Dream バイバイ。10話目

ーーー山本 妙子(75歳)、陽三(80歳)の場合ーーNo.2ーー

陽三「おおーーい!!誰か!!誰かおらんのか?!!!温かいお茶って言ってるんだ!!早くもってこんか!!!」
一人の男性の老人が縁側近くのカウチソファに腰掛けながら大きな声で部屋の奥に向かって叫んでいた。

妙子「あ。はいはい。お待たせしました。」
陽三「遅いぞ!!何でまた、こんな年寄りのヘルパーをよこしたんだ。
なんの役にも立たん。妙子さん、妙子さんはおらんのか!!!」
妙子「。。。私ですよ。陽三さん。私が妙子ですよ。」
陽三「そんなはずあるか!!!お前みたいなヨボヨボのしゃがれ声のばーさんじゃないわ!!」
そう叫んで大きく腕を振り回した手がサイドテーブルに置いていた湯呑みに当たり、妙子の方に勢いよく転げ落ち、中に入っていたお茶が妙子の足にかかった。

妙子「あつっっ。」
妙子は思っていたよりお茶が熱かったため、このまま陽三さんに出してたら火傷してたかもしれないと思い、そのまま飲まずに良かったのだと、自分を納得させた。
足の火傷も靴下の上からだったので大したことは無かった。

妙子「今、新しいお茶入れ直しますからね。」
陽三「お茶はもう要らん。ちょっと寝る!!」そう言って春の陽気に照らされたカウチの背もたれに体を預け、目を瞑った。
妙子は慌ててタオルケットを持ってきて陽三にかけた。
そして先日届いた夢チップを取り出しおでこにそっと貼り付けた。


ーーー山本 妙子(75歳)、陽三(80歳)の場合ーー(in Dream)ーー

妙子、陽三「は、初めましてよろしくお願いします。」
僕達の出会いはお見合いだった。
良くある田舎の知り合いのツテから来た話で、結婚に対して興味の無かった25歳の僕は親が紹介した人と取り敢えず会ってみるかと言うぐらいの程度でお見合い会場の洋館のラウンジに来た。
僕はすこぶるハンサムという訳ではないが、背もそこそこ高く体型もスレンダーだったので見た目は良かったと自負する。なので女性で不自由な思いをしたことは無かったが、いつまでもフラフラしている僕を見兼ねて、親が勝手にお見合いのセッティングをしたわけだが、本来のお見合い時間よりも1時間も早く僕に伝えるから、30分も相手を待つことになった。
少し相手を待たせるくらいが格好いいと思っていたのに。

「お待たせしました。」
下を向いてた僕に上から、鈴が転がるような綺麗な声がしたと思って顔を上げると、薄い水色の膝より少し上の丈のワンピースを着た女性が立っていた。
背はさほど高くないが、ワンピースからのぞく膝から下の細くてスラっと伸びた足が兎に角綺麗で自分のタイプにドンビシャだった。
そして、醸し出す雰囲気も先程聞こえた話し声も、何より、はにかむ笑顔が僕の心を掴んで離さなかった。そう、正に僕の一目惚れだった。
この自分に一目惚れという文字があったんだと、自分自身が一番驚いたくらい。

慌てて僕は立ち上がり、頭を下げたと同じタイミングで彼女も頭を下げ、
二人して頭の言葉を吃りながら声を揃えて言ったんだ。
妙子、陽三「は、初めましてよろしくお願いします。」

「あらあらまあまあ息がぴったりだこと!!」とお見合いを勧めてきた近所の仲介役の叔母さんが茶化すから、二人で顔から火が出るくらいの恥ずかしさを覚え、真っ赤になった。首まで真っ赤になった彼女はまた、可愛くて綺麗だと思った。


お見合い後、私達は数回のデートを重ね、陽三さんからプロポーズを受け、結婚する事になった。
プロポーズの言葉は「お互いが、おじいちゃん、おばあちゃんになって、縁側で笑ってる君の隣でお茶を飲んでいたい。僕と一生を添い遂げて下さい。」だった。

私にも縁側でおじいちゃん、おばあちゃんになった二人が仲良く笑いながらお茶を飲んでる姿が想像できた。

二人には何年経っても子供が出来ることは無かった。
とても仲の良い二人だったが、出来ないことに対して悲観的になることもなく、病院に行くこともなく、ただ二人で過ごす事をとことん楽しんだ。
一緒にご飯を作ったり、旅行に行ったり、山に登ったり、温泉に行ったり、映画を見たり。音楽を聴きに行ったり。何処に行くのもいつも一緒に二人の共有の時間を、思う存分二人で楽しんだ。
だからこの陽三さんが認知症になるまで、私達はいつまでも縁側で笑いながらお茶を飲んでいるだろうなという未来を疑いもしていなかった。


外の日が少し上から西側に傾いた頃、カウチで昼寝をしていた陽三がゆっくりと目を覚ました。
目から一筋の涙が流れていた。
陽三「おおーーーーい!!誰かーーーーー!誰かおらんかー!!お茶を持ってきてくれーーー!!二つ持ってきてくれーーー!!」
そう言ってカウチからゆっくりと降りて縁側に座り出した。

妙子「はいはい。お待たせしましたね。お茶です。今度はちゃんと少しぬるめに作りましたよ。あら?下に座るんですか?でしたら座布団、敷いて下さいな。はい。」
そう言って、陽三に座布団を一枚渡したらもう一枚座布団をくれというので座布団を渡したら隣に敷いて
陽三「妙子さん。一緒に隣に座ってお茶を飲んでくれますか?」
そう言った。
一瞬妙子は固まったが、みるみる涙で瞳が満たされ、震える声で
妙子「はい。一緒にお茶を飲みましょうね。」
と湯呑みを持って陽三の隣に座って、泣き顔から出来る限りの笑顔を作った。

その笑顔を見て陽三もシワくちゃな笑顔になり、二人でお茶を飲んだ。

その後、陽三も妙子も縁側に座ってお茶を飲むことは無かった。
一週間後、肺炎を拗らせて陽三が亡くなったからだ。

ある昼下がり縁側に座り一人、お茶を飲む妙子。
妙子「陽三さん。私、本当にあなたと最後、ここで並んでお茶が飲めて嬉しかったわ。神様が最後にくれたプレゼントね。あなたと過ごした日々は決して楽しいだけじゃなく、辛い日も沢山あったけど、でも、最後まで笑顔で添い遂げられて、いい生涯だったと胸張って言える。ありがとうね。

私も眠くなってきたわ。。。あなたが見た夢。私も見てみたいから今日は貼って寝てみるわ。」

そう言ってカウチソファまで移動して、おでこに夢チップを貼る妙子。

妙子「また一緒に微笑みながらお茶飲みましょうね。陽三さん。もうすぐですから。もう、、すぐ。」

そう言ってタオルケットを自分で掛けてゆっくり目を閉じた。

山本 妙子(75歳)、陽三(80歳)  編 end.

Dream バイバイ11話目に続く。





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