見出し画像

国立大学法人法の一部を改正する法律案(NHKから国民を守る党浜田聡参議院議員のお手伝い)

 第212回国会(臨時国会)で提出されました、国立大学法人法の一部を改正する法律案について論じます。

「法案概要と結論」

 この法案に関しては、既存の成功しなかった大学改革の延長に過ぎないとともに、組織運営の柔軟性を損ないかねないため反対です。国立大学の発展のためには、本法案で可能となる規制緩和の実現と、運営交付金の削減による国立大学の経営改革を希望します。


今回の法案は、一部の国立大学の大学運営に関して、行政の権限が強くなるかわりに、大学は資産運用等の規制緩和を行える法案です。

「世界のトップ大学と日本の大学の彼岸の差」

 まずは日本の国立大学の現状について考えていきたいと思います。
 国立大学は平成16年より法人化し、文部科学省が設置する国の行政機関から、独立した国立大学法人となりました。国が財政的に責任を持ちながら、自主・自立という大学の特性を活かした運営を目指すスタイルです。以来、運営交付金は毎年1%削減し、経営努力が求められています。
しかし、日本の世界大学ランキングや論文数は落ちていき、国際的に魅力のない大学となっていきます。優秀な人材や研究者が海外流出する要因はここにあります。
 日本の国立大学は東京大学で150億円の基金で、ハーバード大学とは約30倍の彼岸の差となります。

大学ファンドの創設について 令和3年3月 文部科学省
世界と伍する研究大学について (資金関係)

総合科学技術・イノベーション会議常勤議員の上山 隆大氏によると、ハーバード大学の独自基金として約6兆円を保有し、1970年代から、毎年9パーセントの運用利益、内5%を教育、研究、学生支援にまわしている。つまり、国に頼らない財源が毎年2000億円~3000億円入っています。
 各国のトップ大学は毎年7%の財政の進展を実現しており、10年間で2倍の予算が増える計算となります。
(参照:参議院 文教科学委員会  ~令和5年12月5日~)

「法改正の前提となる国立大学法人化から国際卓越大学スキームの経緯について」

 そこで政府は国際卓越大学制度を内閣府のもと開始。10兆円ファンドによる運用益を、諸条件をクリアした大学に補助する制度を始めました。運用目標は年4%、年最大計3000億円を最長25年間の補助を目指しています。認可の諸条件の一つに大学は年間3%の財政向上を実現することがあります。これは25年間で予算が2倍になる計算で、10兆円ファンドを呼び水に、各大学も諸外国のトップ大学同様、最終的には資産運用等の自助努力で財政を確保できる事を、政府が意図しています。
 また、これまで可能でなかった長期借入や債券発行の要件、土地利用に関する規制緩和が行われるメリットもあります。
 応募した大学は、東京科学大(=仮称、東京工業大と東京医科歯科大が来年度をめどに統合)、名古屋大、京都大、東京大、東京理科大、筑波大、九州大、東北大、大阪大が申請したところ、最終的に東北大学が候補に残り、認可される見込みです。

「本法案の論点」

 本法案に関わってくるのが、国際卓越大学の資格を得るための条件の一つである、運営組織改革についてです。
 ガバナンス改革のため、学長の選考組織として新たに運営方針会議という、外部委員との合議により、学長の選考を行う組織改革が必要となります。

「科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術・イノベーション会議有識者議員との会合」(9月7日)より

 運営委員の選考は文部科学大臣の承認が必要となるため、行政の統制が強くなるというデメリットが大学にあるわけです。
 本法案の論点とされているのが、この国際卓越大学と同様の組織改革についてです。
 先述の通り、国際卓越大学に認定されたのは東北大学のみであるにも関わらず、同様の組織改革を一部の国立大学法人にも適用されるという趣旨で、具体的には東京大学、京都大学、大阪大学、東海国立大学機構が対象となります。

1.運営方針事項の決議及び法人運営の監督等を担う運営方針会議の設置 (1)運営方針会議の権限【第21条の5、第21条の6、第21条の8関係】 ① 運営方針会議を設置する国立大学法人において、中期目標・中期計画及び予算・決 算に関する事項(運営方針事項)については、運営方針会議の決議により決定する。
② 運営方針会議は、決議した内容に基づいて運営が行われていない場合に学長へ改善 措置を要求することができる。
③ 運営方針会議は、学長選考の基準その他の学長の選考に関する事項について、学長 選考・監察会議に意見を述べることができる。

法案概要 1.運営方針事項の決議及び法人運営の監督等を担う運営方針会議の設置

 一部の国立大学とは、理事が7人以上の国立大学法人のうち、収入及び支出の額、収容定員の総数、教職 員の数を考慮して事業の規模が特に大きいものとして政令で指定する国立大学となります。

(2)運営方針会議の組織等【第21条の4関係】 運営方針会議は、運営方針委員3人以上と学長で組織する。運営方針委員は、学長 選考・監察会議との協議を経て、文部科学大臣の承認を得た上で、学長が任命する。

(3)運営方針会議を設置する国立大学法人【第21条の2、第21条の3、第21条の9関係】
① 理事が7人以上の国立大学法人のうち、収入及び支出の額、収容定員の総数、教職 員の数を考慮して事業の規模が特に大きいものとして政令で指定するもの(特定国立 大学法人)は運営方針会議を設置することとする。
② 特定国立大学法人以外の国立大学法人は、運営の監督のための体制強化を図る特別 の事情があるときは、文部科学大臣の承認を受けて、運営方針会議を設置することが できることとする。

法案概要 1.運営方針事項の決議及び法人運営の監督等を担う運営方針会議の設置

 本法案の争点として、運営方針会議は文部科学大臣の承認次第で、意中の運営方針委員を大学に送り込み、学長の人事に介入する余地があること、そして、もともとは国際卓越大学を希望する大学の意思により設置される運営方針委員の組織改革が、一定の規模の国立大学という括りで各大学の意向を問わず行われてしまうという点で批判されています。
 特にいわゆる左派大学関係者から批判の声が大きく、抗議の集会も行われ、「学問の自由が失われる」「学生の自治が損なわれる」「立法経緯の説明が不十分である」という声が上がっています。
 実際に法案提出前の経緯として9月7日に内閣府のもとのCSTI(総合科学技術・イノベーション会議)の最終とりまとめ、10月31日に閣議決定、11月14日に衆議院文部科学委員会審議入り(参考人の意見陳述)という速さで議論されています。
 私自身も以上の争点に対する政府の答弁を聞いても、立法経緯の説明が不十分であると感じるところがあります。考えられることとして、認可の対象が東北大学のみとなり、国立大学の改革を予定通りにすすめたいという意図ではないかと思います。

「儲かる大学にしてこそ、学問の自由を護れる」
 国立大学法人化以来、何故日本の国立大学が世界で凋落したか。政府の政策に問題はなかったであろうか。
 これまで運営交付金の年1%の削減と、競争的資金政策が行われてきました。運営交付金の削減はよいとして、競争的資金政策とは補助金制度に過ぎません。
 競争的資金政策では、審査で有利な一部の大学に資金が集中し、また細かな個別テーマが設定されており、予算の使い道が限られ、現場は煩雑な対応に追われ、イノベーションになかなかつながりません。これはまさしくビジネスにおける補助金制度と同様の弊害です。

 健全な成長は健全な自由競争でしか成し遂げられません。ビジネスに限らず教育産業においても同様ではないでしょうか。
 世界のトップ大学においては研究資金獲得のために、民間企業による出資、共同研究、寄付制度によって独自の財源を獲得しています。日本には寄付文化が根付いていないという視点もありますが、寄付獲得のために専門の人材を確保するなどの絶え間ない経営努力を行っています。

 結果、日本の国立大学の財源依存度は東京大学においては約40%(補助金+運営交付金 東京大学FINANCIAL REPORT2015)であるのに対し、世界のトップ大学では財源依存はかなり少ない。

東京大学FINANCIAL REPORT2015

 つまり世界のトップ大学は競争と経営努力により研究資金を獲得し、優秀な人材が集まっています。 それに対して日本の国立大学では、岩盤規制や文部科学省の天下り、大学関係者は公金に依存する体質が課題ではないでしょうか。
  河野太郎衆議院議員によると、文部科学省からの出向者という名目でポストを占めている現状もある。

国立大学の研究者は、国立大学の事務方がつくるさまざまなローカルルールで苦しんでおります。アマゾンで買えばあした来るようなものを、さまざまな機関を通して、来るのは二週間後、値段は何割高い、あるいは立替払いは認めない、始発で間に合うなら前泊は認めない。さまざまなローカルルールを大学の事務局がつくって、その結果、研究者の研究時間がそがれ、研究効率は大きく低下をしている。
国立大学の事務局長を見れば、ほとんどの大学で文科省からの現役出向者が事務局長あるいは事務方の高いポジションを占めております。

河野太郎公式サイト 2017.01.27「予算委員会の質問を解説します」

現役出向者ではないが、東京大学、京都大学においては経営協議会の学外委員には元文部科学審議官の板東 久美子氏、元文部科学事務次官の佐藤 禎一氏が名前を連ねている。

国立大学法人の組織及び運営に関する制度の 概要について
平成26年12月15日 高等教育局国立大学法人支援課


 経営協議会の過半数は学外者と決められており、学長選考会議を通じて学長人事や運営に、文部科学省が現場に介入する影響力を与える余地は現在もある。
 政府が国際卓越大学を通じて目指している、世界のトップ大学においつきたいという目的はもっともだと思います。
 しかしながらその手法が依然として、官製の補助金制度の延長に過ぎず、健全な成長にはつながっていません。
 更にいえば10兆円の財源は国民の税金を原資としております。いうなれば他人のお金で運用するので果たして緊張感ある運用ができるでしょうか。官と民の違いは身銭を切る切実さと、談合と癒着に対して競争を勝ち抜いたプロに委託する分業の発想です。先述のハーバード大学の資産運用においても、専門の投資会社を設立したほどです。

 大学関係者の方達がいうように学問の自由は守れるべきです。国家の国益を守るためにこそ多様な研究が必要で時として政府の意図に反する建設的批判も必要でしょう。
 しかしながら、本当に魅力ある研究・学問であれば自由な資金獲得によって結果的に学問の自由や学生のサービス向上につながります。基礎研究や一般教養学問といったものも本来価値があるものなのですから、卒業生OBによる寄付金やプロモーション努力にって実現できるはずです。
 真に日本の国立大学を発展させるためには、国際卓越大学や本法案で可能となる、大学の規制緩和のみの実現を希望します。組織改革については縛るのではなく、各大学が自由な組織変革ができる裁量を与えては如何だろうか。本法案での組織改革の意図として、様々なステークホルダー(利害関係者)をまきこむという視点がありますが、経営改革を行うのであれば自ずと組改革は実現するかと思います。行政が枠組みを最初から決めてしまうのは自由度が失われてしまうのではないでしょうか。
 また、財源依存を脱して自立するためにも年1%ではなく10%の大胆な削減の改革もありかと思います。財源を依存しているにも関わらず、行政の統制を受けたくないという主張には説得力を欠いてしまうのは否めません。従って、学問の自由、学生の自治を自前の経営努力で勝ち取るのであれば良いのではないでしょうか。
 国立大学の発展のためには、本法案で可能となる規制緩和の実現と、運営交付金の削減による国立大学の経営改革を希望します。

その他参考記事



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?