Syrup16g -2- 『COPY』

ポップミュージックは結局のところ、1stアルバムが最高傑作ではないのだろうか。

生を受けてからそれが形になるまでに溜め込んできた衝動、葛藤、情念、怨念が全て収められているのだから、どうしても濃い内容になってしまう。そうなると、自ずと完成度の高い作品が生まれることが多い。The Doors『The Doors』、The Velvet Underground & Nico『The Velvet Underground & Nico』、Cocco『ブーゲンビリア』、Coldplay『Parachutes』、渚にて『On The Love Beach』、George Harriison『All Things Must Pass』…そしてSyrup16gの『COPY』。

厳密には本作の前に『Free Throw』があるが、あちらはミニアルバムだったのでノーカウント。フルアルバムでは本作が1stだ。

『COPY』は何とも思い出深い作品だ。なにせ私が初めて聴いたシロップのアルバムだからだ。学生時代にシロップの存在を知り、気になって曲を聴いてみたかった僕は友人MにシロップのCDをいくつか貸してもらったのだが、その中に本作が入っていた。時系列順に作品を聴きたい私が真っ先にCDラックにディスクを入れたのは『COPY』だ。

私は基本、曲の魅力に気付くのに時間がかかるため、初めて聴いた音楽の第一印象のほとんどに「パッとしない」印象を持ってしまうのだが、本作は最初から、スッと、はまったのだ。良いな、と思った。今となって考えてみると、当時私はCoccoにドハマリしていたので、闇の心情をむき出しにした音楽を強く求めていたかというのも手伝ったのだろう。しかし、そんな時期を通り過ぎた現在改めて聴いてみても、やはり良いアルバムなのだ。すなわちそれは、本作が普遍的にキャッチーな内容だからな他にないのだ。

『COPY』はクズな自分を責め立て、救い、絶望の淵に追い込み、最終的には優しく包み込む。かれこれ何百回と聴いてきたが、本作を聴くたびに落ち込み、前向きな気持にされる。それはきっと、本作の歌詞に登場する体験を自分が何度もしているからなのかな。 五十嵐の内情がこれほどまでにリスナーに共感を与えたとは、彼自身予想にもしていなかったのではないだろうか。

はっきり言って捨て曲は無い。どの曲もこのアルバムを構成する上で必要不可欠なピースとしての役割を果たしている。そしてアルバムの流れが素晴らしい。基本的にノンストップで聴かせるアプローチも良い。曲順は恐らく、相当考え込まれていると思われる。なので本作は曲単位で聴くのではなく、可能な限り最初から最後まで聴くようにしている。10曲で1曲のようなアルバムだ。なのでピックアップは非常に困難だが、その中でも特に好きな曲を記していきたい。

アルバムの1曲目はゆったりと始まるスロウナンバー。メロディも歌詞も1パターン、とてもシンプルな、ミニマルな構成。しかしその中で非常に洗練された展開と音選びが聞き取れる。控えめなドラム、着実なベース、そしてロバート・フリップ的E-Bowのエレキギター、どれも素晴らしい。言葉が少ないからこそ、威力が高いというか。オープニングにふさわしい名曲。


本作を語る上でこの曲は外せない。言わずもがな、 シロップの代表曲だ。リードトラック的ポジション。「君に言いたい事はあるか そしてその根拠とは何だ 涙ながしてりゃ悲しいか 心なんて一生不安さ」このフレーズに何人の人が救われたことだろう。中畑氏のドラムも素晴らしい。


これは本当に、心が暗くなる(称賛の意)。学生時代、金曜日の夜に部屋を真っ暗にして布団にくるまってこの曲を聴いたものだ。The Velvet Underground『Sunday Morning』やRadiohead『No Surprises』的な牧歌的メロディがよりいっそう悲しさをもたらしているのが凄い。

年をとればとるほど、学生時代に聴いていたアッパーなロックミュージックから遠ざかってしまっている。が、このアルバムだけは年に何度か聴いている。誰もに愛される要素を持った傑作に間違いないはずだ。