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インバランス等料金単価の上限値設定に対する見解

1月15日、経済産業省よりインバランス等料金単価の上限を200円/kWhとする特例措置が実施されると公表され、SNS上で大きな議論を呼んでいます。私は今回の事態においては、インバランス等料金単価の上限設定が必要だと考えており、今回の特例措置については賛同しています。

JEPX前日市場では、1月4日以降売り玉が売り切れてしまい、買い手が価格を付ける状況が継続的に発生し、徐々に価格が上昇していきました。METIによるインバランス上限価格設定の発表まで、JEPXスポット市場の約定価格はほとんど先行き不透明感からくる買い手の不安心理を表している状態であったと理解しています。

売り札が売り切れてしまい、買い手が価格を付ける状況では、限界費用と市場約定価格の差額は発電事業者の利益になります。今回のスポット価格高騰局面においては、小売電気事業者から発電事業者への大規模な利益移転が行われたと認識しておりますが、利益移転自体は市場取引の結果であること、自由化された現行制度下で行われたものであることから、否定されるべきものではなく許容すべきだと考えます。

他方で、社会全体への負担の観点で考えると、①国民に対して過度な負担が発生する可能性が否めないこと、②市場価格連動メニューの需要家(※)に対する多額の電気料金負担の可能性、および社会的混乱の可能性を鑑みると、遡及的措置なく、あるタイミングから一定の価格上限を設定した今回のMETIの措置は必要だったのではないかと考えております。

※私は特に、高圧実量制需要家における資金繰りへの影響や、貧困家庭の需要家における過度な負担による生活への影響を心配しております。


次に、発電事業者の利益について考えてみたい。例えば、限界費用7円/kWhの発電ユニットを有する発電事業者において得た粗利は、12月15日受け渡し分から1月17日受け渡し分のJEPXスポットシステムプライスで計算すると、39,559.41円/kWにも上ります(この期間稼働率100%で運用された場合)。

※「7円が妥当か」「稼働率100%は乱暴ではないか」とのご指摘をいただくと思います。ごもっともだと思いますが、いったん議論を単純化させるべく、メルクマールとして置かせてください。

39,559.41円/kWを単年の粗利と考えると、流石に社会で許容できる利益幅を超えているのではないでしょうか。私は社会で許容できる利益幅は、容量市場における上限価格14,137.5 円/kWがメルクマールになるのではないかと考えています。

しかしながら、これまで発生したミッシングマネーと、容量市場初回支払いが開始されるまで発生が想定されるミッシングマネーを一気に回収したと考え、その期間を2019-2023年と仮定すると、単年粗利は7,911.88円/kW/年になり、発電事業者の利益水準としては妥当な数値と考えます。

今回の市場価格の高騰は、①LNGへの依存による燃料供給・貯蔵体制や厳気象発生時の供給力確保といった構造的課題、②燃料不足・寒波といった一過性の事象に加え、③制度が変わりゆく過渡的な環境であった(※)ことから、大変難しい市場環境・制度環境の下、発生した事案と考えます。

※容量市場による固定費回収の手当てが開始されていないこと、インバランス価格が調整力の限界的なkWh価格を引用することにより社会の負担を抑制する仕組みが開始されていないこと

冒頭で説明した通り、売り札が売り切れてしまい、買い手が価格を付ける状況では、限界費用と市場約定価格の差額は発電事業者の利益になりますが、現在のJEPX入札価格の上限値は999円であり、今後もますます価格が上昇する可能性がありました。

今回、インバランス単価の上限値を設けたことにより、①発電事業者の過度な利益確保と国民負担の上昇を抑える効果、②買い手の不安心理を抑えた効果があったのではないかと考えます。

係る観点から、私は2022年のインバランス制度を先取りした上限値設定の考え方には違和感なく、賛同する次第です。


【追記】本来であれば、このような措置は、先に電力使用制限令を発令してから行われるべきだと認識しております。この問題意識については、15日にTwitterで述べさせていただきました。


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