『ジュゼップ 戦場の画家』

WOWOWの「世界の秀作アニメーション」で再見。
初見は第11回フランス映画祭(2021)の有料配信で。
東京アニメアワード2021では『ジョセップ』の題で長編グランプリを獲得した。
監督は風刺画家のオーレル。ジュゼップのスケッチに触発された彼は10年の歳月をかけて映画化。製作を『戦場でワルツを』のセルジュ・ラルーが務めた。
74分。フランス・スペイン・ベルギー合作。

舞台は1939年、第二次世界大戦直前のフランス。
隣国スペインからフランコ政権の独裁を逃れて国境を越えた人々はフランスの難民収容所に強制収容された。難民の一人、画家のジュゼップは混乱の中で生き別れになった婚約者を探していた。
ジュゼップの収容所での過酷な体験と、気の優しい新入り看守セルジュとの間に芽生えた友情を、年老いて死を目前にしたセルジュが病床で孫息子に語る思い出話として描く。
ジュゼップはバルセロナ生まれの実在のイラストレーター、ジュゼップ・バルトリ。
強制労働こそないが収容所の暮らしは飢えと病、看守の横暴と暴力にまみれて悲惨だ。
描写は暗い色調で色数も少なく、アニメーションというよりも紙に描かれたスケッチの感覚が強い。ジュゼップ自身が描いたスケッチも随所に挿入されるが、精緻な描き込みによる線画から凄惨さが滲む。
看守と収容者だけでなく、フランス人看守から黒人として蔑まれるセネガル人兵士との葛藤もあり、一筋縄ではいかない。
収容所での様々な点景が描かれる。
後に収容所を逃れたジュゼップが亡命先のメキシコでセルジュと再会する場面もあり、ジュゼップは実在の画家フリーダ・カーロのアトリエに滞在している。ジュゼップとフリーダの交流も事実であるらしい。
メキシコ、そして現在の場面では画面は明るく、豊かな色彩が点在している。動きもよりアニメーションらしい。
こうした表現スタイルの変遷も映画の見どころのひとつだ。
映画がジュゼップ自身の物語でなく、年老いて記憶も定かではなくなった元看守セルジュが彼の目を通したジュゼップを孫息子に語る入れ子構造となっていることにも妙味がある。

この作品も実在の人物と歴史的出来事を描くアニメーション・ドキュメンタリーの範疇だが、かつてあった収容所の悲惨を描くよりも、映画からはもっとその向こうにある人生そのものを見つめる眼差しを感じる。
フリーダが語る、色を受け入れた時に恐怖が克服されるとの言葉。
晩年に描かれたジュゼップの、線でなく色面で描かれた絵は鮮やかなオレンジに満たされている。
エンディング曲も心の琴線に触れる。

同じアニメーション・ドキュメンタリーの範疇であっても、その味わいはそれぞれに異なり、それぞれの深さで胸に迫る。
初見では動きの乏しさからアニメーションとしての魅力は少ないと感じたが、再見してその映画の豊かさに触れ、鑑賞後は深い満足感に包まれている。同じ映画を繰り返し観ることの重要さも思う。WOWOWの連続放送はありがたい企画だった。

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