Dream バイバイ。9話目
『時代は西暦2072年、今より少し未来のお話。
私達は夢を売り買いする、夢制作会社
『Dream buy bye』
私はその映像制作の編集者の一人、山口梅子(やまぐちうめこ)。25歳。この会社に入って3年目。
今日も、夢を買いに来られたお客様がいらっしゃいました。
まずはどの様な夢をお求めか、お聞き致しましょう。』
ーーー山本 妙子(75歳)、陽三(80歳)の場合ーーーー
梅子「いらっしゃいませ。あ、足元お気をつけください。」
そう言って、玄関からゆっくり杖をついて入ってくるご婦人に駆け寄り、椅子まで支えた。
妙子「どうもありがとうね。最近足が悪くなってしまって。外に出るのも一苦労だわ。」
梅子「いえ。わざわざお越しいただきありがとうございます。夢のご購入ですよね。」
妙子「そうなの。家には80歳の主人がいてね。いわゆる認知症になってるんだけど、最近、物忘れがひどくて、すっかり私の事を忘れてしまったみたいで、私の事は年寄りのヘルパーさんか何かだと思ってるのね。昔は仲の良い夫婦だったのよ。主人も私の事をとても大切に宝物でも扱うように愛してくれたわ。
でも、今は人が変わってしまった。
それは主人のせいじゃない、認知症と言う病気のせいだって分かってるけど、頭では分かってるけど、暴言や私の酷い扱いに心がついていかないの。
今回、こんなことしたって何も変わらないのわかってるけど、残り少ない命の主人に、せめて夢の中だけで良いから、若い時の私達を少しでも思い出してくれたら、夢を見てくれたら良いなって。
自分で言うのもお恥ずかしいけど、主人は私の事大好きでしたから、大好きな私の事少しでも思い出して欲しいなって。だって悲しいでしょ?大好きな人の事忘れちゃうなんて。」
梅子「分かりました。お二人のアルバムや思い出の品などございますか?
あと、お時間がございましたら、出会いやご結婚後のエピソードなど、お聞きしても宜しいですか?」
妙子「ええ。もちろんよ。」
妙子は二人のアルバム、写真をある限り持ってきた。
と言っても、そこまであるわけではなかった。色んなところに旅行に行ったりしたが、写真に撮るという行為はそんなにしなかったそうだ。
記憶の中にしかと留めていれば十分だと、思い出として心に残ってれば良いという考えの二人だったからと。
若い時はその思い出がすべて消え去ってしまうなんて、思いもよらなかったんだろう。
写真の中に写っているご主人とご婦人の見つめ合って微笑んでる写真は、二人とも自然な笑顔の中に照れもある、写真からでもお互いが愛おしい存在だと一目でわかる素敵なものだった。
その写真をうっすら涙を浮かべながら見つめ、お二人のエピソードをポツリポツリと語るご婦人を見ていたら、月日が経つ事、病気とはなんと残酷なものだと、現実の厳しさにギュッと胸が痛んだ。
1ヶ月後、私は山本様にメールを打っていた。
『お待たせ致しました。夢チップができたので、また御来店いただくのは大変そうだったので、郵送してお届け致しました。
ご利用方法など良くご確認の上ご使用ください。
この度はご購入ありがとうございました。
資料としてお預かりしたお写真なども同封しております。ご確認下さい。』
continue…
Dream バイバイ。10話目に続く。
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