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「すいかの名産地」考続報 西瓜の名産地キャロライン説

「すいかの名産地」は謎多き歌である。すいかの名産地とはどこにあるのか。そもそも何故、結婚式の歌なのか。
 筆者は以前、その問いに答えるべく調査記事を書いた。

 調査結果を簡単に述べるとこうだ。

① 1950年代、日本で登山・散策ブーム到来。同時期、合唱ブーム到来。 

② ブームのさなか、日本ユースホステル協会所属の音楽家・上坂茂男が、若者に登山での合唱を指導する。

③ その過程で、アメリカ民謡の翻訳を作詞作曲家の高田三九三に依頼。それが、レクリエーション用音楽として作られた「すいかの名産地」だった。翻訳元は長年不明とされていたが、恐らく「Down where the watermelons grow」である。

④ 「Down where the watermelons grow」は1909年の演劇中に使われた歌であり、「女をものにするぜ!」という肉食系の歌詞だった。そのためか、結婚要素のみを残して、友達ができた歌に改変された。

⑤ また、曲は何故か「マクドナルド爺さん」が流用された。

 そして今回、筆者の調査内容を補完・修正するミッシングリンクを発見してくださった方が現れた。

 1949年出版の「Recreational Songs」という歌集に載っているバージョンの「Down where the watermelons grow」だ。なんとこれは、曲(楽譜)がすいかの名産地に酷似しているのだ。それどころかソロパートとコーラスパートまで一致している。

 また、歌詞もいくらか改変されている。この歌集はキリスト教会関係の出版物らしいので、過激な内容がある程度検閲されたのだろう。
 特に三行目は顕著だ。
 筆者が見つけたバージョンを作曲者から「エヴァンス版」と呼び、今回発見されたものを「1949版」として比較する。

エヴァンス版:She's a girl that I admire, She's a girl set my heart on fire
1949年版:Down where de watermelons grow, How ah love her nobody knows
高田三九三訳:すいかの名産地 すてきな所よ

 明らかに、必要なところに必要なすいかが現れている。
 How ah(I) love her nobody knows という歌詞は、他のバージョンにも表れることがあるが、まさにといった場所に現れる例はない。この1949年版系列のアレンジが「すいかの名産地」の原曲とみて間違いないように思われる。

 作曲者のエヴァンスについて語った、『America's Greatest Minstrel: Honey Boy Evans』によると、彼の劇で使われた曲は、舞台ごとにアレンジが異なったという。

America's Greatest Minstrel: Honey Boy Evans

 というのも当時の演劇は、アメリカの各地を回りながら公演を繰り返したた。そのため、客のウケがいいように、それぞれの土地のネタを取り入れた歌詞や曲に改編していたためである。
 さらにそれが口伝えで広まるため、無数のアレンジが自然発生するわけだ。例えば、「Down where the watermelons grow」にも、アーカンソー州版の「Down in the Arkansas」というご当地改編がある。

 曲調は全く違うように聞こえるが、歌詞の構成が全く同じである。オーツ麦と小麦もしっかりと結婚している。

 このような改編の流れで「Down where the watermelons grow」は、「マクドナルド爺さん」の曲を吸収して、合唱用の1949版に変化したと考えられる。そしてこの1949年版が、青少年向けの歌集に転載され、上坂・高田、両氏の目に留まった可能性が高い。

 つまり、上にあげた筆者の調査結果⑤「曲は何故か「マクドナルド爺さん」が流用された。」は誤りである。実際には、アメリカにいた時点で「Down where the watermelons grow」は「マクドナルド爺さん」と合流していた。また、歌詞もある程度、合唱向けにアレンジされていた、というのが事実だろう。
 今回見つかったバージョンには3番の歌詞がないので、この1949年版系列のアレンジで3番が加えられているもの、が「すいかの名産地」の元ネタなのだろう。

 本題はここからである。この1949年版には見過ごせない歌詞のアレンジが加わっているのだ。一番最初の歌い出しである。

エヴァンス版:I've got a girl named Caroline 
1949版:Ah's got a gal in Caroline

 そう、「キャロラインという娘」から、「キャロラインの娘」への変化である。Carolineという単語が、人名から地名に変化しているのだ。
 理由はわからない。レクリエーション中に同名の女性がいると気まずいからという、それだけの理由かもしれない。結婚ソングにするために匿名としたのかもしれない。個人名を出して、「手に入れた」などと歌うのは猥雑さがあるとか、そういうキリスト教的な潔癖さかもしれない。わからないのは仕方がない。
 重要なのは、「すいかの名産地」関連の資料で初めて、具体的な地名が示されたということだ。もしこの、gal in Caroline という歌詞を元に高田三九三が翻訳をしたのなら、「すいかの名産地」の舞台は、アメリカ国内のキャロラインと名の付く場所であると仮定できるのはないだろうか。

 Wikipediaで調べると、米国内である程度の知名度があるキャロラインという土地は以下の通りだ。

 地図にするとこの通り。

 やたらと東に偏っているように見えるが、恐らくキャロラインという地名が、イングランド王のチャールズ1世・2世に由来しているためだろう。この時代のイングランドは、アメリカ大陸の東部をやっとこ獲得したぐらいなもので、西部開拓はまだまだ後のことだ。

チャールズ2世(1630-1685年)

 この地図中で、西瓜の生産量がある程度あるのは、ヴァージニア州とメリーランド州である。他の州は北に位置しすぎている。1949年版の歌が作られた時代なら今より気温も低かったであろうし、なおさらだろう。

 というわけで、「すいかの名産地」で歌われている場所はどこか? といに対して、暫定的な答えは以下の通り。

答え:ヴァージニア州かメリーランド州のどちらかのキャロラインである。


(「すいかの名産地」考続報 終わり)




 ところで調査中、ヴァージニア州ではクソデカすいかを作って、農家のおっさんたちが競い合う謎のコンテストがあることが判明した。

 こうなっては仕方がない。「すいかの名産地」の場所はいまだに謎のままだが、筆者が独断で結論を述べる。

答え:「クソデカすいかの名産地」は、ヴァージニア州キャロラインである。


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