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皐月健太さんとの合作台本です。


2人用台本(男1・女1)

所要時間:約10分

配役
男性:毎日女性にメール送る人
女性:毎日男性にメール送る人


男性:夜風が少し寒くなり始め、部屋の窓をパタンと閉めて寝ようか考える

男性:ブーブー

男性:タイミングを見計らっていたかのように、今日もいつもの人からメッセージがくる

男性:「こんにちは」



女性:風通しのいい田舎には、すでに肌寒い季節になり、カーディガンを羽織ってスマートフォンを見る

女性:今日も彼からきた数時間前、あるいは昨日のメッセージを見て、日付も変わろうかという頃に、まずこう送る

女性:「こんにちは」



男性:いつから始まったのかは分からない

男性:しかしいつどの時間に送ろうとも、メッセージの始まりは必ず

男性:「こんにちは」

男性:続いて送られてくる彼女の本文を見て、まず私は一言こう送るのだ

男性:「ごきげんよう」



女性:今日見た雑誌に載っていたスープ料理を見よう見まねで作って見たの

女性:雑誌の写真のように綺麗に撮れたのよ

女性:「スープ料理作ったの、今度送るね。味はまぁ、・・・ね」

女性:寒くなったから、暖かいものを食べたくなるよね



男性:どんなスープかも分からないのに、写真を見る前から飲んでみたいなと思う一言

男性:「俺もこの間肉じゃが作ったから送るね」

男性:何故対抗しようとしたのか分からない

男性:多分彼女から自分と同じように思ってほしくて

男性:こう返してきてほしかったのだ

男性:「食べてみたい」



女性:「肉じゃが!」

女性:と、笑みがこぼれる

女性:大好きな料理の1つだったから

女性:肉じゃがを作っている彼の姿を思い浮かべ、また笑みを浮かべる

女性:「楽しみだわ」



男性:彼女の姿を見たことはない

男性:けれど楽しみと言った彼女が

男性:この写真を見たらきっと笑ってくれるのだろう

男性:私はそれがたまらなく嬉しいのだ

男性:「ところで今日は何してた?」



女性:「今日は公園で本読んでたよ」

女性:休みの日は、家とは別の場所で本を読むのが好き

女性:ホットの缶コーヒーさえも美味しく感じるこの季節も好き

女性:あなたは何が好きなんだろう?

女性:フッと抱いた素朴な疑問に

女性:私もすぐ質問を

女性:「あなたは今日何をしてた?」



男性:彼女の過ごし方があまりにまぶしくて

男性:コーヒーが好きなのをいいことに

男性:ただ家でゴロゴロしてたのを、それっぽく綺麗に伝えた

男性:「コーヒーが好きでね、自分で挽いたコーヒーを飲んで、家でゆっくりしてたよ」



女性:挽いたコーヒーの匂いがした

女性:視覚しか機能していない感覚が

女性:あなたとの「文」の言葉で、それ以外も感じる気がする

女性:「今日は特に冷えたね。暖かい場所が1番よね」



男性:暖かい場所、温かい場所

男性:少なくとも私にとって彼女の毎日のやり取りは

男性:間違いなくあたたかい場所となっている

男性:そんな恥ずかしいことは文章に載せることはないが

男性:それでも私にはこの必要な場所を、あたたかい文章で今日も

男性:「お互い風邪を引かないようにしないとね。何もしてあげられないから」



女性:何もしてあげられないから…

女性:このやり取りが心地いいの。

女性:と、思いつつ……、なんだかその文にうら寂しさを感じる

女性:「今年は寒暖差激しいね。お互い気をつけましょう。何もしてあげられないから」

女性:思いがけず私も寂しい文章を送ってしまった



男性:何もしてあげられない

男性:だけどこのあたたかい場所は

男性:何もしてあげられないからこそ温もりがあり

男性:だから何もしてあげられなくても

男性:何かはしてあげたいと思えるのだ

男性:「うん、もし風邪を引いてもメッセージは送り続けるから。心配だけはさせてもらうよ」



女性:文面から、あなたの優しさを、ふわっと感じ

女性:ほんのりあたたかい気持ちになり、そっと眼を閉じた

女性:少し風が出てきたのか、窓がカタカタと心地よいリズムを刻んだ

女性:あなたの文章一つ一つにいちいち一喜一憂してしまう私に

女性:思わずクスっと笑ってしまった

女性:「風、出てきたわ。そろそろ寝るね。おやすみなさい」

男性:いつから始まったのかは分からない

男性:しかしその日のやり取りを終わる時は必ず

男性:「おやすみなさい」

男性:まだまだ話足りないような

男性:十分今日は満たされたような

男性:言葉にできない感情を

男性:私は別の日のいつかに

男性:きっと彼女に伝えるのだろう



女性:本当はまだあまり眠たくない

女性:彼の次の日の仕事を考えて

女性:私はいつも早めにやり取りを切り上げる

女性:そんな表向きな思いとは裏腹に

女性:本当は彼から先に

女性:「おやすみなさい」

女性:を言われてしまうと、肌寒さが少し増すような気がするから

女性:そんな少しめんどくさいと思われるようなことも

女性:私は別の日のいつかに

女性:きっと彼に伝えるのだろう



男性:いつも必ず先に

男性:「おやすみなさい」

男性:を言う彼女に、私は今日いつもとは少し違う返し方をして

男性:今日を微笑んで終わる

男性:「おやすみなさい」

男性:「また、明日」



女性:うつらうつらと眠気がきた私は

女性:ブーブー

女性:と鳴ったスマートフォンに目をやり

女性:思わず微笑んで、眠りについた

女性:返信しなくても

女性:きっと私がうっすらと呟いた言葉は彼に届いて

女性:眠りについてくれるのだろう

女性:「また、明日」


終わり


読んでくれてありがとうございます🙇‍♀️

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