ころやろう #第1回呆然戯曲賞自由

タイトル:『ころやろう』

作:雪つららきの


*****


『嵐の夜に』前説 

シェイクスピア演劇みたいにおおげさな演説

奈古 ピエロの日村入ってくる

奈古:さぁさぁ、紳士淑女の諸君、今日は良くぞお集まりいただいた!皆様にはこの束の間の夢をとくとお楽しみいただきたい!

日村:ようこそ、キャッスルガーデンへ!このロクデナシのみなさん!

奈古:バカ、このピエロ、大切なカモ…じゃなかったお客さまになんてこというんだぁ!このバカピエロ、謝れぃ!

日村:切腹(真似)ピエロは切ったり焼いたり笑ったり、ごめんねそうろう

奈古:なんて愚かなピエロでしょうか?皆様、どうぞご慈悲をよろしくお願い申し上げます。

日村:終わった後にはお金もよろしく、今日は投げ銭だから、お財布を軽くして帰るといいよ。

奈古:バカ、もっとオブラートに包めよ。でもその通り、我々はか弱い河原乞食。このご時世何かと大変なこの稼業、皆様からもたくさんの皆様ご慈悲を頂戴したく存じます。また皆様からいただいた、半分は我々と同じく飢えたるご同業のために、芸術支援財源に寄付いたします。どうかご慈悲を

日村:客からむしりとりたい、この守銭奴!

奈古:とんでもない、皆様とも喜びを分かち合いたいだけ、苦しみを分かち減らしたいだけでございます。公演中の撮影もお控えいただくようにおねがいします。またお撮りになったものも、ほかのお客様や役者を配慮しまして、顔が映っているSNS等の発信をお控えください。やれやれいやな世の中になったものでございます。こうやってお芝居なぞに興じるのも貴族の遊びより敷居の高いものとなりました

日村:悪いことはひっそりやるからゾクゾク愉しみが重くなるんだ

奈古:その通り、このような空き地で誰にも知られない秘密の宴、本日の演目は3つ小さな小さなお話。我々と一緒に暫しお話の国へといざやいざ、迷いこみましょう.

日村:ピエロが口を聞いたら始まりだ、ころやろうーはじまりだー(二人とも抜ける)

(この後スタッフ普通前説します。確認程度に)

『嵐の夜に』第一幕

   日村公演の片付けをしている。咳をしている日村、奈古入ってくる。

奈古:お疲れさんペテルブルグー

日村:おつかれさまです

奈古:スルーすんなよー。おい見てみろよ(革袋、お金)今日の客ちょろいわー(客いじり)(真顔)神の御恵みお恵み、アーメン(崩す)やめれまへんなー

日村:俺、やめたいんですけど

奈古:やめる・・・日村―、お前やめてどうすんの?なんかあてでもあんのか?

日村:でも、このご時世に、やっぱり、不謹慎ですよ

奈古:不謹慎?どの口がいうのかな?ピエロの口から不謹慎へぇーへーへー。お前が不謹慎だったからいろいろ書かれて、俺が拾ってやったんだろ!そうだろがぃ!

日村:はい

奈古:じゃあ、黙っとき!…黙ってニコニコしてたらええねん、な、せやろ、日村ちゃん。

日村:(無言でそっぽむくはけ口へ向かう)

奈古:(朗らかに投げかける)殺人鬼!

日村:(固まる)

奈古:(はけ口へ向かう日村を追い越し)明日も頑張ってな。(振り向かずはける)

  ハナ突然現れる

ハナ…あなたは誰
日村…君は…誰だい?
ハナ…私はハナ
日村…(微妙な間)私はピエロ
ハナ…違うわ、それなら私は人間で子供
日村…なるほど。君は幼いのにさかしいね。
ハナ…さか?
日村…賢いねってこと
ハナ…きっと、違うわ。それなら初めから賢いと言えばすむじゃない?
日村…なるほどなるほど。ますますさか…賢い。いや。本当に賢いんだね。
ハナ…違うわ。だって誰も私を賢いって言ってくれないもの。
日村…誰も。そんなことはない誰だって君のことを賢いって言うに決まっているさ
ハナ…それも違うわ。お父さんもお母さんも。大人は私を賢いなんて一度も言ってくれなかった。
日村…お友達はどうだい?
ハナ…お友達はいない。
日村…いない!それはいけない。お友達はたくさん作る方がいい。人生が豊かになるんだよ。芳醇なワインのようにより深みを増すんだよ。
ハナ…あなたはいるの、お友達?

日村…HAHAHA、ピエロにお友達なんていない。いつも広場で手を振ったりおどけたりして。そして気に入った子を探しているんだ。そして気に入った子がいれば自分の住んでいる、暗くて怖いところへ連れていってしまうんだよ。そこは寂しくてとても寒いところだ。息も苦しい。そして外に出ることは許されない。どうだいピエロは怖くなったかい?だったらさっさとお帰り。パパとママのところへ。家から無闇にでちゃいけない。外には怖いピエロがいるんだから。

ハナ…それも違うわ。私は子供だけど、本当のことを知っているの。ね、私がお友達になってあげようか?

キンソン 場転 時間経過


日村:出た!

ハナ:失礼ね。人を妖怪みたいに言わないで

日村:妖怪ならどんなにいいことか、さめざめ

ハナ:失礼ね。今日は何して遊ぶ

日村:じゃんけんだ

ハナ:だめよ、一回きりで終わっちゃうじゃない

日村:だからいいんだよ。

ハナ:そんなに私と遊ぶのは嫌?

日村:嫌だよ

ハナ:失礼ね。

日村:君もね。

ハナ:もう知らない!

(ハナ出ていく)

奈古:今?誰かとはなしてたか?

日村:いや、子供が、

奈古:どこのこだ?

日村:いやぁ、近所の子が紛れ込んだのかな?座敷童かな?都市伝説、こわ!

奈古:座敷童か…俺の実家のほうでは見たやつは幸せになれるらしいぜ。

子供なんて見に来てりゃすぐ解るだろうが!まぁ、俺たちなんかとは仲良くしちゃ

いけねぇんだろうな。

日村:そうですよね

奈古:…でも、ふーむ(考え込む)

日村:奈古さん?

奈古:おい、日村、仲良くしてやんな

日村:あの子と。

奈古:仲良くするってのはいいことじゃないか?いつから悪いことになった?

日村:いやでも、よくないんじゃないですか?

奈古:ここに出てきてるんだ。本人も家の中じゃ退屈なんだろ、遊んでやりな。

ピエロの出番じゃねぇか?俺たちに興味があるんだよ。

日村:あんな小さい子まで巻き込むつもりですか?

奈古:ここらでバーンといかねぇか!だんまりピエロなんて流行らねぇぞ!

日村:それって

奈古:ゲリラだよ。こそこそこんな空き地でいつまでも…

(二人はける)

ハナ:誰もいない…(三角座り)一人なら歌ってもいいんだよね

   ZARD『負けないで』 二番サビ 歌う

日村:古い歌を知ってるね

ハナ:おうちでよく歌ってるの、おばあちゃんから教えてもらった

日村:そうかい、ハナちゃん何して遊ぶ

ハナ:戦争ごっこ

日村:物騒だから駄目だね

ハナ:お相撲

日村:危ないから駄目だ

ハナ:ママゴト

日村:近すぎなければいいよ、間違ってぶつかったら危険だから

ハナ:お料理しているお姉さん役ね

日村:作ったものは自分で食べな、泥団子は御免だね

ハナ:ピエロさんは何やりたい?お父さん?

日村:車で遠くのパチンコへー

ハナ:お兄ちゃん

日村:は、受験勉強のため部屋でオンライン授業中

ハナ:えー…お母さんは

日村:薬局とーとスーパーとへ長い列に並びに・・・

ハナ:何なの!もう!

日村:もうもう泣くと牛になっちゃうよ!

ハナ:嘘!

日村:ほんとさ

ハナ:じゃあ言わない!

日村:そうだろ?

ハナ:牛は牛乳とお肉とハンバーグとハムになるんだ!だから牛なんて嫌だ!それじゃあカラオケ選手権やろ!

日村:よく知ってるね、君は本当に賢くて物知りだ!

ハナ:そう?

日村:そうだよ

ハナ、ポケットから、スマホを取り出す

ハナ:お母さん…もしもし…ごめんなさい。え、だれもいないよ。ほんと。広いから一人で歌ってるの。ここはぽっかりお空が見えて気持ちいの。誰にも会わなかったよ。ちゃんとお手ても洗うし、おうがいもするから。…うん。わかった。ごめんなさい。帰るから。ごめんなさい…(切る 笑顔)何して遊ぶ!

日村:怖いね、最近の子供の闇を垣間みたよ。

ハナ:私は難しくて通話しかできないって振りしてるから任せといて!

日村:夜の仕事で活躍しそうだよ。どうしてそんなにおうち帰りたくないの?

ハナ:私はどうしておうちにいなくちゃダメなの?

日村:家は安全だからだよ、みんながそう言ってるよ

ハナ:みんなって誰

日村:みんなはみんな

ハナ:それは誰

日村:テレビに出てる有名な人はみんないってる

ハナ:外に出るとどうなるの

日村:仕事を首になって殺人鬼になっちゃうんだよ、おじさんみたいにね…

ハナ:殺人鬼

日村:そう

ハナ:誰かを殺したことあるの

日村:ないよ…ないんだ

ハナ:じゃあ違うわね。

日村:誰かを殺してしまったことがあるのかもしれない

ハナ:それは歩いているときにアリさんを知らず知らず踏んでしまうことと同じこと?

日村:え・・・あ、いあや…人の命と虫の命を一緒にするのはよくないよ

ハナ:命に違いはあるの?

日村:ないよ。だから全部大切にしなければならないんだ

ハナ:でも、あなたはアリを踏んでたんでしょ?

日村:お外に出れば、アリさんを踏んじゃうこともあるんだよ

ハナ:踏んじゃったの…命って何?

日村:それでも、ご飯を食べて、お布団で寝て、みんなで笑ってられるってことさ

ハナ:みんなって誰?お父さん?お母さん?

日村:そうだよ。あと牛さんもありさんもお友達も

ハナ:お友達?

(スマホを見る)

日村:そうだよ。みんなお仲間、カンパニーだからこの舞台で踊ったり歌ったり、怒ったり、泣いたり、最後は仲直りして、お辞儀をするんだ。

ハナ:カンパニー? 

カーテンコール的 音楽二人演技調ではける  

第2幕『ちょっぴ』

1現在①

オペ卓に並ぶ二人が急に話し出す、舞台を見下ろしながら操作している

雪枝…いま、ミスった
辰治…すまん
雪枝…テクリハで確認したじゃん
辰治…(探しながら)メモどっかいったんだ
雪枝…はぁ?

辰治…バタバタしてただろ、リハの返し稽古、あのシーン何回やるんだってーの、見飽きたわ

雪枝…あのアンパン出てくるとこ?

辰治…そう、父親がいまから出ていくところ。父親として娘への愛情が出てないって…いまさらリハで言うなよな。稽古、しかも初期の方で言えよ。あの演出大丈夫か?そもそもなんであのシーンにピンスポなんだ?あざとすぎて客、絶対ついてこねぇぞ!?

雪枝…あのシーンに、あんなポップなアニソン流すのよ、自分でラジカセ出してきて。あの父親もうそれだけで悲劇ね。あの演出相当イカれてるのよ。父親が娘への愛情って表現長く苦しい稽古の間、暗中模索してきた長い道のなれの果てが、さっきのアレ。

辰治…で、今さらリテイクの乱舞、か
雪枝…こっから死角でラジカセ押すタイミングみえねーつっーの
辰治…あのシーンで大袈裟には押せないしな、再生ボタン…
役者声①…ほんとにわかってない…また明日…
雪枝…ほら、切っ掛け台詞!
辰治…お!
《ハデな明かりがチカチカしまくる》
雪枝…《横見る》ちょ、暗転よ?

辰治…え?

役者声①…私はそのあと彼女にずっと言えなかった、悲しみの果てに私は心が私の中から抜け出ていったように、その心を探し求め、この暗闇の一本道を一人で歩いていった…引き返せずに・・・

雪枝…暗転だって!

辰治…(メモ見せる)でも、メモ、ほら

雪枝…ページ間違えてるって

辰治…《台本見せる》うそ、でも8ページ

雪枝…《台本を確認》え、、、、!辰治、あんた、これ一本前の台本!

辰治…《台本引き取る》マジで!?

雪枝…ほら、暗転の中で親友の心の呟きが聞こえるシーンよ

辰治…なんだよ、この劇団何回台本差し替えんだよ!

雪枝…ごたくはいいの、暗転しないと、なんか、ネオン街をさ迷う擦りきれた女みたいになってるわ、あのコ

辰治…お、それはそれで味わいがあるんじゃないの?

雪枝…あの役、中学生よ、やさぐれすぎでしょ

辰治…最近の芝居はそういうところがいかん。ほんと、軟弱なんだよな

雪枝…このコ、このあとのシーン最後までないのよ、このままだとネオン街に身を沈めた少女になっちゃうわ。

辰治…ふむ、スポットの当たらない現代社会の闇に切り込んだ感じになるんだな

雪枝…ならないわよ。なんでこんな学園エンタメ風コメディで泥のように風俗に落ちていく、未成年の話いれんのよ?それこそ、客がついてこないわ!

辰治…よし、ナレーションいれてやろう。友情という濃く儚い糸が切れた少女の堕ちていく姿は、太宰が描けなかったその後のカンダタを描くようかのようであった、マイクある?《手をクイクイ》

雪枝…やめーい、太宰入ってくんな!戻ってこれんくなるだろ!
辰治…えー太宰好きなのにー
雪枝…知ってるよ!いまじゃないよ!
演出…切りまーす!ちょっと!?スタッフさーん?照明さーん!
辰・雪…すいませーん

2回想①

教室・窓際で話す二人  音響・チャイム

志水・予鈴はやーい、次、教室どこだった?
四宮・英語だからココ
志水・あ、じゃ、大丈夫か。で、バドミントン部には入らないのか?
四宮・うん。運動部は無理かな。お店の手伝いあるから、練習忙しいところはちょっと。
志水・でも、あの先輩、絶対アンタ狙ってるぞ。
四宮・狙ってる?私、初心者なのに?
志水・そうじゃないだろ。もう、アンタ高校生よ、しっかりしろ!
四宮・しっかり!《ピンと背筋伸ばす》どう?《ドヤ顔》
志水・《首をふる》なんでアンタがモテるんだ?
四宮・顔?《首を傾ける》
志水・まぁ、中の下から中くらいか
四宮・バカッ!《ビンタ》
志水・《倒れる》暴力はやめろ。ここは、『もうっバカッ!指でコツン』くらいでしょ?ビンタて、顔ビンタはないわ
四宮・酷いことを言うからよ、友達とはいえね。
志水・酷いことって…私は事実を、いや、むしろ少し優しさを加えてあげた・・・
四宮・死ねっ!《なぐりかかる》
志水・《間一髪かわす》明らかな殺意だよね、いまの!?でも、客観的に見ても私の方がカワイイ?
四宮・とどめ!!《近くのホウキを降り下ろす》
志水・《間一髪かわす、顔をカスったリアクション》ごめん、私が言い過ぎたわ。
四宮・解ってくれればいいのよ、うふふ
志水・友達いなくなるぞ、そのうち。で、部活は入らないのか?
四宮・うん。
《扉が開く音、立浪教室に入ってくる》
立浪・いた!《手持ちのラジカセ鳴らす、いい感じのクラシック》
志水・なに?
《立浪、近づいてくる、四宮の前に立つ》
立浪・君名前は
四宮・四宮ゆ…
立浪・四宮さん!
四宮・はいっ!?
立浪・僕の舞台に出てくれないか?
四宮・え?
志水・アンタ、いきなり?えっと、誰?
立浪・二年生の立浪辰治っていうんだ。演劇部で台本と演出を担当している。はじめまして
四宮・はじめまして
立浪・君に一目惚れした。

志水・一目惚れ!?
立浪・是非、ヒロインをやってほしい。僕のアイディアにピッタシカンカンなんだ
志水・カンカン?
四宮・でも、私、お芝居なんて、経験者じゃなんで
立浪・大丈夫!君の幕は上がる!舞台はおどる!

3現在②

《オペ卓の二人と演出》

演出…気を付けてくださいね。役者も気ぃたってますから。
辰治…すいません
 演出はける
雪枝…ゲネプロだからよかったものの
辰治…悪い悪い
雪枝…プロとして仕事してちょうだいね
辰治…はい
演出声…ほなはじめよか、役者OK?
役者声①②…はい!
演出声…スタッフさんは?
雪枝…OKです!
演出声…3、2、1…

役者声①…月に向かってとびたつのよー

役者声②…月に、意味わからん

役者声①…この鞄かわいいーあ、あれもー

役者声②…話を聞けって、月って?おまえ本当に友達なくすぞ
辰治…はぁ…
雪枝…(乾いた声)照明さん集中してくださーい。
辰治…してまーす、音響さーん
雪枝…もうすぐ切っ掛け
辰治…音響先行だっけ
雪枝…フェードアウトに合わして照明換え
辰治…はいはい、ん?
役者声②…メタボーグ?本当にそれであってんの?
雪枝…たぶんセリフ飛ばした、二行あと
辰治…ありがとう
役者声①…こういうことでもしないと流行らないんだって、インパクト重視!
雪枝…音響さげまーす
辰治…クロスフェードしまーす
雪枝…ひどい役者ね、あのコ
辰治…でもかわいいから
雪枝…顔が良かったらなんでもいいの?
辰治…カワイイは正義、カッコいいは暴力だよ
雪枝…なによそれ
辰治…説得力あるの、それだけで。魅力的なんだよ。
雪枝…結局顔か…
辰治…まぁ、トータルじゃないの?
雪枝…ふぅーん
辰治…なんだよ
雪枝…別に
辰治…いつぶりだっけかな?
雪枝…何が
辰治…お前と話をするの
雪枝…前は、去年の2月、京都であった学生劇団のオペよ。あんた、あの数の仕込みに何時間かけてるのよってやつよ
辰治…あぁ、あれは、演出と舞台監督のプランが定まらなかったからだろ。学生劇団あるあるだな。
雪枝…そこをフォローしてなんぼでしょ、お金貰ってるんだから
辰治…ボランティアみたいな額だよ
雪枝…1円でももらえば仕事なんだって誰かさんから習いましたけどね
辰治…その誰かさんから、そういう調整やフォローも舞台監督の仕事のうちだって習わなかったかな?
雪枝…じゃ、アンタが舞監やればいいじゃない!

辰治…何怒ってんだよ、照明で雇われてるんだから、舞監はあのオッサンがしっかりやればよかったんだろ。若い女の子に囲まれてデレデレしてるだけじゃねぇな。あのオヤジ!

雪枝…つぎ、暗転!
辰治…あ、はーい、暗てーん。
役者声②・俺は、ほんとは、好きなままだったんだ。でもわかんなくなったって
辰治…臭いねぇ
雪枝…まるで、誰かさんの台本みたいね
辰治…俺はそんなこと書かねぇよ?
雪枝…へぇ…
辰治…なんだよ
雪枝…昔は書いてたんだけどな
辰治…書いてねぇよ!

役者声①・嘘つき!
雪枝…ピンスポ
辰治…解ってるよ!
役者声①…また明日!
 カーテンコール流れる 
役者声②…本日は劇団赤鹿、第三回公演ウグイスもカワズに…
演出声…はい!切りまーす!少し役者にダメ出しあるんで、スタッフさんちょっと待機でー
辰・雪…はーい
雪枝…あそこ潰れるんだって
辰治…まじで!?あの劇団学生劇団でも老舗だろ?
雪枝…違うわよ、劇場
辰治…うそ!
雪枝…ほんと
辰治…どんどんなくなっていくんだな、小屋。演劇業界はこの煽りをモロに食らうなー
雪枝…ただでさえお芝居なんて儲からないのにね。お客さんも来るのを躊躇するらしいし。
辰治…わかるんだけど、なんか、思い出の場所が潰されていくのは悲しいな
雪枝…あんたはさ、もう、やらないの?
辰治…何を?
雪枝…お芝居

4回想②

舞台ロビー、立浪座ってる、四宮衣装で入ってくる

立浪…お疲れ様
四宮…お疲れ様でした
立浪…どうだった、初学外公演
四宮…学校の舞台でしかやったことなかったから…本当に大変ね、外でやるのって
立浪…大学生になったって感じ、かな。
四宮…うん。これが小劇場ってやつなのね。
立浪…ここは本当小さいからまだ楽なんだよ。京都で一番小さな小劇場。あの舞監さん言ってたよ
四宮…あの舞台監督さん…

立浪…あれ、うちのOBなんだって。今はプロの劇団とかにも仕事にいってるんだって言ってたよ。まぁ、その割りには、指示ミスとか確認ミス気になったんだけどな…

四宮…へぇ、そうなんだ…

立浪…どうかした?

四宮…いえ、その、ちょっぴり近いの、あの人、距離感というか、その、馴れ馴れしいというか

立浪…あのオッサン!

四宮…いや、大丈夫、ちゃんと言っといたから・・・死ね、ハゲって。

立浪…ははっ、そうか…え、死ね?ハゲ?先輩だから穏便にしてくれよー

四宮…安心して。追い討ちはかけなかったから

立浪…あぁー…そう。高校時代の君を思い出したよ

四宮…あなたが舞台なんてものを教えたのよ

立浪…忘れたな

四宮…君しかいないとかなんとか

立浪…忘れたよ。そんな僕を追いかけてくれたのかい?《四宮小道具の剣を抜く》なんでもございません、ご容赦を…

四宮…それで、大事な話って

立浪…野々村さんから話があって

四宮…さっき紹介してくれたお客さん?

立浪…そう。学生演劇祭の審査員もやってて、そのつながりなんだけど、君、外部に出ない?

四宮…どういうこと

立浪…あの人、劇団3月会ってとこの人なんだけど、今度のヒロイン探してるらしいんだ。で、君にって、どう?

四宮…どう…って

立浪…おめでとう!ステップアップだよ。3月会って今関西小劇場では一番人気、テレビに出てる人も事務所に所属して人もわんさかいるんだ!チャンスだよ!

四宮…いや、急に言われても…ほら、どんなお芝居をするのかも知らないし

立浪…若いうちにガツガツ行かないとダメだって!チャンスの女神は後ろ髪がないんだ。あと一輪車に乗って秒速300メーターくらい走り抜けるという説がある!

四宮…どんな説よ?それならそもそも前髪もつかめないんだけど

立浪…とにかく、受けよう、ステップアップだから

四宮…どうして私なの

立浪…顔?…じゃないよな・・・若さ、なのかな…《四宮剣を首にトントン》少しふざけてみただけです、お茶目な私にどうか御慈悲を

四宮…あなたは、それがいい…と思うの?

立浪…あ、あぁ、うん。羨ましいなぁとは思うけど。君は俺が見込んだ女優だ!大丈夫、君のために、幕は上がる、舞台は踊る!

5現実③

タバコ休憩

雪枝…なによ?
辰治…やっぱ吸うんだなぁーって
雪枝…前の現場でも吸ってたでしょ?
辰治…あぁ、衝撃的だったよ。ただ、前は突っ込むどころじゃなかったもんな
雪枝…そうね。ずっと修羅場だったっけね。
辰治…舞監さんもいたし
雪枝…あぁ、アレね
辰治…お前に気に入られようと下心丸見え
雪枝…あのあと飲みにも誘われたわよ
辰治…あ、誘われたてたなー
雪枝…他人事みたいに
辰治…他人事ですからー
     沈黙
雪枝…お芝居やらないの?
辰治…ほら、やってんじゃん?こうやって俺とお前の夫婦漫才《雪枝タバコを近づける》

あつっ!冗談くらい乗れよ、もう幾つだよ。
雪枝…あんたの一個下よ《蹴り》
辰治…グッ!もう。私はしがないフリーの照明ですが、ちゃんとこうやって生きてますよ、  

お芝居しながら…でも、もう厳しいかぁ…
雪枝…もう本は書かないの?

辰治…いまさら拗らせ乙女のなんとかも流行らんだろ、この芝居みたいなやつ。でも太宰や「ペスト」って感じでもなんだよな、このご時世不謹慎だっていわれそうだし…

雪枝…ふーん…書かないの?
《沈黙》

辰治…もう書けないの…てか、そもそも書けなかったの。才能なんて欠片もなかったの、はじめから

雪枝…私は

(入ってくる演出)

演出…おつかれさんです

二人…お疲れ様でーす
《タバコ無言》

演出…・・・本番はしっかりやってくださいね

辰治…は?

演出…照明だいぶミス多いんですけど

辰治…っと、すいません

演出…一応お金出してますからな、プロでしょ?一応?フリーでも?

辰治……すいません

演出…音響さんはエェ感じで助かりますわ、バッチグー

雪枝…どうも

演出…どうです?今度大阪で再演するんです。また雇われてくれませんか?

雪枝…あ、ありがとうございます。また、改めて正式にオファーいただけましたら、スケジュール確認させて返事させていただきます。

演出…《雪枝にタッチ》固いこと言わんと、そこは行きます!でエェねんて。若いうちはチャンスにガツガツせんとあかんでぇー、雪枝ちゃん、フリーは繋いで繋いで繋いでいかんとー?なぁ?チャンスに後ろ髪はない言うからなー

雪枝…らしいですね、前向きに考えさせてもらいます

演出…ほんま、ありがとう。あ、ついでに、今度一回飲みに行こか?な、えぇやろ?

雪枝…あんまり、お酒の席は苦手で

演出…そんな、言うて。美味しい店紹介するからー、な、一回だけ、かるーく行こ!な?な?

辰治…あの、あんまりしつこいのは

演出…役ただずは引っ込んどり!金もらって仕事できんのにプロ面しな

辰治…あ、すいません

雪枝…解りました、食事も前向きに検討させてもらいます

演出…ほんま?ありがとうな。いついくスケ合わせるわー《スマホ確認》あ、もう

ぼちぼち時間か、細かいことはまたあとでな、雪江ちゃん

     演出出て行く
辰治…ほんとダセェな、俺・・・あれ?おれってこんなにダサかったっけ?
雪枝…あんたを格好いいなんて思ったことないけど
辰治…あぁ、そうですか
雪枝…なんか書いたような悪者ね、あの演出
辰治…向かないよ、リアリティーないよ。あんなにベタベタなのは。
雪枝…照明向いてないよ
辰治…だろうね
雪枝…やめないの
辰治…やめたい…やめたくないのかな…わからん!
雪枝…だろうね。書かないの?
辰治…うるさいな。そういうお前はどうなんだ?
雪枝…へ?
辰治…お前は、もう、出ないのか?
役者声①…音響さん照明さん、舞監さん呼んでまーす

6回想③

ガヤガヤするロビー 客だしをする四宮、志水見つけて近づく、

志水…公演、おめでとう!
四宮…明日菜、来てくれてありがとう!
志水…こんな大きな舞台だとは思わなかったよ
四宮…さすがに高校の時とはね
志水…でも、この舞台、テレビに出てる人も出てるんだろ?
四宮…うん。
志水…すごーい
四宮…でも、そんな有名人とかじゃないよ、脇役とかエキストラの人がほとんどで
志水…それでも十分すごいよ!みんな自慢しとく
四宮…あぁ、高校のみんなと、今でも会うんだ
志水…リオとかみなみにも言っておく
役者①…四宮さーん、集合でーす!
四宮…うん
志水…じゃあ、忙しいだろうから、帰るよ
四宮…あ、うん、明日菜、あのさ
志水…なに?
四宮…また、ご飯でもいこ
志水…ユッキーのご飯いこうはアテにしてないけど、奇跡的にいけたらいこう!じゃ!
四宮…じゃ
   (はける四宮 後ろに立つ立浪) 
志水…《振り返る》、うわっ、出た!
立浪…人を妖怪みたいに言うな
志水…ストーカーかと思って振りたら、ストーカーだった件、コワッ!
立浪…誰がストーカーだよ

志水…ユッキーを舞台の道に引き摺りこんだ挙げ句、大学までついてきて、あまつさえ同じ演劇部に入り、夜な夜な…

立浪…夜な夜な、なんだよ、俺の方が先に大学に行ったの、俺先輩だぞ!
志水…ユッキーに手出したくせに
立浪…出してない
志水…嘘つき
立浪…少し仲のいい時間があっただけだ
志水…世間ではそれを手を出したと言うのだよ
立浪…舞台でしか関わりないよ、俺たちは。
志水…今はじゃあ、何にもないじゃん。ユッキー、この劇団にはいっちゃったし。
立浪…そうだよ《手提げ袋をつきつける》
  (袋を渡し 立浪去る)
志水…なんなんだ?
《四宮かけて出てくる》
四宮…明日菜いまの?
志水…あれユッキー?
四宮…いま、辰…立浪さんいなかった?
志水…いたけど《人混みを見渡す》消えた、幽霊?
《四宮、走っておいかける》
志水…なんなんだ?あいつら?《手提げ袋のぞく》手紙…ユッキーあて?

7現実④

《本番オペ中の二人》

役者①…おとうさん!
役者②…ママ!
役者①…おとうさん!
役者②…ママ!
役者①…おとうさんたらおとうさん!
役者②…ママはママよ!
辰治…この芝居…何が面白いんだ?
雪枝…時に世界の常識を越えることがあるわ、お芝居という名の魔物は。
辰治…もう、みんな喰われてしまえ!
雪枝…食べられてるのよ、みんな
辰治…へ?
雪枝…ハートをガシッと鷲掴みされちゃってんの。この役者さんたちも、お客さんたちも、 

さっきの演出も、この前のハゲ舞監も
辰治…俺も、お前も、か
雪枝…そうね。生きている実感を謳歌してるの。

辰治…世間はそれどころじゃないって感じだけどな。

雪枝…リモートじゃダメなんだって、生じゃないと。そういう世界は何かを見失っている。私たちが劇場で魔物とじゃれている間に、世界はスマホで罹患してしまったの。

辰治…意味わかんないですよっと(卓をいじる)

雪枝…私たちが魔物を使って世界を救うのよっと!

辰治…はいはい、さいですか、っと、で、なんで音響なんだ
雪枝…え?
辰治…役者、なんで止めたんだ
雪枝…タバコが吸いたかったからよ
辰治…え?
雪枝…疲れた
辰治…疲れた
雪枝…そう
辰治…芝居が疲れるなんてはじめから解ってることだろ?
雪枝…その先にある解放があれば続けられるのよねー
辰治…解放?
雪枝…そうそう
辰治…解放ねぇ?
雪枝…打ち上げとか
辰治…あぁ、なるほど、よ、照明先行しまーす
雪枝…はーい
辰治…ふぅん。それがなくなったの
雪枝…そうよ
辰治…で、辞めたのか役者
雪枝…まぁね?いい年になっちゃったし
辰治…俺の一個下らしいしな。いつやめたんだ
雪枝…お、切っ掛け台詞をアレンジするなよっと、ほい。
辰治…ふぅん。
雪枝…辰治はいつやめたの?書くの
辰治…大学出てすぐかな…就職しただろ?
雪枝…あぁ、不動産?
辰治…給料は良かったんだけど、ブラックオブブラックだった。ある意味リアルな芝居を毎日見せつけられてた。その毒気にあたったか、書く気がなくなった。
役者声①…おかしい、留守かしら?
役者声②…大きい家だから、声聞こえないだけじゃ?ね、インターホンあれじゃない?
雪枝…別れてすぐ、か
辰治…うん。え、あぁ…あのさ、あれって、別れたことになるのかな?
《SE・バキューン!》
役者声②…えぇっ、銃声!?
辰治…おい!インターホンだろ、銃声は不味いだろ!

役者声①…危ない、伏せて、ダミートラップね!
辰治…おい!あの役者アドリブ、取り返しのつかないスパイシーな路線変更したぞ!雪枝、どうしたんだよ
雪枝…別れたことになるのかって、どういうこと?
辰治…ちょっ、それは、いま、そこ!?
雪枝…死ね!
《SE・マシンガン》
役者声②…マシンガン、本気で殺しに来てるよ!
役者声①…お黙りなさい、弱い者から狩られる、ここは戦場よ!
辰治…これ学園ラブコメディーじゃなかったっけ?お前、なんでサンプラの効果音に銃声仕込んでんの?あいつも変な役者魂見せるなよ!?
雪枝…ちゃんと説明して、どういうこと?(UFO音)
辰治…あれだよ、その、俺たちさ、いつも芝居芝居ばかりだっただろ、高一からずっと、で、ずっと一緒にいるけど、俺、これ付き合ってんのかなって、思ってたんだよ
雪枝…付き合ってたわよ!私はそのつもりだった!(バズーカ音 役者から悲鳴)
辰治…うんうん、解ってるよ、落ち着いて、解ったよ
役者声①…ただ、実感がないんだ!
雪枝…実感て何よ《SE押そうとする》
辰治…今のは、俺じゃない!てか、困るのは俺じゃなくて、役者だよ。
雪枝…誉めてもらえるのが嬉しかった
辰治…え?
雪枝…認めてもらえる感じがしたのよ、あんたに。
辰治…俺
雪枝…グチグチ、稽古場でも帰り道でも休みの日もごはん食べに行っても、どこでもグチグチダメ出しされて、それでも、終わったら誉めてくれたでしょ。なんかそれが嬉しくて役者やってたの。おかしいんだけどさ。

辰治…誉める、俺が

雪枝…ほんと、バカでしょ。大学出て、あんたと別れて、芝居続けてて、違和感ばかり感じてたの

辰治…うん
雪枝…だって、回りの子達はオシャレしたり旅行いったり恋人や友達と楽しそうにしてる  

のに、私なにしてるんだろ、って。この先何があるんだろ?私の役者としてのこの先に光とか熱とかそういう肌に触れるものを感じなかったの。リアリティーがなかったの。

辰治…うん
役者声②…すまない、僕が良く解ってなかった
雪枝…別に謝ってほしい訳じゃないの
辰治…え、あ、う、うん…
雪枝…でもあんた見に来てくれてたでしょ、私、なんだろ、それで繋がりを感じてた、でも
役者声①…未練はないって思ってた、だけど
雪枝…やっぱり未練だったのかしら
辰治…シンクロしてるところが余り入ってこないんだけど…
雪枝…貴方が結婚したって聞いて辞めたのよ。(いい感じのBGM 立ち去る)

辰治…え、あ、、おおい!

8回想④

《公園、志水と立浪》

志水…こんな手紙渡してもお互い傷つけ合うだけよ
立浪…解ってるよ、解ってる
志水…どうして別れた?
立浪…俺は相応しくないんだよな
志水…え?
立浪…高校の時は天才だと思ってた。大学入って回りはバカだと見下してた。大人になって自分は平凡だと思い知らされた。みんなこうやって芝居をやめていくんだと思うよ。
志水…お芝居する人はどうして、そう、もって回った言い回しをするのか私は疑問だよ。
立浪…釣り合わない、彼女に俺は相応しくない。だから別れた。…いや、別れたのかなぁ…
志水…煮え切らない男だな
立浪…付き合ってたのかが本当に微妙なんだよなーだから、あれで伝わったのかな?
志水…なんて言ったんだ?

立浪…最後に会った時に別れ際に一言だけ、サヨウナラって

(志水、やれやれ)

立浪…なんでお前にこんな話してるんだ?あほらし

志水…こっちのセリフだ!

9現実⑤

《バラシ終わり、荷物を詰める二人》

辰治…メチャクチャ怒られるかと思ったよな
雪枝…ウケたんだからいいでしょ?
辰治…あの役者のおかげだよ
雪枝…あの演出も舞台裏でフォローしてたらしいし、なんとかお芝居としてまとまった
辰治…元の本よりはずっと良かったな
雪枝…同感
辰治…あのさ
雪枝…私結婚するの
辰治…あ、そうなんだ、おめでとう
雪枝…ありがとう
辰治…どちらの人と
雪枝…大丈夫、私は貴方の知らない人
辰治…あ、いや、面目ない
雪枝…気にしてないから、元役者仲間よ
辰治…うん、いや、それだけ…そうじゃなくて
雪枝…なに
辰治…もう一度芝居書こうと思うんだ。
雪枝…あぁ、そう。
辰治…で、出てほしいんだ
雪枝…私に?
辰治…主役として。でてくれないか?
《雪枝無言で促す》
辰治…え?
雪枝…そんな在り来たりなセリフで私を口説くの?
辰治…え、えーっと
雪枝…なんか決め台詞があるらしいよ?臭いやつ
辰治…あ、あぁ、君のために幕は上がる、舞台は踊る。
雪枝…そして世界を救いたい!

辰治…え

雪枝…なんだか息苦しいんだ。今この世界、だから、息苦しーって叫びたい
辰治…息苦しいか

雪枝…そんな本書いて、辰治!で、ついでに劇団つくっちゃお!

辰治…え、いまどき…(しんじの口を閉じる)
雪枝…話は、台本ができてからよ
辰治…なんだよ、それ
雪枝…呑みにいこっか?
辰治…あ、うん。

雪枝…劇団名は…

『嵐の夜』第二幕 

奈古:大量大量!、おい見てみろよ!

日村:(気のない感じ)やばいっすね

奈古:やべーよー笑いが止まんねーな、やっぱりみんな飢えてるんだぜ、こういうのに

日村:はぁ

奈古:いつも遊んでやってるってガキ、どうした?子役ってのは受けがいいからもっとバコーンと稼げちゃうんじゃねぇか、がっぽりがっぽりよー…

日村:はぁ

奈古:ふぅー(溜息)何が気に入らねぇんだよ

日村:やっぱり、賛成できません

奈古:ふん

日村:命を秤にかけてまでやることですが

奈古:いつまでだ?

日村:は?

奈古:いつまで待てばいい?俺たちは?

日村:は?

奈古:いつまでまってりゃ元に戻る

日村:は?、いや、元にはもどれないかもしれません…けど、それは仕方がないじゃないですが

奈古:詭弁だな。俺には俺の維持がある、カンパニーも支援者も、みんな望んでいることだ。

日村:人殺しと変わりませんよ

奈古:当事者になると違うね…重みが…金は確かに欲しい、でもそれだけじゃねぇって始めに言ったろぅが!(金の袋を投げつける)

日村:それでも、やっぱり

奈古:ちょっと休め、月並みだけど、疲れてるんだよ(はける)

ハナ現れる
ハナ…今日は何して遊ぶ

日村…(気づく)いつもいってるだろ、お友達にはなれないだろピエロには

ハナ…違うわ。誰にだってお友達は必要なのよ。人生が豊かになるわ。純米大吟醸のようにフルーティーになるらしいわ。

日村…ここは私有地だから、はいっちゃだめなんだよ。わかるかな。不法侵入だ。警察が来るぞ。お前はブタ箱行きだ!さーにげろー!
ハナ…きゃー・・・違うわ、それなら、あなたも共犯よ
日村…知らない人に近づいたらダメなんだよ?
ハナ…違うわ。ピエロさんでしょ?
日村…知らないピエロでも一緒なんだ。無闇に仲良くしちゃいけないんだ。知ってるだろ。
ハナ…違うわ。私はあなたのことをよくしってる。あなた。なんだか寂しそうだから、     

遊んであげるの。(手を出す)仲良くしましょ!?
日村…ナンセンスだ。
ハナ…赤塚不二夫!

日村…へ?

ハナ…そろそろ私に名前を教えてくれない?
日村…拒否する。ピエロにだって黙秘権はある!
ハナ…オママゴトね!解った。私はお巡りさん。『ウサギおいしいかのやま~』国のお袋さんも泣いてるよ
日村…そんなしょっぱいオママゴトっていかがだろうか?

ハナ…コハダおいしいかのサバ~ウニとイクラとねーぎーりーて、わすれがたーき、大トロー

日村…歌はダメだよ、おうちの人に言われなかったかい?
ハナ…カツ丼くうかい?
日村…トロはどこいったんだよ?
ハナ…回らないお寿司はダメなんだよ、お母さんも言ってた
日村…さ、それならお母さんも泣いてるだろうから、おうちへ帰りなさい
ハナ…違うわ。心配はしてるの、でも、誰も泣いてないの。
日村…そんなことはないさ。みんな不安で不安で泣いている。
ハナ…何して遊ぶ?
日村…おいおい、聞き分けないね。楽しいことを優先する前に、ちゃんと約束は守らないと、正しい大人にはなれないよ。
ハナ…違うわ。約束は約束。破っても誰も困らない。困るのは私だけ
日村…みんな困るんだよ。お母さんもお父さんもお爺ちゃんもおばあちゃんもお友達も、みーんな。
ハナ…約束約束だらけじゃ息苦しいわ。
日村…それは仕方がない。生きるってことはそういうことなんだし、大人になるには仕方がないことだ。
ハナ…ならこのままでいいわ。子供のままなら安全ね。
日村…そうとも限らないよ。
ハナ…それは正しいわ・・・でも違うわ。
日村…こんなところにずっといたらお母さんは悲しむ。
ハナ…そうかもしれない。なら、一つだけ。なんかして遊びましょ?その後、必ず帰るから。
日村…一つ。オママゴトの続きでもやる気かい?
ハナ…それも確かに魅力的ね。だけど、あなたは、すごく寂しそうだから、特別ご本を読んであげるわ

日村:このピエロが?寂しそう?

ハナ:昔々のちょっと昔、みんなで自由に平等に暮らしたいという国がありました。大きな嵐がやってきて国はめちゃくちゃになりました。そこでみんなひどくあわてているので、2人の王様が立ち上がりました。ふたりは、どちらの考え方についてくるかみんなに聞いて回ったの。青色の王様は自由が好きで、頑張った人が褒められる新しい国を作った。赤色は平等が好きだった王様でいろんなことみんなで分担していった。自由と平等の国は時間が経つにつれてドンドン大きくなっていった。でも人々はそれじゃ満足しなかったの。自分たちは本当に幸せなのか?その小さな疑問は、どんどんどんどん大きくなり増した。困った王様たちは隣の国の考え方にケチをつけて比べる方法を思いついてしまいしました。そうして自分たちの選択がいかに正しいか、満足するべきか人々に言い聞かせました。悪口をたくさんたくさん言ったせいで、だんだんお互いの国民がお互いの国民を憎らしくなってきました。そうしてとうとう絶交して、とうとう大きな喧嘩をたくさんするようになりました。王様たちは小さい仲直りを何度かしました。民衆は心の奥底の中でずっと絶交したままでした。あの時まで

『コロリ』

   事務所で取り調べする二人

1現実①

天彦…みのがしてください、お願いします!

部菅…わかんねぇな~

天彦…そこなんとか

部菅…むぅ~

天彦…どうして

部菅…むしろ、こっちが聞きたいくらいだ、どうしたんだ一体ぜんたい?

天彦…こんな時だからでしょ?ほら、みんなわけがわかってないんですよ。誤解って言葉がこういう時のために用意されているんですよ。

部菅…ふーむ、わからんな

天彦…いや、だって、今ね『恋するこじらせ乙女』とか『途方に暮れて公園で佇む大学生』とか『とりあえず最後は魔法的ななんかのせいにしちゃえファンタジー』なんて歌いあげても意味あります?リアリティーがないんですよ

部菅…わからんねぇ~…

天彦…あぁっ!もうなんなんだよ!(ゴミ箱を蹴飛ばす)

部菅…(メモ帖だすメモしながら腕時計チラ見)はい、13時12分、公務執行妨害、器物損壊~

天彦…おーぃ、おいおいおい、(這いつくばる)すんません、すーいません、ちょっぴりつまづいただけなーんです!

部菅…つまづいた~?

天彦…いや、地球の丸さって、結構いびつ~こんなに凸凹してるんだな~地球さんも案外いたずらっ子さん(ハート)

部菅…虚偽申告罪

天彦…なんでなんです、八百屋が大根売ったら犯罪なんですか?

部菅…犯罪になるかどうかわからんが、ヤクの売人がヤクを売ってたら捕まるぞ

天彦…麻薬と一緒にしないでくださいよ!

部菅…麻薬の方がまだマシかもしれんな

天彦…は、そんな馬鹿な!

部菅…麻薬といってもピンキリだしたな

天彦…極論ですよ

部菅…それより酒やタバコの方がよっぽど有害だよ

天彦…あんたの立場で言います~?

部菅…いいますね~

天彦…横暴だ!ナンセンス!

部菅…赤塚不二夫

天彦…は?

部菅…人を傷つけちゃいかんのよ

2回想①

部菅…惜しむとて 惜しまれぬべき此の世かな 身を捨ててこそ 身をも助けめ

   肥後天彦 源氏名ってのかな。元々は 一流大学出て、一流企業のエリートだったらしい酔った時にそんなことを言ってたらしい。情報者がいわく、リモート飲み会の席だったと言ってるんだがこれはちょっぴり怪しい・・・話を戻そう。この男、昼間はこのストリップ劇場の清掃員ストリップなんて20世紀の片隅置き忘れてちまったんだと思ってたんだが、限定ライブ配信で営業許可を取ればワイセツブツとかで、引っ張られねぇらしい、これがかなり儲かるらしく、いま密かなブームになっている。偉い世の中になっちまったもんだ。いや、話を戻そう。俺が掴んだネタはこうだ。アイツはやった無論証拠はない。あったら即刻豚箱、いや、病院行きだ。だのにコイツはまだここにいた源氏名ってのは。夜はコイツも舞台に上がる。男の裸を見て盛り上がるってのは俺にはさっぱりわからねぇ。古いってのはこういうことか?このご時世、男だから女だからって言うとシラーっとなっちまう、あーやだやだ。昔なら「男女差別ですよ!とか、セクハラです!」なんて反応があったのにいまじゃ「ハラ」なんてなんの略語ですか?なんて言われちまう世の中だ!はぁ~あ、「部菅さん、セクハラですよ!と一発叩かれてーや!…なんの話だっけか?

3現実②

部菅…乙女の…なんだっけ?祈り?

天彦…は?

部菅…乙女の、さっき言ってたじゃん?

天彦…は?、あ、こじらせ乙女の恋心?

部菅…それそれ!(指差し)

天彦…は?

部菅…いや、だからそれ!

天彦…は?

部菅…は、じゃないの、「え」とか、「はい」とかバリエーション出さなきゃダメなんじゃないの?

天彦…はぁ?

部菅…じゃ、やってみよ!

天彦…は?、あ、えっと、話が見えないんですけど…

部菅…だーかーらー、やってみてよ、その、乙女の恋心っての

天彦…はぁ?え?

部菅…なってっけ?ダメだな、年を食うと度忘れしちまう、あの、ほら、即興で、やるやつ、シチュエーションとかキャラクターだけで

天彦…エチュードのことです?

部菅…そうそう、それそれ、わかってんじゃん!さ、いこ、こじらせ乙女の恋心、テイクワン!(キュー)

天彦…いや、全然意味わかんなんないすけど?

部菅…(睨む)

天彦…こわっ!?顔とかじゃなくて、この流れこわっ!無理無理無理、いやこれも意味不明ですよ、物語の進行的にも破綻(はたん)してますって!

部菅…執行妨害と器物損壊については不問するよ?

天彦…やらせていただきます(深く礼)

(エチュード、恋する乙女、一人二役)

部菅…で、どうしてストリップ劇場で働きだしたの?

天彦…スルー!?やらせておいてスルー?せめてコメントしましょ?ダメ出しでも

部菅…(真顔)17点。

天彦…(オーバーリアクション)点数?しかもリアルに傷つく点数!なんでこんなことしなくちゃなんないすか?

部菅…(指で耳掻きとか手遊びしながら)いや、悪い悪い、なんか、もう、おじさんになるとさ、この、恋、なんてこっ恥ずかしいの、わかんなくなっちゃってさ、今時の恋?みたいなのを知りたくなっちゃったのよー

天彦…へぇー、わかりましたか?

部菅…(真顔)いや、わかんなかった

(天彦、無言で怒りを表す)

4回想②

部菅…うちつけに また来む秋の 今宵まで 月ゆゑ惜しく なる命かな

   まぁ、このご時世所轄も何も、フレックス出勤して、画面にアップされた署内の案件リストを『整理』していくだけ? 俺がまだ入った頃は書類仕事がなんだって、まだ神様を信じてた時代があったんだがここ20年で紙なんてどこへいっちまったもんだ聴き込みに行くって行ったら

天彦…そんなのカメラと通信記録抑えてしまえばすぐ立件できるじゃないですかー

部菅…若いやつらに笑われた。でも、こいつのデータ見てちょっと興味が出ちまったんだ、容疑は…

5現実③

天彦…きっかけ?

部菅…そう、きっかけ、どうして始めたのよ

天彦…ストリップですか?

部菅…まぁ、そっちも気になるんだけどよ。お前さん、あれだろ、天彦よ?

天彦…(真顔)

部菅…おろ?どうしたよ?

天彦…いや、天彦って…芸名なんで、俺一応、取調受けてるわけだから、その本名じゃないのかなー、とか、肥後天彦だから、肥後かなー、とか

部菅…あぁ、なるほどな、いや、天彦ってのがインパクトあったんだよ、お前さんの個人認証の情報みた時に。肥後ってのは、あれか、熊本出身だからか?

天彦…いえ、熊本生まれの肥後なんです…奈良生まれの大和みたいなかんじです

部菅…お、ほんとだ、本名も…で、天彦ねぇ、面白い名前つけるじゃないねぇか、、

天彦…天彦…何か知ってるんですか

部菅…俺ら世代は結構解るんじゃないのかな?そういうことだろ?

天彦…あこがれてるんです。

部菅…俺が若いときに流行ったな。なんか、危ない集団だったってな。ゲリラも結構やってたらしいよ。若者主張だっけ、青臭い汚いものをまきちらしてたよ。あぁ、くせぇくせぇー

天彦…大勢の大人はみんなそう言います。けど、今この状況を俺たちは納得できない!あなたたちがちゃんとしてればこうならなかったんですよ。

部菅…結果論だよ。アノときはみんなそうすることが正しいと思ってたんだ。

天彦…嘘だ!ネットのカキコミにだって書かれてる!あの時、声あげた有名人や学者は『命』という言葉を盾に自粛という軟禁を強いた、と。長期的に考えてみれば、結局より多くの命を失う可能性を指摘していた人の声を切り捨てた!金の亡者とレッテル貼りをした!

部菅…ばか野郎!命は大事なんだ!それにいくら理屈をつけたって、それはへ理屈でしかない!

天彦…それはただの思考停止だ!ミクロの視点でマクロな判断をするのは戦略として愚策だ!結果、多くの若い命を失った!今もなお失っている!

部菅…それは因果関係が確定できない内容だ!あそこで自粛がなければもっと大きく被害が広まった可能性だってあるだろうが!

天彦…そんなの詭弁だ!

部菅…どっちがだ!

天彦…病から逃げて、人間は最も愚かな行動を始めた!

部菅…老人たちに死ねと言わなかった若者たちは美しい。医療は懸命に多くの命と向き合った。その両手からこぼれるほどの!その尊さが何故理解できん!

天彦…失ければならなかったもの、失わなくてよかったものがある。それから目をそむけただけだ!

部菅…人の軽重を秤にかける権利が人にあると思うのか!

天彦…外に出れば交通事故にもあうし、心臓発作やガンにもかかるだろ、エイズ、先天的な難病に苦しむ人だっていたんだ!なぜその命の儚さを憂いながらも前にすすんできたんだろ、人間は!なのに、なぜ、あの時ばかりはそんな…そんな…人は死ぬ、それを否定しない!だけど、その重さに軽重はないからこそ…前例ができたことによって安易な封鎖は続いている、今も。人間は尊大すぎたんだよ、頭でっかちになりすぎた。平和ボケは命のリアリティーをうしなった

部菅……それを訴えるために、こんなことしでかしているっていいたいのか

天彦…そうだ、俺は人間だ、人間なんだ…

6回想③

部菅…もろともに 我をも具して 散りね花 うき世をいとふ 心ある身ぞ

   アートは世界を動かす。そんな使い古された言葉を発する人間はいなかった

日本の芸術にはそんな精神はとうに忘れられていて言葉という外側しかなかった

   あの時、それらはSNSに溢れる沢山の雑音にかき消されていった

   メディアはそれを煽るための増幅器になり、人間はそれに踊らされた

人間では人間を統制できなくなったのかもしれない

俺たちは始め知らなかった。ある大統領が判断する一見すると非人道的な政策がことごとく効果を発揮した希代の政治家として国民、いや、世界中の人たちから畏敬されるころになって漸く種明かしがされた

「我が国のAIが人間より合理的な判断をするようになった」と。馬鹿げてるだろう?

   それから大きな国の代表たちが各々の信じるスーパーコンピューターとやらに自分の国の未来を託すようになった。いわく、慣れない道のカーナビみたいなもんだと。 いわく天気予報を信じて洗濯を干すようなものだ、と。より可能性の高い方を選択するそれは正解だが、とてつもない間違いになると感じた人間は少なくないはずだ。少なくともあの時の俺にとってはそうだったんだ

7現実④

部菅…結局金だろ!お前も、裸さらしているのだってさ!偉そうなこと言うなよ、そういう芸術家ぶった正義感が一等嫌いなんだよ、俺は!

天彦…金は必要ですよ。それを否定しません。金にならないからなるからで動いているわけじゃない。だいたい、そうでもしなければならないほど、俺は大した人間じゃない。

部菅…開き直りか

天彦…事実を言ってるだけです!俺なんかがなにをしようが、しまいが世界は変わらない!そうじゃないですか!?

部菅…そうだよ

天彦…じゃあ、ほうっておいてください、見逃してください。別に誰も困らないじゃないですか?

部菅…いや、それはできない、そういう小さな火種を摘んでいかないとやがて大きな問題になるかもしれないからな!

天彦…本気で言ってますか?思ってますか?俺が世界を変えられるなんて?そういう火種になるなんて?この、ここにる、この俺を見て、本気で、目の前の当事者として考えてみてください。思いますか!?

部菅…(じっくり見て、間をおいて)思わない、な

天彦…(ちょっと、落ち込んだように、座る)ふん

部菅…しかし、先ほども言ったようにだな、ヤクの売人として考えれば、世界はかわろうがかわるまいがも、野放しにはできないだろ?

天彦…どうしてですか?そんな急に杓子定規なこと言うのはおかしい。論理は相手を打ち負かせばいいと思っているお役所と一緒ですよ。正しいを強調するために都度、別の論理を展開する。論理のすり替えだ。

部菅…何と言われても、我々は悪を見逃せない

天彦…我々、ね

部菅…そう、我々、だ

天彦…ぼくらは含まれないんですね

部菅…もちろんだ、だから、俺がこうしてここにいる

天彦……ストリップはね、俺がここにいるってのを伝えたくてやってるんですよ

部菅…あぁん?

天彦…俺の体かあって、その体だけでなにかを伝えられるんです。正直始めたときは意味解ってませんでした。俺が生まれるよりもっと前にそんな職場があって、それが絶滅しかけて始めて文化として見られるようになった、ってサイトを見つけました。AVが禁止になって、見直されたのがきっかけです。性志向はさまざまで、男の身体に需要ができてきた。ここのオーナーがたまたま男優を募集していて、それで始めました。興味はなんとなく。面白い経験を積んだ方が箔がつくと思ったんですよ、安易に。はじめはピンと来てなかったんですが、数字に現れるじゃないですか?アクセス数とかね。それが金に変わるんです。そしたら、何が良くて何がダメなのか、がむしゃらやってやってやりまくって、最近なんだか解ってきた気がするんです。人間が本当に何を望んでいるのか?

部菅…そういう人間が、だろ

天彦…そうです。でも、たぶん、これは「芸事」という世界では全部共通することがあるような気がしてきたんです。お金の先に人間とはなにかということが存在してるんて。そこで初めて僕という価値が解るんです。今しかないリアルな価値が。

部菅…ふん。価値を示すためにやってたから認めろと

天彦…許可をとって、衛生検査も、納税もしてます。とやかく言われる筋合いはないですよ

部菅…そうだよな、ライブ配信の最中、この小屋にお前さんがいる時は他に誰もいないことになっている。だからやり放題だったってわけか?

天彦…でも、あなたが来ている

部菅…そして客も来てたんだな

天彦…来てます

部菅…認めるんだな

天彦…はい(ニヤリ)、こんなにも

(客電つく)

部菅…こいつは…

天彦…お客様ですよ。

部菅…こんなに、おい、全員マスクをしろ!(立ち上がる)

天彦…いやですよ、だって息苦しいじゃないですが、そんな世界。

     (スタンガン 椅子にへたる部菅)

8回想④

天彦…弓はりの 月にはづれて 見しかげの やさしかりしは いつか忘れむ

   関西にある大学に進んだ俺はサークルに入った。食堂でブラブラしていたら急に始

まった無許可のゲリラライブ。その客イジリの的にされ、その打ち上げまでのこのこ連れていかれたのがきっかけだ。…そこで、生まれて始めて一目惚れをした。下らないだろ?くーだらない!そんなありふれた、安っぽい話で俺は人生を大きく振り回されちまったんだよ。ほんとうにバカなんだよ。俺は必死で勉強した、彼女に追い付こうとしてた。嘘だ。彼女に認めて欲しかった。嘘だ。彼女と一緒に立ちたかった。それも大きな嘘だ。俺は彼女と話すきっかけが欲しかった。それがきっかけだったんだ。彼女さ、彼女。それだけのモチベーションでサークルの部長に推薦された俺はバカ野郎で。バカ野郎なりに必死に活動を切り盛りし、あまつさえ、就職活動も彼女と同じ一流企業を目指し、合格通知までもらえたんだから、俺ってほんとにバカなんだよな。告白したのがその会社の新人研修の打ち上げ帰り。俺はそこで人生初めて「好きなんだと」かすれるような声を腹筋が動くのを感じながら出した。そして初めて「ありがとうごめんなさい。」という難しい単語を聞いた。自分をさんざん苦しめてきた美しい何かが色あせて腹の底にストンと落ちた。次に俺は何の匂いもしない辞表を上司のメールボックスへ送信済みにした。そうしてしばらくして彼女は…

9現実⑤

天彦…これをこうして(手錠)

部菅…ぐっ

天彦…良かった、緩くしといたんですがね

部菅…おい、これは

天彦…いや、あれですよ、このままじゃ、よくないので、こうさせてもらいました

部菅…マスクを!あいつらみんな抗体検査受けてるんだろうな!

天彦…もちろん!

部菅…ふぅ、そうか…おい、手錠!

天彦…外すわけないでしょ、話が全然進んでないのに

部菅…話?

天彦…我々を見逃してください

部菅…断る

天彦…断れません

部菅…なぜだ!

天彦…あなたの人生がかかってるからですよ

部菅…人生?

天彦…そうです。

部菅…殺す気か!なら殺せ!お前なんかすぐ捕まる!

天彦…いえ、僕は平和主義者ですから

部菅…どの口が

天彦…殺しはしません。ただここからずーっと出れないだけです

部菅…出れない

天彦…そう、食事はちゃんと用意します。保証も補償もちゃんとありますから

部菅…バカも休み休み言えよ。無駄だ、俺がここに来ていることは分かってる。

周りのカメラにも映ってるはずだ!GPSも!

天彦…大丈夫、GPSはさっきうちのお客様に貴方の家まで運んでもらいましたよ。

ブルイ・カンタさん…へぇ、珍しい名字ですね。このあたりのカメラはとっくに壊れてましてね、なんせここは元温泉街、誰も来ませんから、なかなかお役所も手が回りません。温泉は出ても、もう人は入りに来ませんもんね。だいたい、今時大がかりな家宅捜索や聞き込みなんて、ナンセンス、ですからね。ここに引き込もってもらいますよ。

部菅…監禁か

天彦…軟禁ですよ。あなたの気が変わるまで。大丈夫、ここは安全だ。外は危険でしょ?

部菅…危険だろうが、俺にはやるべきことがある!

天彦…僕の逮捕とか?

部菅…そうだ!貴様のような国家反逆者を野放しにせんことが俺の使命だ!

天彦…命を懸けてやるほどのことでしょうか?

部菅…当たり前だ!それが仕事ってもんだ

天彦…別に僕を捕まえなくっても誰も困りませんよね?(客席)

部菅…お前は…ここに人を集めている。それだけでもブタ箱いきだ!

天彦…あんな清潔な施設をブタ箱なんて言ってはいけませんよ?いくらかかってると思ってるんですか?手厚く手厚くお迎えするんでしょ。感染しないように。

部菅…それは人道的な配慮だ!

天彦…犯罪者にいります?中にいても給付はでるんでしょ?てか、犯罪者の前に困ってる人はたくさんいるんですよ?

部菅…個々人は我慢の時だ!

天彦…戦争だから?

部菅…戦争ではない!

天彦…戦争でしょ?鎖国して、経済力で弱い相手の国の資源をむしり取り合ってたら

部菅…違う。人の命は奪ってない!

天彦…それで多くの人間は貧困のために死んでいる!これならいっそ、昔みたいな戦争の方がまだマシだった!

部菅…そんな筈はない!

天彦…隣の国では1日に数百人の死者がでいます。貧困で。

部菅…感染による死者は減った。世界規模でみれば、これは正解だったんだ

天彦…でも、この国は違う、沢山の人が自ら命を絶ったし、医療・福祉・年金財源も涸れ果てた。

部菅…それは個人の問題だ。宗教という概念が薄かったのもそれが原因ではあるんだ。

未来より先に、今を生き延びる為の保証が必要とされた。

天彦…尺度を持たない正義感から来る暴力によって、毎日何人もの人が死んでいる

部菅…それでも、感染による死者ほどじゃない

天彦…という、計算が機械によってなされてるんですよね

部菅…人類はAIに判断を委ねることにした。これが正解なんだ

天彦…その正解の中で僕は彼女を失ったんですよ!

10回想⑤

天彦…散る花は また来ん春も 咲きぬべし 別れはいつか 巡りあふべき

   一年のうちに僕は彼女を二度無くした、一度はフラれた時、僕の世界が壊れた。直に会えるのは屋外かゲリラ的にやるライブだけ、ライブ配信の時は会えない。だから告白できなかったんだ、という言い訳を出会ってから、今日この今まで何回も頭の中でやってきた。それが自分の臆病さ。フラれた恥ずかしさ。今までよりかかっていた心の支えを失った虚しさ

部菅…俺の土台を失いながら、俺はここにいた

天彦…そして大学の惰性からか彼女がいなくなったことを埋めるかのように、活動していた。

部菅…この世界にずっと疑問を投げ掛けていた

二人…これでいいのか?と

天彦…彼女は友達の出産祝いをしに家に行っていた、それを見咎めた周りの住人に口論の  

末、刺されてしまった。

部菅…このご時世見知らぬ地域に行くのはリスクが高い

二人…みんなイライラしている。

天彦…彼女は、「自分の子を一度抱いて欲しい」という友達の時代錯誤なお願いを快く引 

き受けてしまったのだ

部菅…抗体のある者は罹患しにくい。ただ感染させないとは言い切れない。ワクチンも同様。 

100%の人は救えない。ほぼ100%と100%でないは人によって誤差を産み続けた。リモート、テレワーク、3密回避、飲み会禁止、娯楽は最低限…沢山の言葉が我々を縛り付けた。

二人・・・もはや呪いのような物だ。穢れだった。

部管・・・それにイライラしながら耐えていた。

二人…もはや病のようなものだ。

天彦・・・冷静なのはAIだけなのか?そして、そのAIの作った僕の住むこの世界に彼女は存在してない。

二人・・・これが正解か...

11現実⑥

部菅…それで…ここでこんなことを始めたのか

天彦…だから、そうじゃなくて、惰性でやってただけなんだよ。はじめは。でもやってるウチに意味を持ち始めたの。

部菅…活動に、か

天彦…そうだよ。僕は彼女を求めたから始めたって言っただろ。だからなんかしら義務感?でやってたの。でも、今は違う。ちゃんと使命感に変わった。

部菅…どんな

天彦…この国はもっと大きな病にかかってしまった、いや、世界が、ですかね。

部菅…それで、こんなことをしてなんになる?

天彦…火種が全国に全世界に広まればいい。僕はその捨てゴマになれればいいんです。

部菅…変わらないよ。何も

天彦…変わらないかもしれない。でも、それでも、やらないことを選択するよりやることを選択する。これもまた動物的な意味で人間らしい選択だと思いますがね。意味があると思うんですよね。お客様もこんな増えた。出演者も協力者もどんどん増えている

部菅…でも、金にはならないんだろ

天彦…(真顔)ならない、ね…それがどうした

部菅…矛盾だよ。金は必要だと言ってる奴が金にはならないことに意味があると言ってる

天彦…でも生きてるって証拠にはなる

部菅…詭弁だ。そんなもんなくたて、役所に出す書類や気まぐれでとった画像や動画でもあれば証明できる。そんな程度のもんだ、お前の言う意味というやつは

天彦…違う!

部菅…違わないな。戦争の方がマシだという人間に正義なんかない。命を語れない人間に価値なんてないな

(睨む二人)

天彦…俺は…そんなつもりじゃないんだ、でも、おかしいんだ…

部菅…何が

天彦…わかるんだ、俺たちだって、おかしいって。こんな時代にこんなところに集まって…でも、何かしなくちゃないんだ、おかしいって声を上げるべきなんだ。…僕たちはおかしい。AIから見れば。でも人間ではなく人として生きることはどうなんだろうって。自殺すればいいの?僕たちの命は何円、何メートル、何キログラムなんだ?人の命という秤はいつもかかってはずなのに。判らないんだよ。僕がやってることで何かが変えたい。何かをじゃなくて。なんだろうひどく難しいんだ。

部菅…わかるよ

天彦…は

部菅…分かんないのかな…いや、ハハハッ

天彦…は

部菅…いや、すまん、すまん、あの頃は俺も若かったからなーって

天彦…は?

部菅…は、じゃないってんだろ、ウチのカンパニーはあの時同じように考えてた。生きてる意味を探して活動してたよ。あの時は大失業・大再就職期だった。俺たちはバラバラになって、俺はまんまと政府の犬に滑り込んだんだ。

天彦…何を

部菅…天彦の座長のブカンってのが俺の名前。ブルイカンタでブカン。実際舞監も俺だっ 

たしな。本も俺が書いてたんだ。見た目によらず多才だろ?

天彦…あんたは

部菅…天彦ってのはアマビエとも言うんだ、俺の田舎の妖怪だ。あの時バズったからな。だから興味を持ったんだよ、お前さんに。俺は。・・・アマビエは写して広めれば世界が病から救われるらしい。俺たちはこの病に苦しむ世界に訴えたかったんだ。

天彦…あなたは

部菅…俺んときはまだリモートなんてのが出始めたころで。俺の好きな女がいた。俺の本を見たいって言ってくれた。俺はうれしくてな。久しぶりに書いたんだ。そうして天彦は動き出した。

天彦…は?

部菅…そいつに振り返って欲しくて一緒にやってたんだ。違うな。俺はそいつに認められたった。高校の後輩で、生意気で。あの時、そいつは言った『このままじゃ世界がおかしくなる、リアルじゃない世界になる。私たちは世界を救うんだよ』

天彦…は?

部菅…俺にもその時全く理解できなかったんだ。みんな引きこもり始めていて外国でも大変なことになって。でも、俺たちは過激にやった。色んな所で、ゲリラで、派手なメイクで。花火や水も使ったな。警察が来ないように。すぐに逃げれるようにとか。酒を飲みながらいろんな作戦を練っていた。俺はワクワクしていた。俺たちの生きているって実感。それは本当に安物だったし、裏路地の安い居酒屋でこそこそクスクス喧嘩したりするような下らないものだった。若さだった。誰にでも味わう権利のあるありふれた、「青春」だった。こじらせ男の恋だとかってのもあったのよ、しかも不倫。この俺にだよ。あのころまでは、まだまだリアルだった。

天彦…はぁ

部菅…でもある時、居酒屋から帰ってる途中に歩いてる爺ちゃんからいきなり怒鳴られた。『酒臭い!このご時世になにやってんだ!』って一番近くにいた彼女が殴られた。頭をブロックぶつけてそのまま死んだ。

天彦…は?

部菅…メディアは一斉に取り上げた。俺たちは悪だった。彼女は魔女だった。正教を乱す異端者でその爺さんの正義感を讃え、またその不幸な事故に情状酌量の声が高まった。あの加熱した時は本当におかしかった。SNSを持ち始めた我々人間は火を使い始めた原始人だった。ルールと感情が乱れ、それに応じて世界の価値観が変わる。それが1週間でひっくり返されるんだ。すごいだろ。正論が存在しなんだ。だってみんながだれかわからない「みんな」のために議論をする。自分の都合だけで話す奴は「辛抱できない奴」と烙印を押されて俎上にもあがらない。原始人だ。俺たちはその道具をうまく使うことができなかったんだ。彼女は一つ間違っていた。彼女死ぬ前から、もうすでに全然リアルじゃなかったんだ。

   ・・・でもさ、俺、彼女のことが好きだったんだよ。でもさ、その彼女をボロボロにしていくわけ。会ったこともない彼女を猟奇犯のように扱うの。俺さ、ほんとに耐えれなくて、でも、それをおかしいってどこにどうゆったらいいか分かんなくてさ。彼女の弁護をしてもすぐにかき消されたんだよ。いっぱい書いたいろんなところに書いた、手紙も送った。テレビ局の前に居座っても見た。取り調べも受けたお巡りさんだってあの時持ってた俺の全てで歌ったよ。「でもやっぱりこのご時世にさぁ…」って・・・何、このご時世って、なんのために俺たちは辛抱するの?いつまで?答えなんてどこにもおってなかったんだよ。ある時仲間がポツリと言った。「天彦」なんて名前にしたから罰が当たったのかなって

天彦…(真顔)

部菅…俺はそこで辞めた、すべての言葉を吐き出した俺の熱は冷めたし、仲間も同じだった。

あの日、あるものは政府の犬になり、看護士になって、あるものはストリップ劇場の支配人になったやつもいる。

天彦…は?え、ここのオーナって

部菅…それからは彼女が言う通り、病に混乱した世界は戦争を始めた。冷たい戦争。

第二次冷戦。それがAIたちの答えだった。殺し合いをせず自国の利益を守る方法。大国のAIは尽く同じ判断をした。原始人の前に現れたのはAIという神様はこんないびつな世界をおつくりたもうたんだ。地球は丸く見えても凸凹してる。それでも丸くて青くて美しい。それが新しい正解だった。で、これ外してくれるかい(手錠)

天彦…は?

部菅…見逃しはしない。このチャンスを、な。

天彦…は?

部菅…お前さんの話に俺も乗る。俺が忘れてたもんがある。やり残したものだ。政府の犬になって、考えて考えて考えて一つの答えが見えてきたんだ。あの時の俺たちに足りなかった答えが。

天彦…は?

部菅…ちょっと耳貸しな

天彦…はぁ!

部菅…まぁ、何かが変わるのか変わらないのか見てみようさ

天彦…え、いや、そんな、変わるってか、え、いろいろ…

部菅…命をかけてみよう。俺たちが本当に戦っているのは病じゃない。アレルギー反応だよ。アナフィラキシーショックで死にかけているんだ。俺たちでなんとか緩和できるかどうか?大丈夫、非常に平和的なことじゃないか?それが俺たちだろ。

天彦…はぁ、でも仲間にどう話したらいいか

部菅…そうだな、お客さんたちもどうだい、一枚乗るかい?この国揺らす、大芝居だぜ!おじさんなんだか燃えてきたなぁー

天彦…ちょっとちょっと

部菅…大丈夫、俺たちは病にもコンピューターにも支配されない。人間は元々欠陥動物なんだ。ましてや芝居人なんてどうせ社会不適合者だ!なんとでもなれだ!

天彦…さすがにそれは語弊が…

部菅…結局、俺たちがつかまって豚箱に行くだけだ!本当に誰にも迷惑かけない!

天彦…それが問題なんだって

部菅…大丈夫、あそこは天国だよ。俺たちは天国へ行くんだ!会いに行くんだよ!さぁ、いくぜ、天彦!

(慌てる、天彦を尻目に舞台を降りてはけていく部菅、ついてく天彦、舞台が光る)

二人…願はくは 桜のもとにて 春死なむ

『嵐の夜に』第三幕

(頭から血を流す奈古 かけつけてピエロ服の日村)

日村:奈古さん!

奈古:騒ぐな、大丈夫だ

日村:これは

奈古:舞台から石ぃ投げられた

日村:もうやめましょ

奈古:なんだよ

(ハナ入ってきて客席を背中に一人遊び)

日村:こんなことしても何も変わりません

奈古:今は変わらないかもしれないけどよ…何年後かには

日村:ひどくなってるだけですよ

奈古:何が

日村:俺らと、考え方、微妙にずれてるんですよ。

奈古:このままじゃよくねぇ。このずれは大きなずれじゃねぇ。緩やかな歪みなんだ。古い学校の窓のような歪みだ!風も防げる、雨だって入ってこねぇ。ただカギをしめようとするとよくねぇ。そんな歪みだ!

日村:俺、もうよくわかんないですよ

奈古:よくわかんねぇけど、なんだかダメなんだ!息苦しいんだよ!だから俺たちが

変えるんだ!

日村:奈古さん!俺たちはよく頑張りましたよ。

奈古:俺たちが変えるんだ!変えなくてもいい、行動するんだ!

   (ハナ現れている)

ハナ:変わらないわ(日村向く)

日村:ハナちゃん…今日はお帰り

ハナ:(いつもより神秘的)変わらないわ、そんなことじゃ

日村:かわらない・・・

奈古:なんだよ

ハナ:個人を支えても全体を変えることはできない。そんなものじゃ変わらないの、

日村:それじゃあ、変わらない

ハナ:分かったでしょ。正義とか愛だとか思いやりとか熱意、歌だとかお芝居だとか小説だとか映画だとか、そんなの薄っぺらいんだって!

奈古:なら、何なら世界を変えれたんだ

ハナ:一番簡単な方法は恐怖よ。恐怖は世界を変える

日村:恐怖

ハナ:死から逃れるための本能

日村:恐怖が本能?

奈古:どういう意味だ

ハナ:人はね、暴力でボロボロなるまで争った跡にね。美しいフタを閉じるの

   「人の命は地球より重い」

日村:そうだよ、人の命は何より重いんだ。

二人(ハ・奈):でも、地球がなければ人の命は救えない。

ハナ:環境保護だってエゴでもあるわ。

奈古:たくさんの弱者が踏みつけられているときには知らぬ顔していた。

ハナ:交通事故のことは?自殺者のことは?先天的難病は?

奈古:紛争は?差別は?俺たちはいつでも冷たい自動販売機が欲しくて、石油を使う

ハナ:油田はみんなで奪いあう

奈古:こじらせ乙女の失恋相談をするスマホには、レアメタルがいるんだよ

ハナ:遠くの国の鉱山は奪い合い。

二人:そんな国のだれが「命は」なんて偉そうに言えるんだ

日村:違うよ、それはおかしい論理だ

二人:人の命に重い軽いはあるか

日村:無い!そんなもあるか!

二人:人の生き方に良い悪いはあるか

日村:ある、他人を傷つけちゃだめだ!

二人:すでに多くの者の命を奪っているんだよ。

奈古:俺たちは。おまえだって知らず知らずにばらまいてたんだろが!

日村:そんなつもりじゃなかった

ハナ:(いつものハナにもどる 真面目げで)それで仲間外れにされたのね

日村:誰に何を誤ればいいのかもわからなかった。解らないことばかりなんだ。あの時からずっと、僕たちはなぜこうなったんだろう

奈古:あいつらが神経質すぎるんだよ

日村:違う…僕たちも無神経なんだ、粋がってるだけなんですよ

ハナ:違うわ。あなたたちはね、こんなことで喧嘩したらだめなんだよ。

日村:そんなの解ってるよ!

ハナ:違うわ。解ってないの。だからダメなんだよ。暴力もダメ。悪口もダメ。牛さんも

蟻さんもお父さんもお母さんも、お友達も、カンパニーも、ピエロもみんな、みんな違うんだけど、仲良くしなくちゃいけないのよ。

奈古:おい?日村?・・・さっきからおかしいぞ!

日村:奈古さん?…ハナちゃん、俺たちはどうしたらいいと思う?

ハナ:アリさんを踏んでも仕方がないんだよ。

日村:は?

ハナ:それが生きるってことなんだよ、それでも、自分の周りにあるものを愛すること。

恐れないこと。それだけはわすれちゃいけないの。(スマホ)お母さん?すぐ行く!

日村:恐れない…愛すること…それじゃあ何にも変わらないんだろ

ハナ:違うわ。変わらなくてもいいの。どう生きるかって、そういうことじゃないの?

日村:どう生きる?

ハナ:正しい人生なんて、無理解の解だよ(スマホ)いかなきゃ

日村:全然わかんないだけど

ハナ:そうだよ、解んないんだよ。目に見えないモノはどうやっても目に見えないもん。スマホがどんなに便利になっても。見えないんだよ。私たちの100点はもともと初めからないんだよ。賢くなったんじゃない、あなたたちは賢しいだけ。もっと「ピエロ」さんでいいのにね(ピエロのめがね渡す)

日村:ピエロ?

ハナ:右も左も見てるのに、前も後ろも見てないのね。あなたたちはピエロくらいがお似合いよー(走り去る)じゃあねー

奈古:おい、ほんとうに、どうしたんだよ?やばい薬でもやってんじゃねーだろうな

日村:奈古さん、座敷わらしって信じてます?

奈古:(怖がる)お、おう、座敷童…自分がだれかわからるかーもしもーし?

日村:なんか、俺たち、ピエロがいいらしんですって。

奈古:(びびる)お、おう、そうだな…?うん、あれだ、今度は違う役とかやってみるか…

日村:俺、ピエロ、もうちょっとやってみます

奈古:(恐る恐る)あぁ、まぁ、そいつは助かるんだけど…あの、日村くん?

日村:奈古さんもやりましょ!(ええ顔)ピエロ!(めがね渡す)

奈古:ふっ(ええ顔)・・・・俺は遠慮しとくわー

エンド曲 (吉本的に二人でわちゃわちゃ 奈古はける)

     (曲が一瞬止み 日村、咳をする。)

引用箇所

【P4『嵐の夜に』の第一幕】

ZARD『負けないで』サビ

【P25-26『コロリ』の3現実②】

やりとりは『笑いの大学』を意識しています。

【P24.26.27.29.32『コロリ』の各回想】

短歌は西行法師のものりよう。


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