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無書店自治体考察① その成り立ちを考える

「ローソンの「マチの本屋さん」は無書店自治体での書店経営を可能にできるか」で、このままのスタイルでは適していないことを指摘した際、それは無書店自治体の成り立ちにある、ここでは割愛して追って投稿する旨記載した。

よってここでは無書店自治体について記載した上で、その解答を書こう。

1.無書店自治体問題との出会い

2017年、出版業界の取次「トーハン」が、全国の自治体で400以上書店の無い自治体がある、という調査をまとめた。それ以来この「無書店自治体」というワードが何かにつけて散見されるようになったのだが、意外とこれについて深堀して考えている、或いは調査している人は少ない。

この件は毎日新聞が2010年代前半に定期的に記事にしていた。私が初めてこの課題に遭遇したのが2014年ころだったと記憶している。その当時私は某大手印刷会社の子会社であり書店を経営している持ち株会社に在籍しており、仕事の内容は「親会社と書店店頭のシナジー効果を考え実行する」(と勝手に解釈していたが・・・)であった。故に「書店」についてかなり深く調査し、見て回り、いろいろな書店経営者の方々からお話を伺い、それなりの知見をため込んでいた。上司からは「この業界の未来像を予測してみなさい」と言われていた。

そんな時期に出会ったのが毎日新聞の記事。(結構探してみたが、その記事が見当たらない・・・)いろいろな書店の経営者とその話をしてみると、皆一様に興味を示す。では深堀してみるか、とアルメディアの「ブックストア全ガイド2013年」を片手に検証を開始した。

2.無書店自治体の現状調査(2013年資料による)

調べてみると、無書店自治体は2013年のデータで328。自治体数(都道府県は除く)1896(当時)の17.3%に当たる。一方でこの当時の無書店自治体の人口は、全国人口の1.7%。普通に考えれば人口が少ない場所=マーケットが小さい場所が無書店自治体となっている、と読み取れる。また、特徴としては北海道・福島・長野に無書店自治体が多く存在していた。これは単純に他の都府県に比べて市町村合併が進んでいなかったからに他ならない。このことは無書店自治体を考えるうえで重要な要素である。

またそれぞれの都道府県における無書店自治体に居住する人口の比率も確認したところ、前述の通り全国平均の比率が1.7%であるのに対し、明らかに率が高い(7%以上)の県が、秋田、山形、福島、長野、高知、沖縄であった。長野、福島は前述の通り無書店自治体数が多いから当然なのだが、他の県はそもそも書店の数が少ないと推測できた。

そしてこの時点ですでに広島市安芸区は書店が存在せず、市でも北海道歌志内市、鹿児島県垂水市、茨城県つくばみらい市が無書店自治体となっていた。歌志内市(3700人)と垂水市(16000人)は人口の減少が、そして広島市安芸区とつくばみらい市は周辺の自治体の書店に顧客が流れた結果、そこに書店がなくなった、と推察できた。

3.なぜ無書店自治体はできたのか

では今回のテーマ無書店自治体はなぜできたか。普通に考えれば「そのマーケットでは書店経営が持続できなくなった」であることは間違いないが、問題はなぜ持続できなくなったのか、である。2013年のデータでは無書店自治体328のうち、町村が324である。つまり無書店自治体の発生要因の殆どが人口の少ない場所での経営が難しくなったことにある。人口の減少している地域が無書店自治体化しやすいであろうことは推察できるが、それ以外の要素はないのか。2013年データを調べていて気付いたことがあった。それは町や村にはチェーン店が殆どないことだ。村は殆どなく、町は全体の20%強程度の割合でしかない。町村の書店は殆どが自営書店である。

人口減のほかの要素は①大店法改正②ネット書店隆盛③公共図書館指定管理の3つではないかと思う。大店法の改正により書店は「大規模店舗」の時代に入り、且つ、30万前後の中核都市へのナショナルチェーンの進出が相次いだ。大規模店舗の蔵書数に慣れるとどうしても坪数の小さな書店が「貧弱」に見えてしまう。身近な書店よりも少し離れていても大型書店を活用する比率が高くなることが、自営書店を厳しくする。

またアマゾンを代表とするネット書店の台頭は本の買い方を大きく変えた。自宅に居ながら大規模書店以上の在庫から本が買える。これで更に売り上げが減っていく。そしてここに電子書籍とネットでの情報流通が加わる。町の書店の売上の主力は、コミックと雑誌だ。コミックは既に電子が冊子の割合を超えた。また雑誌はネットの普及により、簡単にいろいろな情報を適宜とれるようになったことで、その役割を大きく変更せざるを得ず、且つ売上は右肩下がり。最盛期の30%前後まで落ち込んでいる。

そしてとどめが「公共図書館指定管理」だ。よく図書館は書店の業務を邪魔している、と言う意見がある。これは「地元の書店から図書館が本を買ってる」場合はあまり気にならないのだろうが、本は別のところ(TRC)から買う、売れ筋の本を複数冊以上新刊発売と同時に貸し出す、のでは、書店から見れば図書館は商売敵のようなものに映っても仕方あるまい。但しこれは無書店自治体の見地からみた図書館と書店の関係であって、すべてがそうではない、と一応フォローはしておこう。

本の選び方、買い方の変化と、売上減少が地域書店の経営悪化を招いた要因であろうと私は分析する。これを示す事例が、元さわや書店、田口幹人氏の著書「まちの本屋」にある。彼が最初に勤めていた第一書店の例だ。第一書店の廃業は①経営者の死②売上の減少、であると記している。売上の減少を分解すると①近隣に進出してきた大型書店の存在②ネット書店の登場で外商が減少③図書館納入での利益激減 だとしている。(但し田口氏自体は図書館納入での利益激減は地域のためには良い、と言う前提である)これは私の考える要因と全く一致している。(私は環境要因から導き出したものであるが、田口氏は実体験からのものであるので、当然田口氏の指摘の方が信憑性が高いことは言うまでもない) 

第一書店は盛岡市という現在でも書店のある地域ではあるが、書店が廃業してくプロセスは他のエリアでも大差ないであろう。

4.未来予想

実は2013年データで無書店自治体の実態を調査分析した時にもう一つ作業をしていた。「近未来の無書店自治体の予測」である。その当時の無書店自治体の成り立ちを考えた時に、今後無書店自治体になりうる自治体は①ナショナルチェーン、リージョナルチェーンが存在しない 且つ ②その自治体に残っている書店数が3以下 という条件に合致している自治体数をピックアップしてみたところ、811の自治体がそれに当てはまった(その当時すでに書店の無かった328自治体含む)。これは全自治体の約43%になる。但し人口比率では7.1%である。

更に注目したのは町は77%、村は96%が無書店自治体と化し、さらに市も60近くそうなる可能性がある、との結果となったことだ。2015年くらいまでが無書店自治体化第1期(人口の少ない自治体の無書店化)であったが、予測したのは第2期(書店業界全体の縮小化)で、今まで以上に書店の無い地域が飛躍的に伸びる時期であると考えた。その中で大都市圏周辺の市の無書店化が促進される(札幌、仙台、福岡周辺)との予測に至った。

2017年にトーハンの発表した数字は私の予測よりもはるかに少ない数字であった(440)。但しこれは早いか遅いかだけの違いではないかと分析しているし、2014年当時予想していなかったTSUTAYA FC店の大量閉店、相次ぐリージョナルチェーンの経営破綻があり、これは私の未来予測の分析方式が正しくなかった(条件が甘すぎた)ことを裏付けている。つまり私の予測よりも更に多くの自治体で無書店化する可能性を秘めている、と言うことだ。

5.平成の大合併の罠

無書店自治体、と括ってしまうのは果たして正解か?と言えばそうでもない。要は「生活圏内に書店が存在しない」ことを問題にしているのであって、その簡単な指標が「自治体」という括りになっているだけだ。前述の通り2013年資料を使っての調査で無書店自治体数が多いのは北海道・福島・長野である。これはこの3道県が他の都府県に比べあまり自治体の合併が進まなかったことに要因がある。平成の大合併でそれぞれの自治体の面積は大きくなった。と言うことは生活圏で見ると同じ自治体に書店があっても、そこの住人すべての生活圏内であるとは限らない。静岡県浜松市。福島県いわき市。双方とも自治体に書店はあるが、巨大な面積を持つ市の双璧だ。浜松市の長野県境の地域に住む人たちの生活圏内に書店はない。しかし浜松市で見ると書店はある。つまりこの自治体で括った数字の場合、この人たちは抜け落ちていくわけだ。この辺りは今後の大きな課題である。

6.なぜ私がこの課題に着目したのか?

前出の田口幹人氏とは一緒に酒席を囲む機会が多いのだが、この「まちの本屋」が出版された頃はそういった関係ではなく、初めてじっくりお話した際に私は「正直、このくだりはいたたまれなくなった」と白状している。それは「まちの本屋」で記述されている具体的な書店名、企業名の双方にその当時在籍していた会社が関わっていたからである・・・これは田口氏の著作で指摘される前から分かっていたことで、私の所属していた会社はある意味他の書店の敵であるが、その状況の中で他の書店さんとも一定の協調をしながら新しい書店の形を見出していくことが勝手に自分に課せられたミッションであると信じていた。だからこそこの無書店自治体の解消に取り組むことはひいては会社の戦略を助けることになろう、と考えたからだ。つまり、バランスだ。

7.ローソンの「マチの本屋さん」が難しい理由

ローソンの「マチの本屋さん」が無書店自治体での持続的モデルにならないと断言したのは、前述の通り、無書店自治体に存在していた書店が閉店した理由にある。要は小さいスペックの書店では満足できないから売上が下がった。(但し理由はそれだけではない) 無書店自治体で持続的に書店を経営するためには、アマゾン等のネット書店や、近隣にある大型書店に対抗できるようなものでなければ、且つて存在した書店の二の舞になる。ついでに買える、程度のコンセプトではだめなのである。蔵書数が場所の制約で小さくなるのであれば、より顧客に喜ばれる棚づくりをしないといけないはずだ。

とは言え、それが正解である証左などどこにもないし、店頭での書籍雑誌販売だけで黒字化できている書店などもはや日本には存在しないと言っても過言ではない状況で、単に品ぞろえを良くしただけで黒字化するなど困難極まりないことも、多くの事例を見ていればわかることである。蔵書数を増やせばそれだけ家賃が掛かる。尚且つ在庫の無い本はアマゾンより早く届かなければ魅力がない。これを解決する手立ては「刷って 集めて 撒く」現在の書籍流通の手法ではかなり困難である、

ではどうしたら無書店自治体で持続可能な書店経営ができるのか?

一定の方向性は作り上げているが、ちょっと長くなるので今後の投稿でまとめたい。


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