宝島事件 殺人罪再逮捕の遅延と処分保留について(2024.06.17)

 今回,ある方から、宝島事件で死体遺棄・損壊罪で起訴されている6人の容疑者のうち,関根・前田両容疑者に対する殺人罪の再逮捕時期が他の容疑者よりも遅延した理由に何か意味があるのか、佐々木・平山ら4名の容疑者が,殺人罪について処分保留になった意味をどう解釈するのかという質問を受けた
 再逮捕遅延については、特に,根拠があるわけではないが,処分保留の意味も併せて説明したいと思う

その1 関根・前田両容疑者に対する殺人罪再逮捕の遅延

 私は、関根・前田両容疑者に対する殺人罪再逮捕の遅延理由については、以下の要因のためではないかと考えている
① 睡眠導入剤の入手経路確認
 報道によると,宝島夫婦の遺体を解剖したところ、夫婦が殺害される前、睡眠薬を飲まされていたとの情報がある 事件前、宝島夫婦が品川区で物件探しをしていた際に、ふらついて歩く姿が防犯カメラの映像に写っていたともいう
 薬局で薬剤師に相談して購入できる睡眠改善剤は,抗ヒスタミン剤の副作用である「眠気」を利用した薬剤である 抗ヒスタミン成分を含む薬剤には,アレルギーの薬や喘息の薬,一部の風邪薬とか痛み止めに含まれている
いわゆる「眠くなる薬」である
 これに対して睡眠薬とは,医師の処方が必要になる薬剤で,薬の効きはじめの時期や薬の効果の持続時間等によって,5種類くらいに分類されている
服用して早い時間に「ふらつく」程度の強い作用が出るのは,このうちの「睡眠導入剤」とみられる 一部の違法販売を除けば,基本的に医師の処方が必要なため,その入手経路は,関係者の治療履歴の収集により比較的容易に特定できる
 購入時期や服用時期・場所等を特定することより,場合によってはその購入者・譲渡者等の事件関与を確認することができる
 この薬剤の出所や経路の確認は必須であり、睡眠薬の入手経路等を確認していた可能性が考えられる

② 報酬としての支払われた現金の出所と経路の確認
 実行役等に報酬として支払われた資金の流れは意外と重要である
 単に資金の出所だけでなく,報酬を受け取った後,各容疑者が消費した状況も確認することになる
 これを確認することで,事件に関与した人物の特定と関与状況の確認が容易になるため、詳細な資金の状況を確認していた可能性がある
 ただし,この作業は詳細に行われるため,関係者が多い事件では,全容解明に時間がかかることが多い

③ 関根・前田両容疑者に先行して他の4名の容疑者の供述を固める目的
 最初の逮捕要件は,死体遺棄・損壊事案であり殺人事件ではないので,捜査機関は,容疑者が自分から話し出す場合は別として,本来,殺人事件に関する事情聴取はできない(別件になる)
 関根・前田両容疑者以外の4名の容疑者を先に殺人罪で逮捕することで,この4名に対しては本格的に殺人容疑の取り調べを開始できる状態になる
 報道によると,この4名の容疑者の供述には微妙にずれが生じているようで,この供述のすり合わせが必要なはずである
 そのためにも,まずは,この4名の容疑者の供述を固めることで,関根・前田両容疑者に対する殺人罪の取り調べを効果的に実施することが可能になるし,場合によっては,他の事件関与者の存在が判明することもある
 こうした理由からこの4名の容疑者に対しては、関根・前田両容疑者よりも先行して殺人罪で再逮捕した可能性があると考える

その2 佐々木・平山ら4名の容疑者の処分保留とは

 この件については、様々な情報が錯綜しており、中には、佐々木・平山ら4名の容疑者は、殺人罪で起訴されないのではないかという極端な意見もあるが,今回,処分保留になったとしても,これらの容疑者に殺人罪が適用されないということはあり得ない

① 処分保留とは
 処分保留の「処分」とは、「起訴処分」と「不起訴処分」のことであり、「処分保留」とは、検察官が起訴するか否かの判断を一時的に保留(棚上げ)することを意味する
 被疑者を逮捕・勾留した場合は、検察官は、勾留期間中に起訴するか、それとも釈放(身柄を解放する)かのどちらかを選択しなければならない(刑訴法208条)  
 しかし、勾留期間内に起訴または不起訴処分を決定することが義務づけられているわけではない
 「処分保留」とは、起訴または不起訴処分を決定しないまま,犯罪捜査は,任意捜査として継続するという趣旨なのである
 本件の場合は、関根・前田両容疑者の殺人罪の逮捕が遅延していたこともあり、関根・前田両容疑者に対しては、これから本格的に取り調べが開始されることになる
 これら容疑者は共謀共同正犯であるため、全ての容疑者を同時に起訴することが望ましい
 このため拘留期間内に起訴することが時間的に難しいと考えられたことで、殺人罪に関してのみ処分保留としたケースであろうと考える
 または,この6名の容疑者の他に事件に関与した者が判明し,新たな共犯者の容疑が濃厚となった場合,最初に再逮捕した犯罪事実の要旨に変更点が生じる可能性があるため,一旦処分保留とした後,詳細な捜査が終了した時点で新たな犯罪事実で起訴するというケースも考えられるだろう

② 処分保留後の事件捜査
 関根容疑者ら6名の容疑者は、死体遺棄・損壊罪で身柄付き送致となって起訴されているため拘留状態は継続する
 そして、関根・前田両容疑者以外の4名の容疑者のうち,処分保留となった容疑者は、同一犯罪での再逮捕はできないため,殺人罪だけは任意捜査として捜査後に対処する(起訴される)と予想する
 一旦処分保留となった容疑者が殺人罪として起訴される時期は,関根・前田両容疑者が殺人罪として起訴される時期に合わせるものと思われる

その3 結論

 上記睡眠導入剤の入手経路を確認し,報酬等の現金の出所や流れを確認して,かつ,関根・前田両容疑者以外の4名の容疑者の本格的な取り調べを先行して実施していると思われる
 そこで得られた情報をもとに,関根・前田両容疑者の殺人罪の取り調べを行う意図があると考えている
 その方が効果的であり,間違いも少ない
 これが関根・前田両容疑者の逮捕が遅延した主な理由ではないかと考えている
 また,7番目の容疑者が存在する可能性もあるが,現時点では確たる情報はなく,関係者の身柄拘束がなされていないため,今後,有力な情報・証拠資料等が確認されない限り,新たな殺人容疑者の逮捕・拘留は困難と思われるが,その可能性が完全に否定されているわけではない
 6名の容疑者を同時に再逮捕して捜査し,同時に起訴することが一般的であるが,こういう変則的な方法がとられている場合,新たな事件関与者にターゲットを絞っている可能性も否定できないと思う

以 上

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