『Vanda』佐野邦彦氏と私(五味洋子)の連載について

 先日まで noteにアップしていた『Vanda』からの原稿再録が完了したので、この機会に掲載元の同人誌『Vanda』(後に『VANDA』)について書いておきたい。
 といっても編集発行人の代表(故)佐野邦彦氏とは原稿を介したお付き合いだけだったので、佐野氏及び『Vanda』について特に詳しいことは知らない。
 それでも、遣り取りを通じた佐野氏の礼儀正しさと、誌面を通して伝わる知性と教養は実に好ましいもので、手元にある『Vanda』のどのページを開いても佐野氏(と共同編集発行人の近藤恵さん)の目を感じる。
 佐野氏は元々、同人誌界の老舗で現在も続く『漫画の手帖』(1980年創刊、編集:藤本孝人氏)に関わっており、『漫画の手帖年代記クロニクル』(漫画の手帖史編纂委員会編)収録の各号の目録によると1981年の3号で誌面に登場している。
 当時の『漫手』は、「まんだらけ」の古川益三氏が参加していたり漫画古書店ガイドが連載されているように、古書コレクターが中心の小型(B6版)同人誌だった。
 佐野氏が同誌の編集に加わるのは同目録によると1981年12月発行の6号からで、編集・佐野邦彦 発行・藤本孝人と記されている。
 佐野氏加入後、同誌は急速にアニメ寄りに舵をきり、次の7号(1982年3月発行)で森康二特集が組まれ、インタビューと年表、絵本不完全リスト等を掲載、その後も大塚康生、宮崎駿、小田部羊一、桜井美千代、等々のインタビューや記事を掲載。また、新井素子、ふくやまけいこ、とりみき、吾妻ひでお、等々豪華執筆陣によるリレー連載『ぬいぐるみ殺人事件』を開始、本誌執筆者も漫画関係者のみならず広がり、増刊・別冊も多く精力的な展開がなされる。
 私は1989年1月発行の28号から参加、編集部がつけてくださった『五味洋子のアニメーション見聞録』のタイトルで連載開始、今に至る。
 そもそもは実弟・富沢雅彦が『漫手』編集発行人の藤本孝人氏の奥様いづみさんが主宰するサロン型同人誌『をとめBOOK 』に一時期参加しており、その死去後に私が編集した『富沢雅彦追悼集』で私といづみさんのご縁が出来、『漫手』にも『追悼集』発行と通販のお知らせを載せていただいたご縁で佐野氏からコンタクトがあり、連載へつながったというもの。
 佐野氏は1990年12月に『漫画の手帖』増刊として『Vanda』を近藤恵さんと共に編集(発行は藤本孝人氏)、特集ムーミンとリクオの二本立て、他にTHE BLUE HEARTS やDEEP&BITES 等の記事も掲載、佐野氏らしい一冊をものしている。版型は当時の『漫手』と同じA5。『Vanda』はこの発展形であり、当初は『漫手』の増刊としての続刊を想定していたようだが、結局、佐野氏は1991年9月発行の33号を最後に『漫手』を離れ、近藤さんとVanda編集部として新生『Vanda』(A4版)に専念。『漫手』は1992年2月発行の34号から編集発行は藤本孝人氏一人の名になり現在に至る。両者の間に何があったのか、或いは何もなかったのか私は門外漢で全く知らず、『漫手』の連載はそのまま時評として継続、『Vanda』にも佐野氏の求めに応じて執筆を開始。
 『Vanda』は当初は漫画・アニメ・音楽・雑学を柱とし、漫画とアニメは毎号テーマを決めた特集を組み、不特定複数の執筆者が編集部の求めに応じて参加する形式だった。私の経験でいえば編集部としての姿勢が明確で、作品毎に、今回はドラマ性を中心に、或いはキャラクターの相関関係に着目したい等のオーダーがあり、文字数は4000字(400字詰め10枚)が目安。
 当時はワープロ普及期だったので原稿はワープロで作成、データを保存したフロッピーディスクを郵送し、編集部で縦書きの誌面に合わせ、スチル(のコピー)を加えて編集してくれていた模様だ。
 『Vanda』は佐野氏の志向を反映して次第に音楽記事が増加。アニメは東映長編や宮崎駿、出﨑統作品等の特集が一段落した辺りで特集という形を取らなくなり、次第に執筆も私一人の時が増え、よく一緒に参加していた池田憲章氏も途中から池田氏のもう一方の興味の的である外国TV映画シリーズにテーマを変更。漫画は1995年9月に近藤さんが中心となる姉妹誌『縦横(じゅうおう)』を発行してそちらに移行。私も『Vanda』共々執筆をとお誘いを受けたが、『漫手』と三誌はさすがに厳しくこれは辞退。
 『Vanda』は1995年6月発行の18号から『VANDA』と表記を改め、年2回刊のほぼ全面的な音楽(洋楽)誌として誌面も横書きに一新、販路も広げ、新たなスタートを切った。
 佐野氏からは『長靴をはいた猫』と『わんぱく王子の大蛇退治』について書いてほしい等と具体的なリクエストもあり、また、原稿を送る度にきちんと感想が届き、完成した本誌と共に次号の予定が伝えられるという具合(これ大事。『漫手』もこれがあるので現在も何とか連載が続いている)で、信頼関係は途切れることなく続いた。22号からは取り上げる作品は私の自由となっている。
 やがてネット時代の到来と共に『VANDA』だけでなく『Web VANDA』へ、更にスカパー!の『Radio VANDA』へと活動範囲を大きく広げ、紙の『VANDA』が役割を終える直前まで約10年近く連載は継続したのだった。
 あふれる意欲と熱意と裏腹に佐野氏はやがて病を得、入退院を繰り返しながら苦しい闘病(その様子は今もFace Bookに残る佐野氏のページに記されている)の末に2017年、まだこれからという60歳で惜しまれつつ世を去った。
 私は洋楽には全く疎いので佐野氏が世間的にどのような位置にあったのか知らないけれど、多くの人が今もその死を悼んでいる。
 手元に残る『Vanda=VANDA』のバックナンバーは今も知的で明るくセンスよく、陽の気質を放っている。
 誰に見せても恥ずかしくない、そんな『Vanda=VANDA』が』私は好きだ。『Vanda=VANDA』に関われて本当に良かったと思う。これが無かったら、何回も見返しを要する各作品の感想をまとめることなど不可能だったと思う。多くの作品はその後、自著『アニメーションの宝箱』の評の礎となった。
 改めて心から佐野氏に感謝を捧げ、ご冥福を祈りたい。

 note に再録した原稿は以下の通り。再録に当たって作品名の「」を『』に改める、note の表示で読み易いように改行を増やす、適宜注釈を入れるなどした。
 3号 母をたずねて三千里
 4号 ガンバの冒険
 5号 太陽の王子 ホルスの大冒険
 6号 (休載)
 7号 旧ルパン三世
 8号 森康二さんのご逝去に寄せて
 9号 宝島
10号 アルプスの少女ハイジ
11号 未来少年コナン
12号 劇場版エースをねらえ!
13号 若草物語 ナンとジョー先生
14号 どうぶつ宝島
15号 DRAGON QUEST ダイの大冒険
16号 ライオンと狸(ライオンキング&平成狸合戦ぽんぽこ)
17号 パンダコパンダ
18号 ルパン三世 カリオストロの城
19号 (休載)
20号 長靴をはいた猫
21号 わんぱく王子の大蛇退治
22号 ドラミちゃん ミニドラSOS !!!
23号 ウルトラマンティガ
24号 機動武闘伝Gガンダム
25号 地域振興券で映画を見よう
以上
 読み返すと、ドラマ性に着目など編集部の求めに応じた部分もあるのだが、もっと別の書き方も出来ることに気づき、また書き足らない部分も自覚する。既に忘れている感想や当時の考え方を知り、文章に残しておくことの大切さも再認識した。この再録は、何よりも自分にとって良い機会になったと思う。
 この文章にしても、下書きを始める前はほんの数行の覚え書きのつもりだったのに、気づけば驚きの文字数になっている。やはり書くことは大事だ。


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