TAAF(東京アニメアワードフェスティバル)2022まとめ

毎年3月が会期となっているTAAF=東京アニメアワードフェスティバルは、2020年はコロナの急激な感染拡大で全プログラムが中止、秋に作品上映のみが行われ、2021年は長引くコロナ禍に配慮しつつ開催された。
長距離移動の自粛が求められていたこともあり、私はどちらも参加は断念し、この2022年は2年ぶりのリアル参加となった。
その間に老舗の広島国際アニメーションフェスティバルが最後の開催もならないままの終了が発表されていただけに、このリアル参加には格別の思いがある。
会期が平日にかかるので、広島のように大勢の人が集まる訳にはいかないけれど、それでも懐かしい人たちと顔を合わせ、新しい出会いもあって毎日とても楽しかった。

短編コンペは例年通り3スロットが上映。
今回は難民問題や心の問題に関わる作品が目立った。アニメーションはその時々の社会を映す。私が以前に一次選考委員で参加した時は、いじめや認知症に関する作品が目立ったものだ。
今回の優秀賞を受賞した中国の作品『小さなカカシのものがたり』も移民を扱っていた。他にも『トリオ「ザ・独唱者たち」』は今も残る女性差別を、『靴の中の小石』『ママ』は難民、『たいせつなこと』『穏やかな狂気、激しい錯乱』『自傷』『予期せぬ出来事』『わたしのトーチカ』は心の問題などをモチーフとし、戦争のトラウマを描いたフランスの『語らない思い出』は今回の短編グランプリを得た。
そうした社会問題だけでなく、観て楽しめる作品が多く含まれるのも、大衆性を選考基準の1つに掲げるTAAFの特色で、何故これがインコンペか訝しむ作品もある広島フェスや、時に観るのがしんどい作品もある新千歳との大きな違い。
アニメーション映画祭の入門編としても役立つと思うので、もっと大勢の人に来て欲しいし、せっかく東京で開催しているのでアニメ関係者の方々にも時間の余裕さえあれば別の世界を体験して欲しいと思う。
今回も前記以外に、表現が巧みな『高野交差点』(最終日に豊島区長賞を受賞)、軽妙な漫画映画風味の『ゴールデンアワー』、優しい世界『菜の花のころ』、サスペンス『HIDE AND SEEK』『夜の番人』、アジア的死生観『砂漠の箱舟』、学生とは思えない出来栄えの『きまぐれな雪』『ルイーズ』、等が記憶に残った。
国別で見ればフランスが圧倒的。全作品の過半数を占めた。特に今回に限ったことではないがゴブランをはじめフランスの学生グループの卒業制作の出品が目立ち、技術内容ともにハイレベルを示した。

長編コンペも例年通り4本。
リアル系3DCG『捨てられたものの街』(台湾)、アフガニスタンが舞台の『マード 私の太陽』(チェコ&フランス&スロバキア)、アニメ系CG『ケース』(イタリア)、ストップモーションの『ボブ・スピット』(ブラジル)。
長編の一次選考にはある種のバランス感覚が働いているのではないかと思い、選考外の作品がいつも気になるのだが、グランプリはチェコのミハエラ・パヴラートヴァー監督作『マード 私の太陽』。文句なしの受賞と思う。一般公開にも大いに期待したい。

コンペ以外では私は2日目(12日)の大塚康生追悼企画『未来少年コナン』上映とトーク、3日目(13日)の招待作品『アンネ・フランクと旅する日記』、『漁港の肉子ちゃん』スペシャルトークに参加。今回は割と少なめ。
TAAF2022では他にも、業界的なシンポジウムやセミナー、こどもワークショップ、学生作品の上映と講評、招待作品として『ミューン 月の守護者の伝説』、水島努監督特集上映、アニメファン向けに「アニメ・オブ・ザ・イヤー部門」から『アイドリッシュセブン』『呪術廻戦』のセレクト上映、功労部門顕彰者特別展示、等の各方面に目配りした企画が実行された。
我々はついコンペに目が向きがちなのだが、実は商業非商業のバランスが取れた映画祭でもある。

大塚康生さんの追悼企画では『未来少年コナン』の第2、3話を上映後、アニメーター&監督の安藤雅司さん、TAAFディレクターで大塚さんと現場を共にした竹内孝次さん、研究家の叶精二さんのトークを開催。
大塚さんの追悼でどの作品を選ぶかは難しいところだが、今回の初期『コナン』には大塚さんのタッチも色濃く、名アニメーター故近藤喜文さんの作画も味わえる良いセレクトだったと思う。
トークでは、大塚さんの得意技の1つであるタップ穴の貼り換えと走りの着地点をずらすことで生まれる独特な動きのダイナミズムなどについて。結構専門的な話だ。
このプログラムは別の『大塚康生を語り尽くす』のプログラムと共に配信の予定。

『漁港の肉子ちゃん』トークはサンシャイン噴水広場で。事前申込み制とのことで会場前で急遽登録して入場。初めて生で見た渡辺歩監督は気配りの人だった。

現在劇場でも公開中の『アンネ・フランクと旅する日記』は思っていたのと全く違う佳品だった。

他に功労部門記念で岡本忠成監督の『おこんじょうるり』と木下蓮三・小夜子夫妻の『ピカドン』も上映。大事な作品だが、私はパス。

としま区民センター1Fホールでは連日、功労部門の展示を実施。物量は少ないが、それぞれに貴重。
木下小夜子さんは広島国際アニメーションフェスティバルのカタログ等。
大塚康生さんの特別展示は『未来少年コナン』から近藤喜文さんの原画(コナンとジムシイの競争など)と大塚さんの修正。
近藤さんの軽妙な原画も素晴らしいが、大塚さんがほんの少し手を入れると立体感と骨格が加わって更に素晴らしいものに。
保坂純子(すみこ)さんの展示は手がけた人形たちと、桜映画社制作の『ハンドメイドアニメーション映画の世界 4人のプロフェッショナルが語るその魅力』の抜粋をエンドレス上映。
何が驚いたといって、『三大怪獣地球最大の決戦』(1964年)の、操演用キングギドラを作っていらっしゃること(TAAF公式カタログにも記載あり)。どういう経緯で手がけられたのか。これからギドラを見る目が変わりそうです。
他に、川崎のぼる、森下孝三、宮本貞雄、水森亜土、飯塚昭三氏ら。原画などが鮮やかでした。

コロナ禍もあり、また例年TAAFの時は広島のように毎夜どこかへ繰り出すということもないのだが、それでも、会場のMixaliveの前で短時間、感想を言い合ったり情報交換したりと、やはりリアルは楽しかった。
2年ぶりでちょっと疲れもしたので最終日は特に参加もせず、早めに帰宅の途に。
広島のように最後の授賞式をオープンにしてくれたら全体的な充実感も大きいのだが難しいのだろうか。
ともあれリアル開催がなって本当に良かった。お会いした方々、お世話になった方々、どうもありがとうございました。

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