っ張ってあげるんだよ。」

優二「友梨。やだよ。俺、友梨が居ないと、何もできないよ。友梨が居ない世界なんて、生きてる意味が無いよ。」

友梨「あるよ。二人の大切な友ちゃんがいるでしょ?私のお腹の中で育って、私が産んで、ここまで何とかして育ててきたんだ。ゆうくん、お願い。友ちゃんを側で守ってあげて。私もいつも二人の側で見守ってるから。
ゴメンね。生きていれなくて。ゴメンね。」

夕陽に照らされて、涙を流しながらそれでも真っ直ぐ前を向きながら俺に語りかける友梨の綺麗な横顔は俺が世界で一番愛しい美しい横顔だった。

俺は友梨も病気が分かって命の期限が短いと分かってからは、友梨は今みたいに謝ってばっかりだったのを思い出した。
友梨が居なくなって不安がる俺を心配して、申し訳なく思っていたのだろうが、友梨が一番不安で辛かったのに、最後まで俺と友ちゃんの心配ばかりしていた。
夢の中の友梨だけでも安心して欲しかったから俺は実際には言えなかった言葉を発していた。

優二「大丈夫だよ!!友ちゃんは俺が必ず守る。だって、友梨と俺の大事な子供だもん。大きくなって、親離れするまで、ちゃんと大事に育てるよ。」
友梨「良かった。友ちゃんが大きくなって、ゆうくんもしっかり生きて寿命をまっとうしたら、あの世?って言うところでいつか私に会って、私が居なくなってからどんな人生だったのか教えてよ。どんな土産話持ってくるか、楽しみだなぁ。」

真っ直ぐ前を向いていた友梨は横にいる俺の方を向き真っ直ぐな目で見つめながらこう言ったんだ。
友梨「ねぇ。ゆうくん、私、生きてる時に照れ臭くて言えなかったけど、私と結婚してくれてありがとうね。愛してるよ。」
そう言って、はにかんだ笑顔は綺麗だった。
もうほぼ沈みかけてる夕陽が余計に彼女の顔に陰影をつくり、彫刻のような美しさを放っていた。

友梨は僕と繋いでる手を離し、友ちゃんと僕の手を繋ぎ直して、道の先の沈みかけてる夕陽に駆け足で一人、走り出した。
時折振り返り、手を振りながら、シルエットでもう表情も見えなかったけど、きっと彼女のことだから笑顔で手を振っていたに違いない。

彼女の姿が完全に消え去る前に俺は叫んだ。
優二「友梨!!友梨!!!ありがとう。」


ゆっくり目を開けると、そこは自分のベッドだった。
俺はゆっくり体を起こし、喉の奥が酷く苦しくなる思いが一気に湧き上がり、目から溢れる水分と共に、喉元から外に溢れ出ようとする感情を「うううう」と言う声と共に手で覆い隠し、隣の部屋で寝ている友ちゃんに聞こえないように、動物のような呻き声で放出した。

俺も、照れ臭いとか考えずに、君が生きている時にちゃんと目を見て、真っ直ぐに伝えたかった。伝えれば良かった。掠れた絞り出したような声で言葉にした。

優二「友梨。愛してるよ。」と。

君が亡くなってから、1ヶ月涙一つ出ずに、泣き方を忘れてしまった自分が今こうして涙を流し、嗚咽しながら泣けたことにびっくりした。

近くにあったタオルで顔を拭いていたら、寝室のドアが開く音と同時に
「パパーおはよう!!!!」って言いながら友ちゃんが入ってきた。

笑顔で入ってきた友ちゃんの顔は、友梨、君にそっくりだよ。
泣いていた事を悟られないように、俺も似合わない笑顔を作って、

優二「おはよう!友ちゃん!!よぉ〜っし!美味しい朝ご飯!今作るからねー!」
そう言って、ベッドを飛び降りた。

友梨。今日も僕たちを側で見守っててくれるかい?


佐々木 優二(39歳)、友梨(36歳)、友美(7歳)編 end.

Dream バイバイ。9話目に続く。


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