幻燈

倏の肖像

日差しの衚情をスケッチする。無いはずの茪郭が芋え始める。顎の曲線をなぞる。
ロ元を過ぎる。眉から錻筋を捉える。髪先が流れる瞬間を貎方は意識する。
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倏の䞭に消えおいく女性。やがお絵画の䞭の緑に溶ける。

皮田山頭火「草朚塔」より䞉句匕甚
「うしろすがたのしぐれおゆくか」
「草のそよげば䜕ずなく人を埅぀」
「あなたを埅぀おゐる火のよう燃える」

郜萜ち

䞇葉集 第2å·»116番
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貎方の頭を郜ずしお、そこからいなくなるこず、忘れられおいくこず。郜萜ち。
矎しい庭園から草舟が出おいく。郜から逃れる平家のように舟は去っおいく。

䞇葉集第2å·»116番 䜆銬皇女
「人蚀を 繁み蚀痛み 己が䞖に 未だ枡らぬ 朝川枡る」


ブレヌメン


動物達は郜を倢芋お、行進する。
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珟代を生きる人々の行進。実際、死ぬほどのこずはこの䞖には無い。

グリム童話「ブレヌメンの音楜垫」

チノカテ


二人で生けた花瓶の花が散る。別れを知る過皋。
「君は私を読んでしたったら、この本を捚おおくれ。
そうしお倖ぞ出おくれ。君の家庭から、君の郚屋から、君の思想から」

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「地の糧」ずいう蚀葉の響きから、アンドリュヌ・ワむ゚スの絵画「クリスティヌナの䞖界」を思い浮かべた。
ワむ゚スは䞋半身付随の女性が、自らの力で䞘を䞊がっおいく堎面を描いおいる。
この絵のためにワむ゚スは、隣人である女性の姿、自分の家の呚蟺、氎たたりず、すぐ偎にあるありふれたもののスケッチを重ねた。
無名の人々の生掻の䞭に矎を芋出そうずするその粟神は、「曞を捚およ街ぞ出よう」の思想に通じおいる。

アンドレゞッド「地の糧」


雪囜

冷えた関係を雪囜に喩えお。
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「雪囜」のラストシヌンの燃える芝居小屋。男女は映画のフィルムを芳るようにそれを芋おいる。 ゚ドワヌド・ホッパヌの絵画を参考に。

川端康成「雪囜」

月に吠える

月に吠える犬は、己の圱を怪しみ恐れお吠える
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月に吠える犬は、自分の圱に怪しみ恐れお吠えるのである。 「月に吠える」の序文に茉せられたその䞀文を芋た時、詩の構想が出来䞊がった。 波止堎の圱からこちらを芋おいる䜕かがいる。じっず芋぀めおいる。 それは創䜜の指を突き動かす衝動であっお、魂ず呌ばれる獣の姿でもある。

絵に぀いお。詩集の序文から、圫刻家ゞャコメッティの䜜品「犬」の姿を思い浮かべた。 痩せ现った犬の圱が街を埘埊する。

萩原朔倪郎「月に吠える」

451

華氏451床
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絵に぀いお。原䜜小説では瀟䌚からの怜閲が描かれるが、ここでは創䜜者自身の心の䞭での自己怜閲を描いた。 䜜っおは壊しおいく創䜜の時間。

レむ・ブラッドベリ「華氏451床」


パドドゥ

思い出の䞭、二人が螊っおいる。
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芥川韍之介の「舞螏䌚」から着想を埗お、想い出の䞭を螊る二人の人物を詩ず曲に萜ずし蟌んだ。
想い出の䞭で螊る人物は、過去の自分達に芋える。雪囜を経お二人の関係は終わりを迎え、列車は草原の向こうぞず走っおいく。
パドドゥはバレ゚の甚語であり、男女二人の螊りを指す。

芥川韍之介「舞螏䌚」

又䞉郎

颚の又䞉郎
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「颚の又䞉郎」が持぀神性、あの子は颚の子だったんじゃないかずいうその䞍思議な期埅。 珟代の閉塞感を党お吹き飛ばす神様ずしお、珟代の又䞉郎を描く。

宮沢賢治「颚の又䞉郎」

靎の花火

倢の䞭で、私は䞀人の幜霊だった。
本で読んだ倜鷹のように、倏の空を䜕凊たでも高く䞊昇しおいく。足元から倧きな音がする。
靎の先に花火が芋える。
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成仏をテヌマに詩を曞いた楜曲。空を高く飛び䞊がり、䞊空ぞ、その先の倪陜ぞず向かう姿をよだかに重ねる。

宮沢賢治「よだかの星」


老人ず海

想像力は重力に近い。
ただ芋ぬ景色を知るのには、人間の頭蓋骚はずおも狭い。
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絵に぀いお。ロシアのアニメヌション䜜家、アレクサンドル・ペトロフの映像䜜品のその数日埌を想像しお描いた。 敗れた劎働者。英雄ずしおの䌑息。少幎の麊わら垜子が老人の顔を包む。

音楜に぀いお。小説の䞭で、老人はアフリカの砂浜で戯れるラむオンたちの姿を倢想する。
それは若く匷かった自分ぞの懐叀であり、二床ず手に入らないそれぞの郷愁だず解釈する。
自分にずっおの「アフリカのラむオン」は䜕だろうか、ず考えた時、出おきたのは「創䜜の出口」だった。
人は想像力で物を曞き、䜕かを䜜っおいる。想像力は無限だずよく人は蚀う。
だが悲しいこずに、私たちからは自身で想像しうる事柄以䞊のものは出おこない。想像力は所詮、 自分の頭蓋骚の内偎で起こる範疇しか描けない。
誰も芋たこずがない、自分ですらも知らない景色を描くためにはこの頭蓋骚はあたりにも狭すぎる。
それは絶察に蟿り着くこずのない出口であっお、遠く海の向こう偎にある「アフリカのラむオン」だず、今でも思う。

アヌネスト・ヘミングりェむ「老人ず海」


さよならモルテン

ガチョりのモルテンは少幎を遠くぞ運ぶ。
い぀か物語が終わっおしたうこずを、あの日の私は知らない振りをしおいる。
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久々に芋た友人が、今も倉わらずに物を䜜っおいた。あの頃から䜕䞀぀倉わらない衚情をしおいた。どうしおか胞が詰たった。
その時に思い出したのが幌い頃読んだ児童文孊、ニルスのふしぎな旅だった。 ニルスずいう少幎がガチョりのモルテンの背に乗っお旅をする話。
モルテンを真䌌お、空を飛がうずする子䟛達を描いた詩を曞こうず考えた。 月日を経お倉わらない䜕かを芋る、それに心を揺さぶられる。 自分にずっおは、創䜜を描いた詩でもある。

スりェヌデン、ガムラスタンの街を駆ける少幎たちは路地から空を芋䞊げ、䜕凊か遠くを倢芋おいる。

セルマ・ラヌゲルレヌノ「ニルスのふしぎな旅」

いさな

癜鯚のよう
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ハヌマン・メルノィル「癜鯚」
メルノィルの「癜鯚」の姿を、矎しい人物に重ねる。 海の雄倧さをそのたた衚したような貎方の、その茪郭を䞀぀䞀぀描写しおいく。

巊右盲


幞犏の王子
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オスカヌ・ワむルド「幞犏な王子」
幌い頃から劙な生きづらさがあった。それに巊右盲ずいう名前が぀いおいるこずは倧人になっおから知った。
巊右の区別が咄嗟に぀かない。刀断に時間がかかる。頭にもやがかかったみたいに真っ癜で、わからない瞬間がある。
それを取り繕っおわかったような顔で巊右を圓おはめお、䌚話を進める癖が自分にはあった。
はっきりず区別しないたた、なんずなくで圓おはめる巊右。
それは目の前の誰かが居なくなっお、初めお問題ずしお浮き圫りになる。
あの垂れおいた右眉は実は巊眉だったのかもしれない。頬を぀いおいた右手は、実は巊手だったのかもしれない。
もういない盞手に察しおその巊右を想像する。そういう、ごく私的な詩を曞こうず思った。

絵に぀いお。平皿ぞず宝石を運ぶ青い燕。二人の前にはマグカップが眮かれおいる。
デンマヌクの宀内画家、ノィルヘルム・ハマスホむの描いた郚屋を参考にしおいる。


アルゞャヌノン

貎方の目の前に蓋のない箱が眮かれおいる。䞭は耇雑な迷路になっおいる。箱を配き蟌んだ貎方は、小さな誰かがそこにいるのを芋぀ける。入り組んだ迷路の䞭で、その誰かは出口を探しおいる。壁の向こうを信じお疑わず、䜕床も道を間違えながら、少しず぀出口に近付いおいく。貎方は食い入るようにそれを芋぀めおいる。それが幌い日の自分だずいうこずに、貎方はただ気付かない。

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アルゞャヌノンは小説内に出おくるネズミで、迷路を脱出するタむムを競う実隓をさせられおいる。
䞻人公のチャヌリヌはそれを䞊から眺めながら、劙な芪近感を芚えおいる。
アルゞャヌノンを幌い頃の自分、創䜜を始めたばかりの壁の向こうに出口があるず信じお止たらない自分に眮き換えお、 詩を曞いた。

絵に぀いお。100幎前の癜黒写真に写った人物たちを参考に描いおいる。
人間が自らの実人生を生きおいた時代ぞの憧れず祝犏。

ダニ゚ル・キむス「アルゞャヌノンに花束を」

第2ç«  | 螊る動物

倏目挱石「倢十倜」より章題を借りお。
螊る動物達をテヌマに、人、蛙、蝙蝠、鹿、梟、兎、カナリア、矜虫、カメレオン、猫を描く。

音楜に぀いお。ルヌプするメロディをテヌマに。
小節単䜍、フレヌズ単䜍、もしくは䞀音単䜍で繰り返されおいく。
人間の手によっお挔奏された音だけで構成されおいる。
第䞉倜、第五倜はバンドによる挔奏。その他は䜜曲者のn-buna䞀人による、擬䌌的ホヌムオヌケストラ。
アップラむトピアノは調埋から日が経ったものを䜿甚。少しルヌズで懐かしい響きがした。


第䞀倜
癟幎

螊りながら、癟合に倉化しおいく女性。倪陜が昇り沈んでいく。ランプが灯り月が昇る。
「気づいたら癟幎経っおいた。」

第二倜
倜ず蛙

月光の䞋の蛙。

第䞉倜
螊るコりモリ

黒いむンクが蝙蝠のように螊る。
写真家アヌノィング・ペンによっお撮られたマむルス・デむノィスを参考に。
音楜はモヌドゞャズをテヌマに。教䌚旋法のうちのドリアンモヌド。
バンド挔奏での録音。挔奏はセッション的な䞀発録りずなった。

第四倜
眠りに぀く鹿

眠っおいる鹿に寄り添う少女。
音楜は、この絵を心臓の錓動を聞き取ろうずしおいる少女ず捉えお曞いた。
心臓の音をピアノで衚珟する。その䞀音に゚フェクトがかかり、埐々に空間を広がっおいく。
指笛を䜿っお梟の遠鳎きを真䌌する。

第五倜
梟男

ワルツのリズムから掟生したピアノ。
倢の䞭で螊り出す男。その䜓から梟が飛び立぀。
スペむンの画家ゎダの版画を参考に。

第六倜
兎を抱く少女

赀ん坊を抱いた感觊。様々な人からの莈り物の沢山の毛垃。

第䞃倜
譜を運ぶカナリダ

むンスピレヌションを運ぶカナリア。
バッハを再解釈したピアニスト、グレングヌルドのポヌズを参考にし、少幎ずしおの圌の姿を思い浮かべ描いた。
グレングヌルドは歌いながらピアノを匟いたこずで知られる。
楜曲はアむデアが降りおくる錻歌のメモから始たる。䞀楜噚ず぀和音が増えおいくルヌプミュヌゞック。
クラシックの持぀ニュアンスを倚重録音で珟代的に再構築する。

第八倜
厄灜の矜虫

蝗害のように戊争が始たる。
パリの県ず呌ばれた写真家、ブラッサむの写真を参考に、倚重露光で絵で描く。
音楜に぀いお。戊争の足音がタンバリンのリズムずしお聞こえ始める。
西掋音楜に圱響を受け、取り入れる日本人ずいう自意識。その自分をペヌロッパの街を行く矜虫ず重ねる想像をする。
西掋楜噚のマンドリンが日本音階(郜節音階)を奏でおいる。

第九倜
ホテルカメレオン

ホテル、ネオン、歓楜街。
ネオンの色をピアノ、民族倪錓、アナログシンセサむザヌJUNO-60で衚珟。

第十倜
空き郚屋の猫

画家フラシス・ベヌコンのアトリ゚をモデルに。画家のいなくなったアトリ゚で猫は泣き続ける。
音楜に぀いお。コロコロず気分が倉わる猫っぜく自由なむメヌゞで、行き先を決めないフリヌのピアノ挔奏。
初めは悲しげに。䞻人はもういない。
時間が経぀に぀れ、段々ず楜しくなる。䞀人の郚屋を謳歌する。
そうしおたた、寂しくなる。


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