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Kwasi Kwarteng ビジネス・エネルギー・産業戦略大臣のエネルギー価格高騰に関する庶民院演説全文(21年9月20日)

自由化先進国である英国では、9月に入ってからガス・電力価格の高騰により、多くの電力・ガス小売事業者が経営危機に陥り、9月末までに10社が事業停止に追い込まれました。

Kwasi Kwartengビジネス・エネルギー・産業戦略大臣は、これら経営危機に陥った小売事業者への救済策は用意しない方針を明らかにしています。

本記事では英国政府の方針が明らかになった9月20日の庶民院演説全文を紹介します。

和訳(一部意訳を含みます)

議長の許可を得て、英国のガス市場について報告する。
ご存じのように、週末、私はOfgemおよびエネルギー事業者と面談し、今朝円卓会議を実施した。
本日は、世界的なガス価格の高騰が、英国や欧州諸国に与える影響に対する政府の対応を説明する。

はじめに、2つのポイントを明確にしておきたい。
議長。第一に、需要家保護が我々の最大の関心事であり、この重要な問題に対して政府は最重要視していることを強調したい。
第二に、英国は他の欧州諸国と同様、世界的な価格変動の影響を受けているが、英国は多様なガス供給源を有しているという利点をご理解いただきたい。

需要を満たすのに十分な容量、およびそれ以上の容量を確保しており、今冬、供給上の緊急事態は発生しないと考えている。
議長。電気が消えたり、人々が自宅で暖を取れなくなる事態は発生しない。
週休3日制導入や1970年代(※注:キャラハン政権下の「不満の冬」を指しているものと考えられます)への逆戻りもない。これらの論考は憂慮すべきものであり、役に立たず、まったくの見当違いである。

まず、現在我々が直面している世界的な現象について背景をいくつか説明したい。
世界がCovid-19パンデミックの影響から脱却し、経済回復に伴い、世界のガス需要は多くの人の予想をはるかに上回るスピードで劇的に増加している。

アジアではLNGの需要が高止まりしており、欧州向けのLNG貨物が大幅に減少している。
また、米国の天候不順も欧州へのLNG輸出に影響を与えている。

このように、需要の増加と世界的な供給量の減少により、世界的にガス取引価格は上昇傾向である。
ガス卸市場価格が高騰していることから、電力の卸市場価格も上昇し、多くの短期市場では記録的な高値、若しくはそれに近い水準で取引されている。

しかしながら、今冬供給危機は予想していない。これは非常に重要なポイントである。これは安定供給の問題ではない。

これまで英国のガスシステムは、安全に供給を継続してきたし、今後も多様な供給源と、需要を乱す十分な供給能力を備え、効果的に機能することが期待されている。

National Grid Electricity System Operatorは、電力システムを確実に運用し、需給バランスを維持する手段を確保しており、様々なシナリオの下でも、電力の安定供給を維持できると確信している。

また、他の欧州諸国のように、我々はガスを特定の供給源に依存していない。

ガスの国内生産量は昨年のガス需要の約50%を占めており、英国最大のガス供給源となっていることは、庶民院議員の皆さま、閣下の皆さまもご存じの通りだ。

しかし、英国は最も重要で信頼できるエネルギーパートナーであるノルウェーとの良好な関係の恩恵を受けており、英国のガス需要の約30%をノルウェーが供給している。
ちょうど本会議開始30分前に私はノルウェーのエネルギー大臣と会話し、Equinorが本日発表した、英国と欧州の需要を支えるべく、10月1日からガス生産量を大幅に増加させる方針について歓迎した。

議長。私たちの残りのガス需要は、欧州大陸とのパイプラインを介して世界市場から調達しており、また多くの方がご存じの通り、欧州最大のLNGインフラを通じて調達している。

世界のガス事情が、一部のエネルギー小売事業者に影響を与えていることは明白である。この数週間で4社の小売事業者が市場から撤退しており、今後も更に撤退する企業が出現する可能性がある。

議長。私は、BEIS大臣に就任する前の2年間、エネルギー担当閣外相を務めていたが、この時期に市場から撤退する事業者が存在した。
今年は以前より多いかもしれないが、この時期、再生可能エネルギー義務(RO)支払い期日を前にして、市場ではよく見られることだ。

本日はっきりさせたいのは、小規模な小売事業者が市場撤退すること珍しいことではないということだ。特に世界の卸取引価格が上昇している際には猶更である。

この5年から10年、この業界では定期的に参入と撤退が繰り返されてきたが、これは競争が激しい市場の特徴である。
現在の世界的にガス価格が高騰している状況では、市場から撤退する小売事業者が通常より多いかもしれないが、パニックや心配は不要である。

我々は、全ての需要家にエネルギーを確実に供給すべく、明確なプロセスを有している。一般的に、エネルギー小売事業者が倒産した場合、Ofgemは別の小売事業者を指名して、需要家にサービス提供を行うことで需要家へのエネルギー供給を継続する。エネルギー供給がストップすることはない。
繰り返すが、我々の最優先事項は需要家保護である。

更に、この問題に対する私と政府の取り組み方針として、3つの原則を強調したい。

第一に、政府は経営危機に陥った小売事業者を救済することはない。失敗や不始末に対する報酬は一切あり得ない。劣悪なビジネスモデルの、調達価格の変動に耐えられない事業者の支援は、納税者が認めない。

第二に、需要家、特に最も弱い立場に立たされている需要家は、価格高騰から保護される必要がある。

第三に、エネルギー市場が少数の事業者による寡占状態へ陥ることなく、現在のシステムの特徴である競争を維持する必要がある。少数の小売事業者が需要家に一方的に価格や条件を押し付けるような、かつての「居心地の良い寡占状態」に戻ってはならない。

庶民院議員の皆さま、閣下の皆さま、そして有権者の皆さまに安心していただきたいのだが、1,500万世帯が年間最大100ポンドの節約を実現できているエネルギー価格上限制度は今後も維持できる。

前述の通り、このような条件下で優先されるべきは需要家保護であり、エネルギー価格上限制度はそれを効果的に実現している。上限制度は今冬の世界的なガス価格の急上昇から、何百万世帯もの需要家を保護してきた。

一方、”Warm Home Discount”、 ”Winter Fuel Payments” 、“Cold Weather Payments”は何百万もの弱者や低所得者層の家庭のエネルギーコストを支援し続ける。
需要家に価値と良いサービスを提供するためには、エネルギー小売事業が自由化された競争市場であり続ける必要がある。

世界的なガス価格の高騰の結果、議員の皆さまや閣下の皆さまもご覧になっていると思うが、 Teesside、Cheshireの2つの肥料工場の操業が停止した。CO2の生産が止まり、食品や飲料、原子力や健康分野で活用されるCO2の国内供給に影響を与えている。

昨日、私はCF Industriesのグローバル・チーフ・エグゼクティブであるTony Willと面談し、CO2供給確保に向けた検討を行った。
今回の発表で影響を受ける業界が対応策を用意し、混乱を最小限に抑えることができるように政府全体で取り組んでいる。

ここ数日、広く報道されているように、私は英国最大のエネルギー小売事業者の首脳、Ofgemなどの機関と、何度も議論を行った。

今朝、私は英国のエネルギー事業者・消費者団体との円卓会議に出席したが、その中で私は議場でも繰り返し述べたように、需要家保護の必要性を訴えた。
今週にかけて、政府内での対策会議が続く。

更なる行動や声明については、本日午後に、Ofgemとの共同声明を発表し、Ofgemやサプライヤーとの健全で示唆に富む議論を経て、政府の次のステップを説明する予定だ。

議長。英国のガス供給の安全性は強固だ。しかし、英国は未だに化石燃料への依存度が高すぎるのも事実である。世界的なガス価格の変動に晒されていることは、将来のエネルギー安全保障を強化するために、国産の強力な再生可能エネルギー部門を構築する計画の重要性を示している。

政府の取り組みにより、再生可能エネルギーの設備容量は2010年から4倍以上に増加しているが、この分野でできることは明らかにまだまだある。
我々は、今後数年間に少なくとも1つの大規模な新規原子力プロジェクトを承認することを約束し、3億8500万ポンドを投じて次世代の先進的な原子力技術を支援し、数十億ポンドの民間資本の誘致と数万人の雇用創出を支援していく。

需要家が第一である。私たちは有権者を守らなければならない。


出所・参考リンク

UK gas market and prices


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