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日記/いたち

日記


 2月16日

 漫画。ノイズだらけのBluetoothレシーバーをヨドバシに返品しにいったが、どこも壊れていなかった為返品できず。4,000円損した。

 2月17日

 秋に始めようとしている新連載の準備のため石川県へ取材へ行った。

 自分はこれまで、善い編集者の人といつも仕事することができたが、今回の人も熱心な人で、連載する雑誌を探してくれたり、資料を送ってくださったり、地方まで取材に同行してくださるので頼もしい。過去に新井英樹さんの『キーチ!』や『ザ・ワールド・イズ・マイン』を担当していたそうである。

 『ザ・ワールド・イズ・マイン』は、確か中学三年の年末年始に、第一巻を抹香臭い祖母の家のこたつで読んだ記憶がある。
 極端にスケールの大きい話を人物描写から田舎の民家からアメリカのホワイトハウスまで、やたらに緻密に描く途轍もなさに、漫画家は面倒くさい仕事やな。とその時は人ごとのように思っていた。

 2月18日

 朝、天井裏の害獣対策のため、大家さんと大工さんに2階を下見してもらう。
 ハクビシンかと思っていたが、イタチらしい。これがまたしつこくて、音を出して追いかけ回してもしばらくすると同じ所へ戻ってくる。これがイタチごっこの語源かと分かった。

 漫画はネームを描いた直後は自信があるが、月末になると、自分の描いたネームが面白いのか面白くないのかもう分からなくなっている。

 『マーラー』の伝記映画は、小屋が爆発したり、パンクスみたいなナチスが出てきたり、無茶苦茶ヘンな映画だったような記憶がある。最近また興味が出てきて、LPのマーラーの交響曲全集を5,000円で買ったら、盤が綺麗で音質も良くて当たりだった。

 2月19日

 低気圧でやる気も無く、投げやりな感じだったがペン入れした。1ページ描いた。
 妻が電子ピアノでヘンデルの『サラバンド』を練習している。

 USJのハリーポッターエリアでは、あるポイントに立って杖を指示通りに振ると、箱が開いたり雪が降ってきたり、魔法が使えるそうである。その場所で何年も終日、杖を振る常連と呼ばれる人達がいるというXの投稿を見た。
 別にルール違反という訳でも無いのだろうが、独自の立ち位置から、独自の杖の振り方で魔法を使うなどしてギャラリーから多少の喝采を得ると、また列に並びなおして魔法をかけ続けるそうである。その人たちの態度がどうか。という投稿だった。
 調べると本当にどの動画にも同じおっさんが映っていて笑ったが少し哀しい。自分もいずれそうなるかも知れない。自分はそこに物語の萌芽を見つけた。

 屈託のあるおっさんは常に居場所を求めている。大学のとき文化祭で、知らない街から知らないおっさんがきて、ゼミ誌を売っている文芸学科の学生に「いまの文学はね、もう全くダメ。源氏物語の足下にも及ばない。源氏物語を読みなさい」と一方的に喋って去っていく奴がいた。
 高校の時、帰り道に方向が同じ女子と電車に乗っていたら、ドレッドヘアーにサングラスのおっさんが「夢はなんだい」と話しかけてきた。「漫画家になりたいです」と返したら「バクマン。を読みなさいバクマン。を」と言って去っていった。
 本当に全く何の役にもたたぬアドバイスだったが、あの人もやはり何かしらの屈託を抱えていただろう。もしかしたら単に女子高生と話したかっただけかも知れない。

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