予備試験R6 労働法

第1 設問1
1 X組合は、Y学園による会議室の使用拒否について、不利益取扱い(労働組合法7条1号)にあたるとして、会議室使用命令及びポスト・ノーティス命令の申立てを、また、支配介入(同条3号)にあたるとして、支配介入禁止命令及びポスト・ノーティス命令の申立てを行うと考えられる。
2 不利益取扱い該当性
(1)Y学園において、教職員が職務外の活動により学校施設を使用する場合、本件規程により、使用を希望する2週間前までに、学校長宛に書面により許可申請を行わなければならない。
本問におけるX組合の会議室使用の申し出は、使用予定日の1日前に口頭で行われており、申し出先も教頭であるBであるため、本件規程に沿った正規の許可申請とはいえない。このような申し出は、従前から事実上認められていたものの、労働協約に基づくものではなく、また、X組合に所属していない多くの教職員との間の不公平さを鑑みれば、正当な申請とはいえない。したがって、Y学園が当該申し出に対して、会議室の使用を拒否しても、原則として、不利益取扱いとはいえない。もっとも、当該申し出を認める従前の取扱いが、労使慣行として成立していれば、当該申し出はX組合の「正当な行為」といえ、それに対する会議室使用拒否行為は不利益取扱いにあたる可能性がある。
(2)労使慣行が成立しているといえるためには、ある行為が長期間継続して行われており、それを労使双方が排斥せず、労使双方の規範的意識によって支えられている必要があると解する。
(3)当該申し出を認める取扱いは従前から行われているものの、Y学園の一労働者たる教頭Bによって認められていたに過ぎず、Y学園の使用者が認めていたものとはいえない。そのため、使用者側の規範的意識に支えられていたとはいえず、労使慣行は成立しない。
(4)よって、Y学園による会議室の使用拒否行為は不利益取扱いにあたらない。
3 支配介入該当性
(1)  支配介入とは、使用者が、労働組合の自主性・団結性を損なわせ、労働組合を弱体化させる行為をいうと解する。使用者に、偶然にも不当労働行為を成立させるのは酷であるため、支配介入が成立するためには、労働組合を弱体化させる意思、すなわち、反組合意思が必要であると解する。
(2)  前述の通り、X組合による会議室使用の申し出は、正当な許可申請にあたらず、Y学園がこれを拒否しても、労働組合を弱体化させる行為にはあたらないとも思える。
しかし、X組合が申し出た使用予定日は、当該申し出の1日前であり、その時点で会議室の利用予定者がいなかったこと、また、X組合の使用予定時間が1時間程度と短時間であったことからすれば、X組合の当該申し出を認めても、Y学園に特段の支障はなかったと考えられる。また、X組合の会議室の使用目的は、部活動の顧問を担当する教諭の待遇改善という、労働者の労働条件・処遇についての義務的団交事項の議論を行うことであった。X組合とY学園が当該事項の交渉を巡って、激しく対立している状況であったことからすれば、X組合が団体交渉を有利に進めるために会議室を使用して議論する必要性は高かったといえるので、Y学園による会議室使用拒否行為はX組合を弱体化させるものであったと認められる。また、Y学園は、当該対立状況を認識したうえで、X組合の会議室の使用を拒否しているので、X組合の団体交渉力を低下させようとする反組合意思も認められる。
(3)  よって、Y学園による会議室の使用拒否行為は支配介入にあたる。
4 以上より、X組合の支配介入禁止命令及びポスト・ノーティス命令の申立ては認められる。
第2 設問2
1 Y学園による戒告処分について、それが懲戒処分の権利濫用にあたるのであれば、無効である(労働契約法15条)。
(1)  使用者は、企業秩序維持権を有し、労働者が企業秩序維持義務に違反した場合、懲戒処分を行うことができると解する。もっとも、懲戒処分は刑事罰類似の性質を有するので、罪刑法定主義類似の見地から、懲戒処分を行うためには、就業規則等に懲戒の種別・事由が定められ、それが合理的な内容であり周知されている必要があると解する。
(2)  Y学園教職員就業規則(以下、本件就業規則という)には、許可なく学校施設内において印刷物を配布する等の行為を行った場合、戒告等処分を行うことができる旨を定めているが、Y学園の秩序を維持するうえで合理的なものであるといえ、また、本件就業規則は教職員に周知されているであろうから、本件就業規則に基づき、懲戒処分を行うことができる。
(3)  そして、Zの職員室内におけるビラ配布行為は、Y学園の「許可なく」「学校施設内において」「印刷物」の「配布」(本件就業規則39条5項)という行為にあたり、形式的には、懲戒処分対象行為であるといえる。
(4)  もっとも、Zのビラ配布行為が実質的にY学園の秩序を乱す行為にあたらなければ、Zは企業秩序義務に違反したことにはならず、Zに対する懲戒処分は「客観的に合理的な理由」を欠く処分にあたると解する。
(5)  Zのビラ配布行為は、義務的団交事項に関する団体交渉を有利に進めるための、X組合に所属していない教職員に理解と協力を求める行為であり、X組合の組合活動に位置づけられる。たしかに、Y学園の許可を得ることなく職員室内で行った行為ではあるが、配布したビラは、1人あたり、片面印刷のA4サイズの紙1枚のみである。配布した時間帯も就業時間外の昼休みで、10分間と短時間である。直接手渡しで配布する際は、穏当な声掛けにより行っており、机上に配布する際は、ビラの内容が露見しないよう裏返して置くという方法を採っている。また、学校内における組合活動においては、教育秩序の観点から、他の教職員のみならず、生徒への配慮も要されるところ、Zは職員室内に生徒がいないことを確認した上でビラ配布を行っており、生徒に対する相当な配慮も行っているといえる。したがって、Zのビラ配布行為は、Y学園の秩序を乱す行為とはいえず、正当な組合活動にあたるので、これに対する懲戒処分は「客観的に合理的な理由」を欠いている。
(6)  よって、Y学園による戒告処分は、懲戒処分の権利濫用にあたり、無効である。
2 また、Zのビラ配布行為が正当な組合活動にあたる以上、Y学園がそれに対して戒告処分を行うことは、不利益な取扱いにあたるので、労働組合法7条1号に違反し、この点からも戒告処分は無効である。以上

(昨年度成績:C)
昨年度の設問2の答案がテキトーすぎたため、昨年度に比べれば全体的にマシではあると思う。ただ、昨年度より問題が易化しているとも思われるので、相対評価は期待できない。

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