私は異星人だったのだ。これはSFだったのだ。(掌編)

「駄目なものは駄目だ!」
何故なのかと聞いたとき、鈴木温泉さんの目は、冷ややかだった。
「西尾が既に似たようなものを発表しているからね。君も好きだろう? ああいうの」

彼や、彼らがそう言った事があった。

  懇意にしている西尾を超えそうなものは認められないと言うのだ。
 けれど何よりも、勝手に好きな物まで決めつけられたことがショックで、そのショックを隠せなかった。
 だって好きな物は自分の中で一番大事なもので、自分を作る為の基礎となるための、必要なものである。
 

――――それを、勝手に、決めつけられたことが、勝手に判断されたことが悔しくてならない。私はそんな人間じゃないのに。
 悔しさをぐっとこらえて、正直なことを端的に答える。

「決めつけないで。不安になるような曖昧なことしか言えない人より、厳しいことをビシッと言ってくれる人が好きなんですよ。あの人は八方美人なことしか言えないし、むかむかしてきます」

どうして――――
どうしてという感情はそもそも、最初は温泉さんに向けられていたのかもしれない。私はそんな人間じゃない。
ぬるま湯にしかつかれない、優しさにしか浸れない、怠けた人間に見えているのかと。
 この人にはこれが似合いそう、というのは勧められて嬉しい場合とそうでない場合がある。女顔なら女装が似合いそうと言われるような屈辱が其処には存在していた。

 残念だが、自分の意思の無い相手は何よりも嫌いだ。
だって気持ち悪いおじさん。『あの人』がそうだったから。
優しさを期待する目を向けながら、ずっと蹲り、
所有権や自分の利益にだけにはマウントを取りたがり、
出来ないことがあれば泣き喚く。

『死ね』と、思った。



とにかく
 フワフワとして柔らかそうだから、優しく聞こえの良い言葉を使う相手を好きになるだろうと勝手に決めつけられ、舐められているのだと伝わった。
それは何よりも屈辱的で、同時にこの人らは何を見ているのか? 
と思ったものである。
 確かに彼がいつも宣うのは聞こえが良い言葉ではあるが、優しさなどそこにはない。

 私自身、彼の一挙一動へは優しさを感じてはいなかった
彼の上辺の印象だけ良くして置いて人間関係で優位に立とうと言う企みが最初から透けて見えており、それを周りも感じて居るとばかり思っていた。
「よく舌が回るものだ、さすがの詐欺師である」と、感心し、笑っていたくらいだ。そして、その西尾のマウント行為に巻き込まれるというのは、なかなか、人生でも恐るべき、嘆かわしいアクシデントだったと思う。



きみの意見には反対だが、きみが意見を述べる権利は死んでも守る――――

フランスの思想家、ヴォルテールの言葉。
 常に何らかの名言集を引用してお気持ちを載せて置くのを得意とした彼の引用の一つだ。

 「思えばこれほど非の打ち所がない、意見の潰し方も珍しい」

 「えぇ、私は貴方に関わりたくはない。同時に、潰しておけるのなら素晴らしい。今日子のときから、それより前から思っていたけれど、どうして私なんぞに執着されるのか。けれど、目障りだと告げるのもあなたと接点を持つみたいで不快だ」

はっきり反対を表明した上で、二度と来るなと、以前のあのときに、表明していること、彼にも分かっているようだった。
 冒頭に戻るが、西尾と絡む気は無いと西尾は分かっている。

だから、以前に関わった際に彼はヴォルテールの引用で私を例えてそう言ったし、更に傍目にわざわざそれとはわからぬよう日記にまで記したのだ。
その本だが、もしかしたらこれを考えて居た時には市場に出回っているかもしれないから、読者の諸君が目にしたとき、どのように感慨にふけるかも見ものだ。


 驚くことに当時の鈴木温泉や、何処かの誰かは、それらの企みの意図をまるきり無視して囃し立て、なぜかあのように言っていた。

意見ではなく、夢というべきなのだとしたら、この悪夢のようなコラボも、早いところ目を覚ますときが来るというのに、出来るだけ夢を長引かせようと言うように。

あんな事件が起きてしまって私自身、驚いて居る。
悲しいとか恐ろしいとかもあるけれど、それよりも先に、驚き、数年たった今でもなお戸惑っている。
あれから10数年になるだろうか。


 西尾を始め、彼らは今も口を割りたがらない。
「守秘義務がある」と、黒塗りし、私の事――――正確には、被害者らを生み出した元凶にあるものについてを話そうとしないだろう。
杳としてしれないとはよく言ったものだ。
元凶はまさに、杳としてしれないのだから。
「守秘義務がある」を、破ることが出来た彼が語る一連を知っている者には分かるかもしれないが、同時に、これを何らかのトリックのようにおかしく語れれば幸いではあるけれど、ただの圧力にも近いものを出したって嫌な人間が居るというだけで面白みも無いので、こうしてひとまず書き留めているわけである。


 事件に関わった当事者なら、彼らの側に守秘義務がある理由はハッキリしているだろう。あれは襲撃だった。
 無意味に大がかりなものである。
まさに、じつは私は異星人でこれらの事件の真相がSF巨編だったのかとでも思いそうな大掛かりで冗談染みた襲撃からスタートしている。
そう、私は異星人だったのだ。これはSFだったのだ。
もう一度言っておこう。私は異星人だったのだ。これはSFだったのだ。
そうでないとならない。それほどの事件であったので、それは、まぁ、確かにそれこそ虚言が疑われても仕方がないと言うべきなのか。


「虚言癖を疑われるのを覚悟の上で、君について語ってもいいか?」

彼が言った質問に今答えるとするなら、回答はひとつだけだ。

「覚悟しているなら、これからたっぷり疑われてください」

 具体的に語ろうにも、急に現実離れしたような突飛な話になるのだが、まぁ、酒のつまみくらいに思って、あるいは与太話ということで、もし暇があるのだったら話半分に聞いて欲しい。


 高架下作戦をご存じだろうか?

 ロシアンブルーを特徴とした、
西尾が所属していたのではと言われる秘密組織――――隣国にある協会が絡んでいたかは定かでは無いものの、
 索敵として日本に置いてもヘリや軍事衛星を飛ばしての周辺の撮影、周回が行われた。索敵と言うのか、『機密保持の人物の情報を秘密裏に持ち帰るべく』というものかもしれない。その作戦の取引場所とされたのが、某所の有名な川に面した高架下であった。

 ヘリやらなんやらは、どうにも軍事関係の者の仕業のようだ。
元々は自衛隊に務めたこともあるという噂もある西尾だが、
彼のことなど杳としてしれない方がいいのかもしれないし、極力関わりたくはないという者も多いだろう。とにかく、そことの繋がりの中に、そういった作戦組織があるのだったら、彼らしい人物が独り言のようなブログで
「もうじき天候に不安が出ますから、警備の為に、ヘリを出すそうですよ」などと詳しくいつも呟き続けていたのも、彼の出自に基づいているのかもしれないなどと推察やら出来てしまう。
 そうだ、今更ではあるが彼への興味という面では『そちらの方』にあったことは素直に書いておこうと思う。


 高架下作戦が開始されているときというのは、ちょうど、私が中学か高校生になるくらいであった。
世間では謎に目隠し鬼ごっこが流行っていて、目隠しをした子供たちが、鬼ごっこを楽しんでいた。ルールは改変され、ほぼ隠れ鬼だったけれど。
私はというと、ちょうど様々なことが重なり、精神的にも体力的にも大変な時期であった。
 詳しくは描かないけれど、ヤバかったとだけ書いておく。
空にはいつもではないかもしれないが、何かと衛星があった。

衛星というのは、遠くから見ると、本当に、流れ星のようだ。
あの頃は空を観察することが多かったのだが、

 一般的な学校の理科あるいは生物・化学の課題に一度はでてくる
「月の形を観察する」だとかそういったものの為だ。
月には周期があり、日々形が変化することを学んだり、星が無数にあり、それらの光がどのくらい遠くから来ていて、星座があり、昔の人は位置を把握し名前を付ける、そういった情報を体感させるべく、
 プラネタリウムやら、空の観察やらしたのだ。

高架下作戦や、目隠し鬼が流行っている世間が、私にどのように影響したのか? という話は此処でするのもなんなので、一旦置いておこう。







そうそう、もし、本当に、優しいことばかり囁く人が居たら好きになるのだろうと思うかもしれない。
 だけど違う。そうじゃない、だからこそ、弱いからこそ、駄目になってしまうようなふにゃふにゃした相手とつるみたくないのである。

 聞こえの良い事しか言えない、何を言われてもいい事だけ言ってればいいような相手が嫌いで、それはもう目の敵のように嫌いで、それは一種の縛りのようなものなのかもしれないが、私は其処には居たくない。


 西尾が絡みついてきたら、首を縄で縛って息の根を止めてしまおうか。
あるいは、ゾンビのように動いてこないように、手錠を柱に括りつけようか。ナイフを喉の奥まで入れて、肺まで割いてもいい。
毒薬に使えそうなものを差し入れるのは、握力に自身の無い人には楽な方法ではあるが、相手の苦しみ蠢く姿を想像すると気持ち悪そうだ。虫を殺したことがあるが、人間だと余計に気持ち悪そうだし、すぐに死んでくれる方がいい。

殺意なのか、他者を使った自殺なのか。
そのくらい、強い感情だけは確かに存在したけれど、それは、優しさとは対極にあるものだろう。

目の前からアレが消えてくれないと、自分が駄目になりそうで、
居るだけで、殺したくなる。
そう、そのものだった。


 大事なものが壊れた『あの日』から
自分を律して、前を向いて生きると決めたのだ。

2022年12月24日1時41分

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