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【回路解説】歪みの生まれ方~ダイオード編~

ギターをされる方であれば大変おなじみのエフェクター、
歪み系エフェクター。
ディストーションやオーバードライブなどいろいろありますが、
どれもロックで格好良いですよね!

一言に歪み系とはいっても、エフェクターごとに様々な音が生まれます。
今日はその音が歪む仕組みについて少しお話ししようかと思います。

主に↓の動画の内容になります。



ダイオードについて

エフェクターでよく使われるダイオード「1N4148」

歪み系エフェクターでは必ずと言っていいほどダイオードが使用されます。
※ファズは例外

そもそもダイオードって何なのでしょう??

ダイオードとは?

ダイオードというのは半導体の一種で、
”電流を片方向にしか流さない”という特性を持ちます。

その特性を生かし、交流を直流にする「整流回路」や信号の逆止弁的な使い方をされることが多いです。

全波整流回路の例

この特性は半導体の"PN接合"と呼ばれる接合方法によって生まれるものです。
詳しく説明すると長くなりますので、ここは割愛します。


エフェクターにおけるダイオードの役割

ところが、エフェクターでは少し異なる使い方をされます。

オーバードライブ回路の例

一方向に電流を流すためのダイオードが、双方向に接続されていますね。
どちらの方向にも電流が流れてしまうので何の意味もないのでは、、、??

実はダイオードにはもう一つ大切な特性があります。
それは"順方向電圧"と呼ばれるもので、エフェクターの回路ではこちらの特性を利用しています。

ざっくり説明すると、
ダイオードは順方向電圧以下の電圧をかけられた状態では電流は流れず、
順方向電圧を超えた電圧をかけられると電流を流すようになる、
ということです。

順方向電圧以下では電流は流れないが、、、
順方向電圧を越えた電圧をかけられると電流が流れる。

ちなみにこの特性は、PN接合のエネルギーバンドギャップにより生まれるもので、
ダイオードに使用される物質の種類により異なります。
一般のシリコンダイオードは約0.6Vです。
こちらも長くなるので割愛します。

では実際のところ、エフェクターの回路ではどのように使われているのでしょうか?

ディストーション回路

まずはわかりやすいディストーションから見ていきます。
(動画の0:40あたりから2:50あたりまでの内容)

回路解説

ディストーション回路図(歪み生成部のみ抜粋)

こちらがディストーションの代表的な回路です。
前段のオペアンプで増幅された信号を、後段のダイオードで切り取るような動作をします。

前段のオペアンプ増幅回路は入力信号をダイオードの順方向電圧より大きくする目的があります。
コンデンサが入っているのについては後半で少し触れます。

後段のダイオードは片方が信号、片方がGNDに接続されています。
これにより順方向電圧を越えた信号はGNDへ流れ込み、出力されません。
また双方向に接続されていますので、-0.6Vを超えた信号もカットされます。

ざっくり図にするとこんな感じです↓

ディストーション回路を通した信号のイメージ

実際の波形・ダイオードによる差

では実際に録音した波形を確認してみましょう。


元の波形
ディストーションを通した後の波形
ダイオード:1N4148(順方向電圧約0.6V)
ディストーションを通した後の波形
ダイオード:青LED(順方向電圧約3.5V)

増幅後の波形は角の張った波形(いわゆる矩形波)のような形になっていることが分かりますね。
また、順方向電圧の大きいダイオードを使うと出力も大きくなることが分かります。
ただしこれは切り取る位置が変わったことによるものなので
弱いピッキングやミュートしきれなかった音は残っていることが分かります。

オーバードライブ回路

続いてオーバードライブの回路を見てみます。
(動画2:50あたりからの内容)

回路解説

オーバードライブ回路(歪み部のみ抜粋)

こちらはオペアンプの増幅回路の中にダイオードが入っていますね。
なお回路上の「VB」は基準電位です。
少し動作がややこしいので、まずはオペアンプの増幅回路の解説からやります。

理想オペアンプの基本的な動作原理は
・入力端子には電流は流れ込まない(ハイインピーダンス)
・出力端子からはいくらでも電流を出す
・入力端子の電圧が等しくなるように出力端子から電流を出し入れする
です。

オペアンプ増幅回路

例えばこの↑増幅回路の場合、+入力に1Vが入った時の動作としては
-入力が1Vになるまで電流を流すため、R2に流れる電流は
電流I= 1[V]/1000[Ω] =0.001[A]
         = 1[mA]
となります。
入力端子へは電流は流れ込まないので、出力端子からは1mAが出力され、
R1とR2を通してGNDに落ちていると理解できます。
つまり出力端子の電圧は
電圧Vo= 0.001[A] x (1000+2000)[Ω]
           = 3[V]
となり、この回路の増幅度は3であることが分かります。

また、R1にかかっている電圧は
電圧V2= 0.001[A] x 2000[Ω]
           = 2[V]
となります。

ちなみに、R1の抵抗値を0とした場合は
-入力端子と出力端子の電圧が等しくなるので
増幅度は1となります。


本題に戻り、今回のオーバードライブ回路について見てみます。

オーバードライブ回路(歪み部のみ抜粋)

先程の増幅回路で言うところのR1の位置にダイオードがありますね。
ダイオードにかかる電圧が順方向電圧を越えるまでは
ダイオードに電流は流れないので先ほどと同様の増幅回路の動作、
順方向電圧を越えるとR1ではなくダイオードに電流が流れるため
この経路の抵抗値がほぼ0Ωになり、増幅度1となります。
この入力電圧の違いによって挙動が変わることにより歪みが生まれています。

ざっくり図にすると↓こんな感じです。

オーバードライブ回路を通した波形のイメージ

コンデンサの役割

少し本題とは逸れますが、今回のオーバードライブ回路の肝はダイオードではなくコンデンサです。
ダイオードはあくまで信号を歪ませるだけであり、オーバードライブの温かみや柔らかさはコンデンサにより生み出されています。
少し細かく見てみましょう。

オーバードライブ回路(歪み部のみ抜粋)

コンデンサC5は入力端子と基準電位の間にあります。
こちらはフィルタの役割を果たしており、
カットオフ周波数は
周波数fc= 1/2πCR
              = 1/(2 x π x 0.047x10^-6 x 4.7x10^3)
              ≒720[Hz]
であり、これより高い音の成分は通して低音成分は通さないという動作になります。
通さないということは先ほど解説した増幅回路におけるR2が無限大となるとも取れますので
低音成分は増幅度が1となります。
つまりこの回路では低音成分は増幅させず、
高・中音成分のみ増幅させて歪ませているということです。
これにより歪の格好良さと音の太さを両立させています。
いやぁ、よくできた回路ですよね〜

実際の波形・ダイオードによる差

少し長くなってしまいましたが、実際の波形を見てみましょう。

元の波形
オーバードライブを通した後の波形
ダイオード:1N4148(順方向電圧約0.6V)
オーバードライブを通した後の波形
ダイオード:青LED(順方向電圧約3.5V)

歪みにより波形の傾きが急になっているものの波形の頂点付近は丸みがあり、
ディストーションより柔らかいような音になっていることがわかります。
またこちらは順方向電圧を越えるまでオペアンプで増幅しますので、
音量の小さな入力でも構わずに歪みます。
これがいわゆる「コンプ感のある歪み」となっているのかもしれませんね。


まとめ

今回は歪みエフェクターの代表的な動作について解説しました。
エフェクターのダイオードやオペアンプを交換しただけで音が変わる理由が、
なんとなくお判りいただけたかと思います。

今回の解説が皆様のエフェクターづくりの一助となれば幸いです。

ちなみにファズはエフェクターごとに歪みの作り方が大きく異なりますのでこの限りではないです。
(Fuzz Faceはトランジスタのクリッピング、BigMuffは増幅回路&2連オーバードライブなど)
こっちはこっちで大変奥深いので(深すぎてあまり踏み入れられていないです、、、)、
気になる方は調べてみてもいいかもしれません。
が、帰ってこれなくなっても保証はしません。


なお今回使用したオーバードライブエフェクターの基板は↓のページで販売しております。

何か困ったことがありましたら
お声掛けいただけましたら適宜アドバイスなど致します。
いつでもお問い合わせください!

以上です。
良い自作エフェクターライフと良い音を!

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