見出し画像

幻想の水面

せせらぐ 川の流れに身を浸す
心穏やかな 時雨に降られて 送り出す

あなたの背中に 施しの合図
ただ静かに 流れ行く 飛跡に辿りし
笑顔のままの 綻ぶ声は 交わる唇の徴

遠浅の沖へ 流れ着く 満開の花々
掠れた砂地の文字 それは浅はかな指先の戯れ

揺蕩う 木の葉 さざめく蒼穹は 風に煽られ
風光を散らす 星々の犇めく 幽玄の刻を奏でながら
それは優しい声で 囁きかけてくれるから

煌々と爆ぜる 火粉 今に心覆い尽くされる瞬間
渦巻く焰 揺らめく記憶に 鼓動が沁み入る
それは幻想の水面 揺ら揺られ 綻び行く 心

沈み行く彩光に揺られ 解かれてしまう
記憶の像に 幾重にも重なり合う 唇の寂寞を

包み込みたい 仄かな吐息を感じながら
月明かりの中で抱き締めてあげる

もう既に この手には 何も無くて
零れ堕ちる声 あなたは何処へ行ったの?
涙は溢れ 静寂の泉に射す明かりが寂しくて

声を押し殺して すすり泣く時 流れた泪は
枯れた樹木に沿って 無尽の闇へと 滴り落ちるから

あの夜空の赴くままに 深く呼吸して
あなたの影を捜す せめて触れさせて欲しいと
何処までも 落ちて 遥か永遠を行く

仄暗く 可憐な花々に 蒼き月の光は注ぐ
淑やかな風を舐める 心 震え
沁み渡りし 静寂の薫りを感じながら

煌めく夜露に 麗しき 花弁の絢爛
降り頻る 流星に濡れた 紅い唇が
尊し生命の詩を奏でるから ただ 寂しくて

それは揺られし 幻想の水面
残り僅かな時間を遡る 小舟に乗りながら
今宵も更けゆく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?