東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)2017

※『ビランジ』40号(2017年9月発行)に寄稿した文章の再録です。文中の事項は当時のものです。作家・作品の表記はフェスティバルでの記述に従っています。
 
 去る3月10日(金)から13日(月)にかけての4日間、「東京アニメアワードフェスティバル(TAAF)2017」が開催された。毎年開催で今年が4回目。前回までの東京日本橋から池袋に場所を移し、新文芸坐を中心に複数の会場での開催となった。
 実は今回私は短編コンペティションの第一次選考委員を仰せつかり、昨年秋から長期間事前の選考に関わっていたので事務局の方々と意見交換の機会もあり、貴重な経験をさせて頂いた。

 会場が池袋に移ったことによる不都合も目立ちはしたが、良い変化も見えた。一番はプログラムの編成で、全てのコンペが複数回上映され、時間を遣り繰りすれば全部が鑑賞可能になったこと。信じられないことだが、以前は長編と短編の時間が重なってしまって全部は見られなかったのだ。折角の国際映画祭でこれは観客および作家無視も甚だしい。
 前回の長編コンペから選考委員と観客との質疑応答(トーク)の時間が設けられたが、今回はそれを短編にも広げた。長編では制作スタッフが来日している場合は可能な限り登壇してトークに加わってもらうようになった。これは大きい。映画祭の魅力の一つに作家との触れ合いがある。限られた時間ではあるが、それが可能になったのは嬉しかった。
 コンペの選考基準も明確になった。今回私は第一次選考委員を務めさせて頂いたので、その辺も内側からよく分かった。
 TAAFの選考基準。それは、先進性、オリジナル性、大衆性、技術力。この内でも大衆性の重視はおそらく国内の他の国際アニメーション映画祭、広島や新千歳と比較してTAAFの特色を表わしていると思う。木下蓮三氏という強い個性を持つアニメーション作家の熱意に被爆都市の思いが呼応して始まった広島では芸術性を重んじる傾向が強い。一方、空港という地域振興で始まり、気鋭のキュレーター土居伸彰氏が映画祭ディレクターを務める新千歳は作家性の重視が感じられる。
 TAAFの場合、アニメ業界の団体(一般社団法人)である動画協会と実行委員会の主催、東京というアニメ会社や関連学校とそれらの人材が集中する土地柄から、大衆性の重視は必然とも言うべきだろう。むしろそれが積極的に求められる面もあるのではないか。

 TAAFは大きく4つの部門に分けられる。アニメ功労部門、アニメ・オブ・ザ・イヤー部門、長編短編のコンペティション部門、そして内外の招待作品。
 功労部門は前身である東京国際アニメフェア・東京アニメアワード(2005年)に始まり今回で13回目。何度か賞の名を変えつつ、アニメーション産業・文化の発展に大きく寄与した人材を顕彰する目的で続けられて来た。ある意味、最重要な賞である。
 今回の顕彰者は10名。プロデューサー・後藤田純生、原作者・松本零士、監督・池田宏、作画監督・近藤喜文、アニメーション作家・古川タク、美術監督・辻忠直、色彩設計・保田道世、音響監督・明田川進、歌手・前川陽子(誉公)、声優・増山江威子の各氏(故人を含む)。
 アニメ・オブ・ザ・イヤー部門は過去1年間に上映・放送された全作品を対象に、投票によって作品・個人に与えられるもの。アニメ関係者139名の投票による「作品賞」「個人賞」、ファン投票による「アニメファン賞」がある。
 作品賞劇場映画部門は『映画「聲の形」』、TV部門及びアニメファン賞は『ユーリ!!! On ICE』、個人賞は原作・脚本賞=吉田玲子、監督・演出賞=新海誠、アニメーター賞=平松禎史、美術・色彩・映像賞=吉原俊一郎、音響・パフォーマンス賞=澤野弘之の各氏。個々の詳細は略すがその年のアニメシーンを反映したものになっている。
 コンペティション部門は、長編15本、短編656本の応募の中から長編4本、短編34本が選ばれ、上映審査された。
 招待作品は内外から広く招かれ、また今年が日本の商業アニメ公開100周年に当たることから各種の記念プログラムが組まれ、ワークショップや実演等も行われた。

 プログラムは上記4部門に、こどもアニメーション部門を加え、以下が行われた。
●功労部門顕彰記念
・古川タク特別上映会
・松本零士スペシャル
●アニメ・オブ・ザ・イヤー部門
・作品賞受賞記念上映『映画「聲の形」』
・アニメファン賞受賞記念上映『ユーリ!!! on ICE』
・作品賞セレクション上映『ガールズ&パンツァー劇場版』
・ 同 『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』
●長編コンペティション(4本)
『ズッキーニと呼ばれて』クロード・バラス(スイス)
『バッドキャット』メハメット・クロトルシュ、アイセ・ウナル(トルコ)
『エイプリルと奇妙な世界』クリスチャン・デマース、ファンク・エキャンシ(フランス)
『手を失くした少女』セバスチャン・ルドバース(フランス)
●短編コンペティション(全34本) 
 スロット1、2、3
●招待作品
・TAAF2017オープニング作品『ひるね姫~知らないワタシの物語~』
・神山祭 in TAAF2017
・OVA『最遊記外伝』スペシャル上映会
・TVアニメフェスティバル2017
・「あにめたまご」2017完成披露上映会
・Best of TAW(デンマークの教育施設TAWの紹介)
・ノルディックスペシャル-北欧のアニメーション-
・イランアニメーション-中東の風-
・「ノルシュテインを蘇らせた男たち」
・長編『ビッグフィッシュ アンド ベゴニア』リャン・シュエン、チャン・チュン(中国)
・アニメ100周年記念プログラム『この世界の片隅に』特別上映会
 同「ライブ!無声アニメーション」
 同「アニメーション大国の誕生~アニメーションがアニメになった時代」
 同「アニメ映画を見に行こう!@東京」
・国際交流パネル-日本のアニメーションの未来図を多面的に語る-
 パネル1「Education of Gobelins」-フランス屈指のアニメーション学校・ゴブラン校の教育-
 パネル2「日本のアニメーション業界の多様性(ダイバーシティ)を考える」
 パネル3「日本のアニメーション教育を多様化することを考える」
・YOUNG POWER 2017(学生作品紹介プログラム)
●こどもアニメーション部門
・ワークショップ アニメ水族館
・人形アニメーション制作 on ライブステージ(峰岸裕和氏による実演)
・親子映画館(あにめたまご作品各種、『こま撮りえいが こまねこ』、デンマーク短編アニメーション集、フィンランド短編アニメーション集、ロニー・オーレン・スペシャルワークショップ)

 会場は新文芸坐をメインに、同じく池袋東口のシネマ・サンシャイン、池袋HUMAXシネマズ、WACCA池袋、生活産業プラザ、サンシャインシティ噴水広場、区民ひろば朋友、区民ひろば南池袋、豊島区役所としまセンタースクエア、西口のシネマ・ロサ、シネ・リーブルと池袋駅東西に点在、更に事前の期間外上映・イベント会場として市ヶ谷のDNPプラザ、荻窪の杉並アニメーションミュージアム、飯田橋のアンスティチュ・フランセ東京をそれぞれ使用。
 この設定には、東京アニメアワードフェスティバルのタイトルに則り「東京」を広く舞台にとの意見が都側からあったとも聞く。また前会場だった日本橋TOHOシネマズでは稼働中のシネコンに間借りする形なので使い勝手に問題があり使用料も嵩んだようだ。今回の中心が池袋になったのは、沿線にアニメ制作会社が多数あり、区としてマンガやアニメを戦略的に推して行きたい豊島区側の思惑があったとも聞く。
 運営側の思惑はともかく観客としては日本橋の、地下鉄直結で鑑賞から食事まで全てが一つのビル内で済む便利な環境に慣れ親しんでいたので、この決定には当惑した。池袋ではプログラムによって駅の東西を行き来せねばならず、広いロビーのあるシネコンと違い入場開始までの居場所に苦労することもしばしば。現在はアステールプラザに落ち着いている広島アニメフェスも第一回は会場が分散しており、慣れない広島に集まったファンたちから悲鳴が上がったのを思い出す。
 主催者側のアナウンスも十分とは言えず、WACCA池袋という商業ビル内で行われていた人形アニメの実演や功労部門関連展示はどれだけ来場者に浸透したことか、ちょっと勿体なかった。
 チケットの販売方法も変わった。前回まではシネコンのサイトやロビーのチケット発券機で購入すれば良かったが、今回からPC、スマホのアプリによる電子チケットになり、入場の際にスマホ画面を提示する仕組み。時代の流れというものだが、スマホを持たない層は別に紙のチケットを受け取りに行かなくてはならず、また初日の初回上映には当日券が会場に届いていない事態も発生したとのことで新体制はなかなか難しい。
 その他にも、会場が分散したことで運営側の目も手も行き届かず、入場に関わる会場整備等が各映画館任せだったり、開始時間が守られなかったり、大小のトラブルが頻出していたようだ。私は一次選考委員の一人としてトークに登壇したのだが、その際も運営側からの指示が的確になされず登壇者一同やや困惑したものだ。

 それでも今回は上映作品、殊に初公開になる海外長編や個性豊かな短編の数々が素晴らしく、その面では個人的に満足している。
 印象に強く残っているのはやはり長編作品。前述した長編コンペの4本と、中国の『ビッグフィッシュ・アンド・ベゴニア』の公開が有難かった。
 長編コンペ作品の内、フランスのバンドデシネの絵柄を用いたオリジナル作品『エイプリルと奇妙な世界』は新千歳で先に公開されたが、TAAFでは監督のトークから様々な事柄を知ることが出来、貴重な機会となった。やはり映画祭の醍醐味はここにあるのだ。
 同じく長編コンペ作品で、フランスの『手を失くした少女』は、グリム童話を元に素描のようなざっくりとしたタッチの手描きドローイングアニメーション。世界的に3DCGが中心になっている商業長編の潮流に背を向ける斬新な表現だが、特筆すべきは表現だけでなく、ヒロインが自らの力で己の居場所を定めるというフェミニズムの視点があることで、それはいささか粗いとも言える画面を補ってもいる。
 上映は日を変えて二度行われたのだが、一次選考委員解説付きの回が『ビッグフィッシュ・アンド・ベゴニア』の時間と重なってしまい断念したのが口惜しい。後に伝え聞くところによると監督は明確なコンテも無いままほぼ独力で即興的にこれを描き切ったそうで、その超人的な力に驚嘆する。デジタルのアシストあってのことだろうが、既に時代は長編アニメーションをほぼ独力で作れるフェーズに入っているのだ。
 長編コンペでは唯一の人形アニメーションだったスイスの『ズッキーニと呼ばれて』はアカデミー長編アニメーション賞にノミネートされ、日本でも一部で知名度の高かった作品。元々人形アニメ好きな私もアカデミー賞関連の紹介で見て、その魅力にすっかり心奪われていたが、実際に見るとこれが大傑作。原作小説はあるのだが、児童養護施設が舞台で、そこで暮らす子供たちと彼らの環境の描き方に現代性があり、ユーモアとシリアスを持ってとてもナイーヴ。造形と動きで対象を抽象化し、如何にも手で触れられるかのような本当らしさを持って描くのが人形アニメの特質だが、それが最大限に生かされた、人形アニメならではの作品に仕上がっていて見事。
 解説付き上映の回では一次選考委員の横田正夫氏と共に監督と人形制作、美術のスタッフも登壇。実際の人形を持ち、目や口のパーツがマグネットで顔に付けられていること等を説明してくれて興味深かった。
 長編コンペ最後の1本『バッドキャット』はトルコの3DCG作品。縦横に動くカメラ等技術的に見るべき点は認めるが如何せん話にもキャラクターにも全く感情移入出来ない暴力的な内容で、トルコという馴染みの薄い国からの応募とコンペ作品の多様性を示す以外の意味を見出せない。僅か4本のインコンペなのだからもっと意義のある選定をして頂きたかったと思う。世の中にはまだ見ぬ長編、見たくても個人では届かない作品は幾らでもあるのだから。
 その、まだ見ぬ長編の1本が招待作品として現われたのが中国の『ビッグフィッシュ・アンド・ベゴニア(大魚海棠)』。ネットを通じてビジュアルや予告編が流れ、一部で期待に沸いていた作品だ。上映後には監督たちのトークセッションがあり、よく整理されたメイキング話を伺うことが出来た。長い制作期間をかけ、支援者を募り、大スペクタクルを含む全編の殆どを手描きで描き上げた長編で、正に人民大国中国の力を目の当たりにする思い。海の底の不思議な世界の意匠は『千と千尋の神隠し』等の宮崎アニメを彷彿とさせもするが、そこは神仙の本場中国だけに、こちらの方がナチュラルに見える。幸いなことに日本でも公開が決定したそうだ。

 短編コンペは自分も選考に関わっているのだが自賛を超えて充実した作品が揃ったと思う。少なくともこれが何故インコンペかと疑問に思う作品は無かった筈だ。
 選考過程は想像以上に真摯で厳正かつ公平なものだった。応募作品は全656本。それを4つのブロックに分け、一次選考委員8名がペアを組み、各々で割り当てられたブロックの作品を審査し、結果を持ち寄って全員で討議。全体のバランスを見た上で、事務局と共にプログラムの時間内に収まるよう本数の調整を行い最終決定する。
 聞くところによると某映画祭の一次選考では応募作を最後まで見ることはなく、さわりの部分だけで当落を決めてしまうのだそうだ。総本数が比較にならない程多いのは分かるが作家にも作品にも礼を欠く気がする。TAAFの場合、全ての応募作を誰かが必ず見ている訳で、しかも、先に挙げた4つの選考基準に照らし、作家のネームバリューその他に全く左右されない選考がなされていた。内外の映画祭の受賞歴を持つ作品でも協議の結果コンペ落ちとなったものも実は多く、これは選考会に出席して驚いた。と同時に審査の公正さと独自性を示すものと言えるだろう。
 選ばれた短編作品は手法も、手描き、2Dデジタル、3DCG、人形、カットアウト、クレイ、等々と幅広く、国籍も様々。日本で紹介されることが珍しいイランやミャンマーの作品も入って、これは嬉しかった。
 全体の印象としては女性作家の台頭が目立つ。それと学生作品の増加。特に台湾は学校単位なのか校章付きで100本を超す応募があり目を引いた。多くはまだ完成度は高いとは言えず、いわゆる学生らしさが色濃いものだが、数の多さはそのまま裾野の広さ。将来が大いに楽しみだ。学生作品といえば日本も優れた指導者の下、精力的に作品を生み出していて心強い。インコンペ作も出ている。が、優れた創作力はあり完成度も高いが個人的にどこか内向きというか小さくまとまる傾向を感じてしまう。創作も時代の産物である以上、現代日本においてある程度やむを得ないことかも知れないが、そこを突破する何かが欲しいと思う。手法では世界的に手描きの復権と人形アニメの増加が目立って好ましい。
 以下、短編コンペで印象深い作品をメモ的に挙げる。広島、新千歳等で見た作品は除く。
『長い休暇』(A Long Holiday)カロリン・ヌグス-ブシャー、ベルギー。失業した父と季節外れの海辺のキャンピングカーで過ごす少女。シックな色彩とシンプルなキャラクター。優雅な手描きのアニメートがナイーヴな少女の心を伝える。
『橇(そり)』(The Sled)オレシャ・シュキナ、ロシア。鮮やかな色彩と明快なデザイン。作者は長編『ズッキーニと呼ばれて』で作中イラストも担当している。
『端(はし)』(THE EDGE)アレクサンドラ・アヴェリャノヴァ、ロシア。一面の荒野と雪景色。ロシアならではの風景に浮かぶ人生の哀感に実感が籠る。
『ベネの地平線』(Bene’s Horizon)ジュミ・ヨン、イロイク・ジメネス、フランス。密林を舞台に圧倒的なカットアウト(切り紙)で表現される少年の孤独な心。
『苔の森の奥で』(Deep in Moss)フィリップ・ポシヴァック、バーボラ・ヴェレカ、チェコ。チェコならではの人形劇の伝統を感じるデザインと造形によるキャラクターの魅力。人形アニメで26分の長さは驚くべき。
『計画から出た地獄』(One Hell of a Plan)アラン・ガニョル、ジャンル・フェリシオリ、フランス。日本でも劇場公開された快作『パリ猫ディノの夜』の間抜けなギャングを使ったスピンオフ短編。機知に富む展開。この邂逅は嬉しかった。実は私の担当ブロック外にあり特別に推薦して選考を仰ぎ急遽インコンペを勝ち取った作品で感慨深い。
『オレンジ色の木』(The Orangish Tree)アミル・フサン・メア、イラン。暖かい色彩と幼い少女のモノローグで展開する豊かな世界。イラン作品は珍しい。
『杏茸を少々』(A fistful girolles)ジュリアン・グランド、ベルギー。ご馳走を用意する一家と森にキノコ採りに行って散々な目に遭う父親。さらっとしたドローイングによる緻密な生活描写とシズル感溢れる食べ物描写の魅力。さりげないユーモア。さながらベルギーの高畑勲である。
 勿論、コンペに残らなかった作品の中にも魅力的なものは多く、いつか何らかの機会を得て世に出ることを願う。

 コンペ以外では、日本でまとまって見られる機会の少ない「イランアニメーション-中東の風-」、最新デジタル技術でのノルシュテイン作品修復作業についての専門的なトーク「ノルシュテインを蘇らせた男たち」も、如何にも映画祭らしいプログラムで良かった。イランの特集と作家の招聘はTAAFプロデューサー黒田千智女史の熱意によって実現したと聞き頼もしい。
 日本のアニメ100周年のメモリアルイヤーに合わせた企画も複数あった。中で面白かったのが無声時代の古典アニメーションに現役の男女声優がその場で生アテレコを披露する「ライブ!無声アニメーション」。実は作品の選定をお手伝いしたのだが、ライブで現代的な息吹が吹き込まれ予想を上回る楽しさだった。ともすれば歴史に沈んでしまいそうなモノクロ無声アニメの豊かさが伝わり認識を新たにしたものだ。
 また、100周年を記念してTAAF独自の「日本のアニメーション史に残る100作品」が選ばれ、公式パンフレットでも発表された。これは識者の意見を参考にTAAF独自の選定が行われ「ひとつの道標」として発表されたもの。100選といえば先にNHK-BSで発表されたものが物議を醸したが、こちらは日本のアニメーション発祥の年とされる1917年の『なまくら刀』に始まり、大藤信郎・政岡憲三の両巨頭から個人作家を辿り、目ぼしい映画・テレビアニメを網羅しつつ最新の2016年『この世界の片隅に』へと至るもの。実は私も選定の一人として加わり、バランスを取る意味で主に非商業作品を提示させて頂いた。結果的に学研や人形アニメの諸作、個人作家作品等、結構意見を取り上げて頂いて感謝している。これはTAAFの公式サイトで閲覧出来るかと思う。

 最終日の夜には関係者のみ出席の授賞式が行われた。功労部門の顕彰を受けた前川陽子さんの煌びやかなオーラと変わらぬ歌声、故・近藤喜文氏に代わって顕彰を受けるご遺族のお姿。業界で長く続いて来た功労部門の重みを感じる一幕だった。
 コンペの結果も発表され、長編グランプリは『手を失くした少女』。内容はともかく一般性があるとは思えず少々意外だった。おそらく特異な制作方法も評価されたのだろうが、むしろ次点優秀賞の『ズッキーニと呼ばれて』に、受賞を機に一般公開を目指す一助として贈賞して欲しかった気もする。
 短編のグランプリは『翼と影を』(エリス・メン、エレオノラ・マリノーニ)。色合いが独特でメッセージ性もある。優秀賞の『クモの巣』(ナタリア・シェルニシェヴァ)は『ゴッサマー』の題名で広島、新千歳でも受賞を果たした作品。さすがに強い。単純に見て面白い上に「敵対から友情と協力へ」というテーマも実は深い現代性がある。豊島区長賞には『杏茸を少々』で、これは嬉しい選定。長編短編グランプリには東京都知事賞も与えられ小池百合子知事自ら贈賞していた。
 授賞式後のレセプションパーティーでは『ズッキーニと呼ばれて』の人形制作スタッフの一人で日本人の白石翔子さんと親しくなり様々な話を聞かせて頂いた。正に映画祭の醍醐味極まる。

 TAAFも様々に改善が見えるが、貪欲なファンにはまだ足りない。文芸坐のロビーには来場監督たちの寄せ書きパネルが展示されていたけれど、それを見て初めて来日を知った方々の多いこと。せめて広島のように上映時に壇上に呼ぶとか、新千歳のように全員がネームホルダーを下げるとかならないものか。広島の、上映に先立ち作品タイトルをアナウンスすることも是非見習って欲しい。先達の良き点はどんどん取り入れるべきと思う。
 一方、全ての作品に独自の字幕を付けるのはTAAFの美点で、これは有り難い。アニメーションは世界共通とはいえ、意味がはっきり分かるのと何となく分かるのでは雲泥の差だから。
 今回も無償で配られる公式パンフレットは充実。作家の来歴も載って有難い。特に功労部門の記述は原口正宏氏、早川優氏の力作で、これを貰うだけでも来場の甲斐があると思う。もし作品を見る時間の無い方もこれは覚えておかれると良いかも知れない。
 全体には池袋に場を移したことやチケットの入手方法等がまだ浸透していない印象もあり、良いプログラムでも空席が目立つ場合もあった。豊島区では池袋周辺に映画館入りの大型商業施設建設計画があるようで、将来的にはそこでの開催も視野に入っている風でもあるので一層の周知を望みたい。
 プログラムの編成には以前のごった煮過ぎて何がやりたいのか伝わらない感を脱し、まとまりが見えて来た。あと望まれるのは作家のティーチインで、これ迄半恒例だったライカのセミナーが無かったのも寂しい。新千歳では作家企画が充実しており、作家との距離の近さも手伝い大いに成果を上げている。TAAFでも地の利を生かし有名アニメーターのマスタークラス等も望まれるところだ。
 とはいえ次回はもっと練度が上がるだろうし、コンペの応募数も飛躍的に増加している。「東京」の文字は世界へのアピールの度合いも違うだろう。TAAFの謳い文句の「東京がアニメーションのハブになる」日を本気で目指して頂きたい。その為の協力なら些かも惜しむものではないので。

※初出:『ビランジ』40号(2017年9月発行、発行者:竹内オサム)
※こちらもあくまでも当時のレポートで、内容や運営なども現在では変化していると思われる。文中の作品でその後に国内公開された作品も複数ある。TAAFは日程的にも地理的にも行き易いので毎回通っていたがコロナ禍で2020年、2021年と参加が叶わず残念だった。TAAF自体は様々に工夫を凝らして、データや資料映像等を後に残る形で公開してくれており有り難い。

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