見出し画像

堀口恭司の使命。~RIZINバンタム級GPを越えて~(後篇)

2015年4月25日、オクタゴンのなかでUFC“絶対王者”デメトリアス・ジョンソンに挑戦した堀口恭司は、2017年12月29日と31日、さいたまスーパーアリーナのリングに立っていた。

2日間で3試合、最後に対峙したのは、2013年6月22日の「VTJ 2nd」で5R戦ったことがある石渡伸太郎だった。

UFC離脱、米国ATTでのトレーニング、そして一期倶楽部での師匠との再会──大きな決断をした堀口恭司は、あのGPで何を考え、何と戦っていたのか。3月17日(土)に発売される『ゴング格闘技ベストセレクション 1986-2017』刊行を記念したインタビュー第1弾の後篇。(試合写真=RIZIN FF, GONG KAKUTOGI/WAKAHARA MIZUAKI)

堀口恭司インタビュー 前篇

石渡選手なら立ってくるだろうなって。このままじゃ終わらないだろうと思っていました

——決勝戦は、2013年6月「VTJ 2nd」以来となる石渡伸太郎選手との再戦になりました。石渡選手が決勝に上って来たのを見て、どう感じていましたか。

「全然、石渡選手が勝って来ると思っていました。気持ちが違うんで……。自分ともう1回やるためにRIZINに来たと言っていた石渡選手となら、日本人対決だし絶対に盛り上がるなって」

——決勝戦前に右瞼は縫合されていました。この試合の前も緊張は?

「緊張は全くしてなかったですね。3試合しっかりと戦えるだけの体力を用意してきて、入場も軽くハネてたし(笑)」

——リング上で4年半ぶりに石渡選手と対峙して、どう感じましたか。

「最初の攻防があったときに、前とだいたい変わらないなって思いました。1回やってるので、フック系が得意だなと。フェイントかけたときに右フックを狙っていたのは分かったんで、それに対応するにはストレート系だなと。で、自分の頭をここ(同じ位置)に残しておいたら駄目なので下げたりとか、横に出したりとか、そういうのを考えていました」

——オーソの堀口選手の入りにサウスポーの石渡選手が右を狙っていた。途中、堀口選手の左の突きに、今度は石渡選手がヒザ蹴りと左フックを合わせてきました。互いにハードヒットだったと思うのですが、効かなかったですか。

「肩口で受けたんで大丈夫です。頭やみぞおちにもらったら効くんですけど、ずらしたんで」

——そのまま蹴り足を掴んで、肩口まで上げてのテイクダウンも見事でした。あそこまで上げられるとバランスのいい石渡選手でも片足で立つことが難しい。そのスラム直後に右足をほぼ越えていました。

「やっぱりレスリングだけじゃないんですよね。その繋ぎの部分もずっとやってきたんで自然に動きます」

——それでもまだハーフガードで左腕は枕に、一度、腰を切ってパスガードを仕掛けて石渡選手もすぐにハーフに戻しています。堀口選手も右腕は脇を完全には差させていなかった。そこからマウントを奪いに行きました。あの石渡選手の上半身を寝かせたのは、GPでも多くの選手が出来なかったことだと思います。

「肩や腰の位置やいろいろあるんですけど、絶対にパスガードをするときはピチッと(タイトに)やらないと駄目なんです。上半身を固めないと。体重のかけ方です。全体重をこっち(肩)に乗せちゃって足はもうふり抜ける」

——パスしかかったときに石渡選手も足を戻そうとしていました。その圧力のなかで、バックマウントを取る瞬間、あれは相手を後ろに向かせたのか、それとも相手が後ろを向いたのか……。

「あれは……相手が向いたんです。プレッシャーをかけて相手が後ろを向いたので対応しました」

——つい、あの試合が2日間で3試合目ということを忘れて聞いてしまうのですが……あの場面で決定的なダメージを与えることになります。非常に強いパウンドで石渡選手の頭がロープの間から出て、一瞬、力が抜けるように顎が上ったのですが、それでも頭をリングの中に戻してきてコーナーを背に立ってきたときはどう感じましたか。

「想定内です。石渡選手とは1回やっているので立ってくるだろうなって。打たれ強いことも知っていたし、これじゃあ終わらないだろうと思っていました」

——あのパウンドを効かせながら、立ってくるだろうと?

「1回、試合やってるんで、やっぱ来たかって。ハート強いのは分かってたんで」

——そして石渡選手が打ち返してきたところでゴング。2Rの出だしはどう考えていましたか。

「勝負に来ていたのは分かったんで、いつ合わせようかと。まあ狙ってたんです、ストレート」

——右のカウンターでした。

「狙ってましたね。(石渡の)フックというか、たぶんジャブだと思うんです。ジャブでボーンって(入って来た)。相手ももう来てくれてたんで入るなと思って。自分から行きながらも、左に出ながら合わせました」

——頭の位置もずらしていた。石渡選手がダウンして、パウンドも速かったです。

「また立たれないように。追撃でしっかり沈めておこうと思って」

——RIZINを背負う責任からでしょうか。堀口選手のフィニッシュへのこだわりが痛々しいほどに感じられたGPでした。今回、真っ直ぐの突きと、オリベイラ戦の左フックのように、ボクシングが融合していたようにも見えました。

「そうですね。ちょっといつもより距離を近づけて、ボクシングでも戦ってみようと考えていました。今回、ボクシングコーチのマイキー・ロドリゲスも来てくれたので、そういった心強さもありましたね」

——出入りに加え、近い距離でのパンチの攻防の時間も多かったです。

「そうすれば相手もプレッシャーかかるじゃないですか。いつもみたいに遠くにばかりいると、やっぱり自分は入れる距離だけど、相手にはプレッシャーがかからないこともある。だからもうちょい近づけてプレッシャーかけてみようって」

——近くなる分、飛び込みのステップが困難になったり、威力はどうなるのかと思っていたのですが、そんなことはなく……。

「それは大丈夫でした。これまでも試してきてたんですよ。試合のなかでいろいろと」

アメリカでは感情を殺している。でも……

——試合のなかで“掛け試し”とは空手時代からのものでしょうか。UFCのときもそんな言葉を聞きましたが……しかしいつ聞いても堀口選手の平常心には驚かされます。

「淡々と……。なんかたぶんおかしいんですよ。機械的なんですよ、自分。あんまりワーッとかならないんです」

——パニックにならない?

「パニくらないですね」

——心拍が上がらないから、余計なスタミナも使わないのかもしれないですね。痛くても?

「いやあ、痛てえなと思うぐらいです(笑)。感情があまりないのかもしれない……」

——いえ、二瓶弘宇先生や子供たちとのやりとりを見ていて、堀口選手に感情が無いとは思いません。ほんとうの世界の頂と対戦する、その訓練のなかで身についてきたのではないですか。

「……だから嫌いなアメリカに行ってるんです。自分の好きな空手の練習はアメリカじゃできないから、本当はもっと日本で空手の練習をしたいですよ。でも、いまMMAファイターとして成長したいなら、MMAを最も研究しているアメリカなんですよ。でも練習漬けの生活になる。それに耐えるのに、その部分(感情)はいらないわけじゃないですか。そんなのを持ってたら毎日、練習ができない。だから自然と自分の中で感情を殺して……、もう無になってるんですよ」

——感情を押し殺して無になる……あの華やかな舞台に立っている選手が、これほどまでに孤独な日々を過ごしているとは、多くの人が想像がつかないと思います。

「合宿がずっと続いている感じです。練習終わってそのままジムの2階の部屋に上って、シャワー浴びて身体休めて、また午後の練習やって……1歩も外に出てない! ってときもあります」

——煮詰まってしまいませんか。

「気晴らしくらいはします。たまには釣りに行ったり、ゲームをしたり……」

——ちなみにどんなゲームをやるんですか?

「『ARK』ってわかります? 恐竜時代の」

——プレイステーションですか?

「恐竜時代に原始人が主人公なんですけど、木とかからどんどん道具を作って、恐竜を倒したり、手なずけたりとか、そういう感じです」

——よりレベルの高い大きな恐竜を倒すことが目的ですか?

「そういうんじゃなくて、オープンワールドで、何してもいい。ミッションとかないんですよ」

——ゲームの中くらいは……。

「自由を求めてる(苦笑)。なんでも作れるし、どこにでも行ける。自分の家も作れます」

——ジムの2階の寮ではなくて、好きな家を作れると(笑)。

「その中では自由なんです!(笑)。そうでもしないと、普通のヤツだったら(メンタルが)もたないですよ。寮から1階に降りたらすぐ練習ですから。だから無になってるんです。感情を無くして」

——米国社会ではマストの車も、マネージャー氏によると危険とか、様々な手続きの煩雑さもあって入手していないそうですね。

「でもそんなこと言ってたらずっと自転車じゃないですか。“足”はないと。この周辺でチャリを使っているのは、子どもくらいですよ!」

——その自転車もロビー・ローラーから譲り受けたものでしたね。

「『チャンピオンからもらった自転車』って言われるんですけど、自転車は自動車じゃないですからね(苦笑)。まあ、でもアメリカは別に好きで行っているわけじゃないですから。強くなるため、技術を求めるために行っているわけで、強くなること以外のことをアメリカに求めてはいないですし、コーチたちも強くなるために最高の環境を用意してくれているとは思っています」

——たしかに、アメリカは嫌いだ、と言いながらもマイク・ブラウンらセコンドたちとのやりとりからは信頼関係が伝わってきます。試合後、バックステージで堀口選手がブラウンの肩にベルトをかけて、ブラウンのあの笑顔を見たら……。

「そりゃあ、そうですよ。1年365日一緒に過ごしているようなものですから。感謝しています。気遣ってもくれるし」

——「練習出過ぎじゃないか」とか?

「そうそう。それで休むと『どうしたんだ?』って(笑)」

——それにしても、強くなっているという手応えを試合で確認できることは大きいですね。UFCの時は年間2試合だったことを考えると……。

「そうですね。試合が無いと練習漬けの日々が延々と続くだけでストレスが溜まる一方だったのが、こうして日本でコンスタントに試合が出来ることで、練習で感じている(成長の)手応えを試合で発表できるし、試合前に日本で動きの確認もできます」

——二瓶先生の一期倶楽部で試合前に少ない期間でも、動きを確認することは今でも大事な作業なのですね。

「はい。やっぱり人間ってやっていなかったら忘れていくし、そのための筋肉だって衰えるし、修正も必要です。ずっとやっていた空手でも、アメリカで体は動かしていても、技術は違う。頭では分かっていても、体が動かないですから」

——自分一人の確認では限界がある?

「先生たちに見てもらってここが悪いって言ってもらいます。自分では気付けないことがほとんどですから。だから間違った動きをしてしまう」

——今回のGP前には、二瓶弘宇先生からどんなアドバイスをいただいたんですか?

「今回は修正点がなかったんです。『しっかり相手を見て、目だけ外すな』。それだけでした。『今回、お前の動きはいいから』と言ってもらえてたんで」

——二瓶先生と応援してくれる人たち、指導している子供たちにも試合を、勝利を見せることが出来ましたね。

「……帰って来て良かったな、と思いましたね」

那須川天心選手とはトップ同士がやれば盛り上がる。
日本でもMMAをスポーツにするのが、自分の使命

——会見では、デメトリアス・ジョンソン(DJ)について聞かれ「今なら勝てます」とコメントしました。あの時は万全の状態では無かったとも後にチームから聞いています。そして、全ての面で3年前とは全く変わっていると。

「違いますね。あのときは寝技が出来なかったし、反応も違うし、自分のスタイルも全然違うと思います。もう負けないです」

——UFCでは最多防衛記録(11)を持つDJも年間2試合に留まっています。フライからバンタム級の強豪を“賞金首”として日本に呼び寄せたいと?

「そうですね。今回、UFCにいたイアン・マッコールが参戦してきたみたいに、『RIZIN、来ない?』って。自分がいることでトップファイターを呼び寄せられればと。RIZINを、日本の格闘技を盛り上げるために自分は帰ってきたんで」(※後日、5月6日『RIZIN.10』マリンメッセ福岡大会でマッコール戦が決定)

——盛り上げるという意味では、会見では無敗の“神童”那須川天心との試合の話も出ていました。しかもキックボクシングルールでいいと?

「全然いいです。やっぱり日本の格闘技を盛り上げないと。盛り上げるには、トップ同士がやれば盛り上がるじゃないですか。そういうのもありですよね」

——試合ではボクシンググローブでも?

「ボクシンググローブでも。それで試合をやったことはないけど、まあいいかな(笑)。あまりグローブの違いは関係ないです。KIDさんが魔裟斗さんと大阪ドームでやったみたいに、MMAと立ち技のトップ同士でやれれば」

——以前、那須川選手とはスパーリングをされたこともありましたね。やるならMMAルールでなくていいんですか。

「キックでも勝つ自信はありますよ。MMAだったら勝って当たり前。だって(那須川は)寝技ができないじゃないですか。年末のRENA選手だって負けるのは仕方ないんですよ。それ専門でずっとやってきたわけじゃないから。MMAはそんなに甘くない。また積み上げてやり返せばいいんです。自分は、立ち技だけでももともと空手をやってきたから、あまり戦い方は変わらないです」

——ほんとうにRIZINを背負って立つ気概を感じます。今回のGPを経て、周囲の反応も変わってきました。最初にUFCから戻ってきたときは、コアではない格闘技ファンの反応は……。

「アイツ誰だよって(笑)。UFCから日本に戻るときも最初は反対の声が多かったんですよ。『何でだ?』って。誰にも相談しなかったし。でもしっかり説明したら、納得してもらえました」

——UFCでのフライ級戦線の状況、二瓶先生の闘病のこともあって、日本で試合をすることになって、いまどんな目標を持っていますか。

「日本の格闘技を盛り上げること、格闘技をもっと広めるために日本に戻ってきました。日本でも格闘技を野球やサッカーのようにメジャースポーツにしたい。武道を子供の頃からやってきた人が、プロスポーツとして次のステップでやっていける、RIZINをそういう舞台にしたいです。そういう自分を応援してくれる人たちのためにも、日本で試合をして格闘技の面白さを伝える、日本でもMMAをスポーツにするのが自分の使命だと思っています。そのために、格闘技にすべてを賭けてやっています。これからのRIZINを楽しみにしていてください。もっともっと盛り上げていきます!」


◆『ゴング格闘技ベストセレクション 1986-2017』発売記念企画第2弾は、石渡伸太郎ロングインタビュー。10月、福岡大会の1回戦から4試合を戦い、大晦日に「勝者にして敗者」となった石渡の、壮絶な闘いとは?

————————————————————

『ゴング格闘技ベストセレクション 1986-2017』
 3月17日(土)イースト・プレスより発売

堀口恭司と二瓶空手のルーツを辿る「師弟の空手」も収録した『ゴング格闘技ベストセレクション 1986-2017』が3月17日(土)イースト・プレスより発売。本文二段組、560頁に及ぶ第1弾の今回は歴史篇。柔道、柔術、レスリング、バーリトゥード、MMA、空手、キック、立ち技格闘技──ゴン格31年の取材史に書き下ろしコラムも収録! 詳細 → http://goo.gl/Enmvrc

————————————————————

◆RIZIN.10
5月6日(日)マリンメッセ福岡
開場13時30分 開始14時30分 終了予定20時30分

【決定カード】※3月8日時点

▼バンタム級(61.0kg契約)RIZIN MMA特別ルール 5分3R
堀口恭司(アメリカン・トップチーム)
イアン・マッコール(米国)

▼70kg契約(ライト級)5分3R
矢地祐介(KRAZY BEE)
ディエゴ・ヌネス(ブラジル)

▼49.0kg契約 RIZIN女子MMAルール 5分3R ※ヒジあり
浅倉カンナ(パラエストラ松戸)
メリッサ・カラジャニス(カナダ)

▼ストロー級(53.0kg)RIZIN女子MMAルール 5分3R
ウェイリー・ジャン(中国/ブクンルンファイト女子同級王者)
村田夏南子(フリー)

▼120kg契約 5分3R ※ヒジあり
アンテ・デリア(クロアチア)
ヒカルド・プラセル(ブラジル)

▼59.0kg契約 RIZIN MMA特別ルール 5分3R
マネル・ケイプ(アンゴラ)
朝倉 海(トライフォース赤坂)

▼51.5kg契約 キックボクシングルール 3分3R
石井一成(東京KBA)
栄井大進(TARGET)

▼63kg契約 キックボクシングルール 3分3R
北井智大(チームドラゴン/RISEライト級3位)
3月18日「RISE WEST.10」福岡大会トーナメント優勝者

【出場予定選手】
那須川天心(TARGET)※キックボクシングルール

◆大会概要
「RIZIN.10」マリンメッセ福岡
2018年5月6日(日) 13:30 開場 / 14:30 開始
※開場・開始時間は予定。

【チケット】
一般発売:2018年3月11日(日)10:00~

VIP席:100,000円(特典付)
SRS席: 20,000円
S席: 10,000円
A席: 6,000円
※ 全席指定・消費税込。
※ 1歳よりチケットが必要。
※ 車いす観戦はA席購入。チケット記載の席番とは別の指定スペースでの観戦となる。

イープラス
ファミリーマート各店、店内Famiポートでも購入可能。

チケットぴあ
TEL:0570-02-9999〈Pコード=838-116〉
セブン-イレブン、サークルKサンクス、チケットぴあ各店でも購入可能。

ローソンチケット
TEL:0570-000-732(オペレーター対応・10:00~20:00 年中無休)〈Lコード=82242〉
> ローソン・ミニストップでも購入可能。

ticket board

【問い合せ先】
イベントについて
RIZIN FF事務局 
TEL:03-5772-3223
(受付時間平日11時~18時)

チケットについて
キョードー西日本
TEL:092-714-0159
(平日10時~19時 土曜10時~17時)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?