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ローソンの「マチの本屋さん」は無書店自治体での書店経営を可能にできるか

 6月3日に埼玉県狭山市にオープンした「ローソン狭山南入曽店」。同店全280平米中70平米を本のスペースとした「マチの本屋さん」併設第1号店をじっくり視察した。形態をどうとらえるかによって、多分期待するものが変わってくるのだが、私はこのニュースがリリースされた際から、果たしてコンビニ経営の書店機能は「無書店自治体」を解消するメソッド足りえるのか?だけに注目してきた。

多分上記の無書店自治体での書店運営メソッドに注目した人はあまり存在しなかったであろうと推察する。書店経営者には、コンビニが書籍販売事業を拡げることを警戒し、且つ、それに日販が参画していることを苦々しく感じたであろうし、出版社は過去の事例はあるにせよ、今回のローソンの取り組みを通じて今までよりも信頼できる書籍の販売ルートになりうるか、に注目しているはずだ。そんな中でこの取り組みが「無書店自治体解消可能なメソッド」と期待している人間は、従来から「無書店自治体の解消(削減)」を考えている一部の酔狂な人間たちだけであろう。なので、ここに記す文章はあくまで「マチの本屋さん」を無書店自治体に持っていったらちゃんと経営できるくらいのスペックなのかどうか、のみにフォーカスを当てる。

1.「マチの本屋さん」1号店はどんなスペックか               

広さ約70平米、蔵書数9,000冊~10,000冊                見た限りではうちコミックが40%強、雑誌が30%、残り30%が単行本、といった構成になっている。単行本のジャンルは文庫・文芸・新書・実用書・児童書・ビジネス書だが、半分は文庫が占めている。まぁ、言ってみれば標準的な70平米くらいの書店の棚構成であろう。このテレビ朝日のニュース動画を見ればおおよその雰囲気はつかめると思う。

2.どうにも気になる点                       いろいろな記事やニュース映像から推測すると、ローソンは             ①おうち時間の増加に伴う利用増とついで買い促進                 ②書店機能目当ての顧客の取り込み(近隣コンビにとの差別化)                  ③競合のいない地域(無書店自治体や、書店の谷間地)での優位性の確保 であろうと思えるが、かなり店づくりとしては問題があるが、①②については多少の効果は得られる可能はある。但し③は今のスペックでは難しいと感じる。

南入曽店の棚構成を見ていると、やはり売れ筋(に近いもの)を数多く売りたい感が出ている。正直70平米の店舗にしては平積み、面出しが多すぎる。特に棚の中での面出しが多かった。あるタイトルは5面面出しされていた。9000冊前後という限られた蔵書数の中で、面出しを増やせば露出できるタイトル数は減るのは当然だ。と言うことは、この店は「これが売れてますよ」感を出してそのタイトルの回転数を上げることを意識しているように感じる。目指す先が上記①②であればそれでも何の問題もないし、多分その方が効率的だ。しかし、③の場合はそれでは顧客満足度は上げられないだろう。

3.無書店自治体では難しい  

南入曽店の書店機能の目指すところはどうやら無書店自治体向けとは別のメソッドであろう。それはそもそもなぜ無書店自治体が生まれたのかを紐解く必要がある。無書店自治体についての詳細な内容は次の投稿に譲るが、搔い摘むと、無書店自治体での書店を成り立たせるために持っていないといけない機能は「選択肢の広さ」である。南入曽店はついで買いを促進するために、売りやすいモノを集中的に配置して売れている感を出すことをメインにしている。そうすると自然と選択肢は狭まる。因ってこの形では例えローソンの目論む競合相手の居ない地域でも、書籍セグメントが収益に貢献するイメージが私にはまったくわかないのである。これでローソンが「無書店自治体での経営」をイメージしているとすれば、全く研究が足りていない、としか言いようがない。

4.まとめ

ローソンの「マチの本屋さん」は南入曽店の構造を見る限りでは無書店自治体での「持続可能な書店経営モデル」となるには少し荷が重いように感じる。理由は前述の通りだが、たまたま南入曽店の視察の際、このような顧客の反応に出会った。

ニュースを見たらしい、近所に住んでいるであろう老夫婦が「ここよ、テレビでやっていた本屋さんぽいコンビニって」と言いながら棚の近くにやってきた。奥さんは結構喜んでいたのだが、旦那はスペースを一瞥して「なんだコミックと雑誌ばかりじゃないか」と言ったっきりその場を離れ、コンビニスペースの方に行ったまま帰ってこなかった。

これは「ついで買い」を便利と考える奥さんと、「本を買う場所」として期待していた旦那との期待度の相違によるものであろうと思う。無書店自治体にこの形を持って行ったとき、どれだけの人が「ついで買いの場所」を期待するであろうか?多分「書店のない地域に久々にできた本を買える(選べる)スペース」を期待するのではないだろうか?であれば「マチの本屋さん」が無書店自治体のコンビニに機能追加した場合、多くの人が期待外れに終わる可能性が高いことを、この老夫婦の旦那の行動を見て思いを馳せざるを得なかった。

そしてもう一つ。コンビニの平米数の問題だ。南入曽店はコンビニの平均平米数が150~200と言う中で、280と大きめの店舗だ。そもそもこの平均より大きなスペースに「書店機能」を盛り込む予定でいたので対処が可能であったと思えるが、これを既存の店に機能追加した場合どうだろうか?平均的な平米数のコンビニの場合売れ筋の商品のスペースを割かなければこの書店スペースは捻出できない。回転率の高い日常品スペースを削ってまで書店スペースを確保するメリットがフランチャイジー側にあると言えるのだろうか?そう考えると新規出店以外は一定の平米数以上の店でないとなかなかこれは実現しないことになる。そうしたスペックのあるコンビニが果たして無書店自治体にどのくらい存在するのだろうか?

ローソンがこうした方向性を少しでも考えているのであれば、何も周辺にいくつか書店がある「狭山市」「入間市」の境界で1号店を出すのではなく、つくばみらい市(数少ない、市でありながら書店の無い自治体)あたりで顧客の反応を取りながら水平展開を検討しても良かったのではないか?と思える。そう考えるとそもそもこの「マチの本屋さん」なる事業においての「無書店自治体での運営」というワードは後から付け足したイメージアップ戦略ではないか、とすら思えてくるのである。

本のタッチポイントが増えることは良いことではあるが、むやみに増やすのではなく、持続可能モデルを増やしていかねば意味がない、とは言えないだろうか?







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