【東方Vocal曲紹介 Track.8】アナザーエゴ

それは、誰もいない無意識の世界で、愛を探し求める少女の物語――


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基本情報

曲名

アナザーエゴ

サークル

Liz Triangle(りず とらいあんぐる)

収録アルバム ※初出のみ記載

シンソウダイバー(2016年)

※リンク先でクロスフェードデモの視聴ができます。

原曲

  • ハルトマンの妖怪少女

出典:『地霊殿』Exボステーマ
関連キャラ︰ 古明地こいし(こめいじ こいし)

カラオケ

DAM

評価

オススメ度

★★★★★(並←→極)
こいしが持つ少し特殊な孤独感を味わえるぞ!
(これはホントにオススメしてるのか……?)

前提知識

★★☆☆☆(少←→多)
こいしの境遇の把握を前提とした歌詞があるので、事前に軽くでもおさらいしておきたいところ。

原曲度

★★★☆☆(弱←→強)
Bメロと大サビは原曲成分しっかり配合。

雰囲気

★★★☆☆(軽←→重)
孤独を歌う曲としては軽いテイスト(当社比)
でも歌詞がところどころ怖い……

解説

目標の10曲目までもう少し……!

選定理由

突然ですが、ニコニコ動画に投稿されている『東方紅地剣』というTRPG(SW2.0/2.5)の創作リプレイシリーズをご存じでしょうか。
(未視聴なら見とけと筋肉が囁いている)
『紅魔郷』で登場した紅魔館メンバーと、『地霊殿』で登場した地霊殿メンバーが一緒にTRPGで遊ぶ、という内容になっています。
これがまためちゃくちゃ面白いんです。ぴゃあ!
完結済みだから安心して見れるのもいいですね。
……いや、うん、だから、まぁ、その、なんだ、すまない。
つまり、前回が『紅魔郷』だったから今回は『地霊殿』から選曲っつーだけですわ(開き直り)

冗談という名の宣伝はともかく。
この曲は最初の10曲に含めると当初から決めていたんですが、どのタイミングで入れるかは悩んでいまして……
前曲が大切な存在を失う悲しみを歌っており、孤独をテーマにしたこの曲とシナジーがあるということで、今回選ばせていただきました。
(まぁお嬢様にはご友人もいるので独りってわけではないですが)
歌詞的に暗い曲が続きますが、メロディ面ではそれほど暗くないということも共通していて、安心して聴いていただけます。
こちらは内容に反して不思議と爽やかな後味となっており、前曲で少し気持ちが沈んでしまった方にとっては、ゆっくりと浮上に向かう1曲目として最適かと思われます。

原曲について

『地霊殿』Exボスのテーマ曲です。
Exボスは作品によってメインストーリーとの関係の深さに差がありますが、『地霊殿』でその座に君臨する古明地こいしの場合、異変の中心地だった旧地獄の関係者ではあるものの、異変と直接関係があったわけではありません。
登場シーンが「通りすがりの女の子(※)」レベルだったのもあってか、曲自体はあまり重々しいものではなく、むしろファンシーな印象を受けるかと思います。
これはこいし自身の特質が由来で、裏表のない性格と、(少なくとも見た目は)幼い女の子であることを表現しているものと思われます。
とはいえただ無邪気というわけでもなく、狂気や深淵が纏わりついているのも、またこいしらしくていいんですよねぇ。
サビ前は激しめの音使いで、サビに入るとピアノがメインになるってところが好き。

曲名の「ハルトマン」は19世紀に実在したドイツの哲学者の名前です。
(この姓だけだと何人か当てはまりますが、ここではエドゥアルトさんのことです)
代表的な著書に『無意識の哲学』があり、こいしの能力やスペルカードもこれに因んだものが多くあります。
この本、実は結構ぶっ飛んでるんですが、それもまたこいしのアイデンティティの形成に一役買っているものと思われます。
人間を苦しみから解放するために科学を発展させようぜ!的な内容が書かれていて、それだけ聞くと「まぁそんな人もいるよね」で終わるかもしれません。
(東方で「科学を発展」といえば……)
ただ、科学を発展させた先に求めるものが「人類の自殺」です。
死によって苦しみから解放される、というレトリックはよく耳にすると思いますが、そのスケール壮大バージョンになります。
こいしもその「無邪気に残酷」なスタンスに倣ってか、笑顔で「殺戮」「殺掠」といった恐ろしい単語を口にしています。
まぁ、彼女も妖怪なんで、人間ビビらせてナンボなところはあるんですが……


※【Topics!】古明地こいし、はじめての神頼み――
こいしちゃんは、地底の旧地獄にある『地霊殿』の主、古明地さとりの妹さんです。
2人は「覚(さとり)」という人の心が読める妖怪で、「サードアイ」という読心用の目を持っています。
(サードアイは宙に浮いていて、背中から出ている触手と繋がっている)
が、その心の声から、人間たちが自分のことを疏んでいると知り、こいしはサードアイを閉じてしまいました。
このとき、自分の心も一緒に閉ざされることになったのですが、一方で開眼したのは「無意識を操る程度の能力」でした。

この能力は簡単に言うと「人の意識から外れる」というもので、この点では透明化と似た効果を持ちます。
また、人間が意識していない深層心理(忘れている記憶など)を強制的に引き揚げるといった使い方もできるようです。
この能力を使って、こいしは見張りの厳しい妖怪の山を誰にも気づかれずに登り、博麗神社と並ぶもう一つの神社「守谷神社」を参拝しています。
そのときに自機勢との邂逅を果たし、(本編で)姉に勝ったその実力を確かめると言って勝負を仕掛けたのでした。

そもそもなぜ彼女が守谷神社にいたのかというと、ストーリー本編でラスボスを務めた「姉のペット」が守谷神社に住まう神から力を与えられている(ので自分のペットにも分けてほしい)から――という、なんとも子どもらしい理由。
上では参拝と書きましたが、こいし本人に「拝む」という気持ちはさらさらなかったでしょう。
結局、当てにしていた神様は不在でこいしの望みは叶えられなかったのですが、自機勢と弾幕ごっこで遊んで満足したようで、大人しく地底に帰っています。
こんなところもまた子どもらしくていいですね。

ちなみに、原作ではパチュリー以外に絡みがない(※)紅魔館組と地霊殿組が二次創作界隈で繋がったきっかけは、このこいしちゃん。
同じExボスのちっちゃい女の子枠ということでフランと仲よくなった結果、姉+当主で共通するレミリアさとりの関係も副次的に生まれ、結果として家族ぐるみの付き合いとなっている作品もあります。
(解説冒頭で宣伝紹介した『東方紅地剣』もその一つです)
※漫画『智霊奇伝』で、一部の地霊殿メンバーが紅魔館を訪れるシーンがあります。良好な関係とは言えないけど……


感想︰曲調とボーカル

Liz Triangleのメインボーカルであるlily-anさんが、いつもどおりの優しく美しい歌声で、こいしが抱くちょっと不思議な孤独感を表現されています。
メロディもそれに合わせて穏やかなものになっていて、出だしはすっと溶け込むように耳に入ってきます。
朝少し早めに起きて、窓からじんわり白ずんでいく空を、甘いホットミルクでも飲みながら眺める――そんなシチュエーションでこの曲を流すのがオツです。
……いや、あまり限定的すぎんか?

原曲はこいしの登場シーンに合わせて決闘にフォーカスしているためか、激しいというか不穏な様子を全面に出しているので、そちらのイメージが強いと結構なギャップがあります。
テンポのよさはしっかり継承していて、静かながらも軽快なイントロ〜Aメロは心地よさ抜群です。
人気のない場所で一人歩いて旅をしている風景がどことなく想像されます。

Bメロは原曲サビがベースになっていますが、かなりまったりとしたアレンジになっています。
しかし、サビの手前ではこいしの心の奥に淀んでいた気持ちが溢れ出す展開に沿って、一気に音を強めていきます。
そしていざサビと切り替わるときの数秒の音が、これまたキレがよくてちょいクセに……
その後のサビのメロディは、声を詰まらせながら思いを吐き出すように、途切れ途切れになっているのが特徴的。
ラストのワンフレーズは、そのメロディを踏襲しつつも、最低限のピアノの音を添えて解放的な余韻を味わえるようになっています。
さ、そろそろお仕事に向かうとしますか(しろめ)

感想︰歌詞

「この世界」という表現が散見されますが、これは現実世界(幻想郷)ではなく、「無意識の世界」のことです。
こいしがその能力によって姿を隠すときのことを、現実から位相のズレた世界――無意識の世界へ入ったと、この曲では解釈しています。
心象風景と言ってもいいと思いますが、「この世界」はどうやら荒れ地に近い様子。
もちろんこいしを除きその境地に達しているものはいない(位相を補正してこいしを認識できる兎はいる)ので、そこにはこいし以外の生命が存在しません。
無意識で行動してしまう自分に少し辟易しているような描写が原作にありますが、そんな光景をずっと見ている(見せられている)なら納得です。

こいしにとってはある意味あたりまえの光景ではありますが、現実で紡いできた他者との関係性が、「この世界」に存在することの寂しさを助長します。
あるときその孤独感、寂寥感が決壊し、「堰を切った」ように溢れ出した――この曲ではそんなシーンを描いています。
「他者」が直接歌詞に登場することはありませんが、「悟り」という言葉が何度か出てくることを考えると、やはり姉のさとりが筆頭に挙がるでしょう。
姉妹、それも妖怪としてかなり長い時間を共に過ごしてきた間柄であっても、「瞳を閉じなかった」さとりには無意識の世界に踏み入る権利がありません。
ただ、その繋がりが「糸」として、無意識のこいしを現実に繋ぎとめています。

こいしはかつて心を閉ざしました。
それは自身のレゾンデートルを否定するような行為ですが、皮肉なことに妖怪「覚」の能力ゆえに起こった結果でもあります。
(東方の設定において、妖怪が恐れの象徴を失うことは、消滅してもおかしくないレベルの一大事です)
そのため、この曲では、姉を通して己の出自を象徴する「糸」によって、第三の瞳を「縫い付けた」と表現しています。
聞いているだけで心が痛む歌詞ですが、当時のこいしはそれ以上に耐えがたい苦痛に苛まれていたということでしょう。

そうして大半の感情と一緒に自分自身すら手放しかけたこいしは、その後しばらく無意識という名の荒野を彷徨い続けます。
やがて、存在の歪みに心が耐えきれなくなったこいしですが――この曲のラスサビ部分で、「糸」の辿る先に「愛」を見つけることになります。
それは、現実世界にいる姉を始めとした者たちが、これまでの暮らしの中で無意識にこいしへ注いでくれていたものでした。

しかし、妖怪「覚」としては一度死んでしまったと言えるこいしです。
たとえ「愛」を知覚したとしても、無意識の世界から逃れることはできません。
そうして最終的には以前と変わらず一人ぼっちであることが示唆されて、曲としては終わりになります。
……あれ、なんか救いがねぇな?

はい、ではここで、最後の歌詞と曲名に注目してみましょう。
「私だけが私を見てる」
「アナザーエゴ」
とまぁ、素直に考えると、現実世界と無意識の世界で二人のこいしがいるということかなと。
一人ぼっちなのは、無意識側のこいしです。
だから、一人ぼっちではない現実側のこいしが、無意識側のこいしを「意識する」ことで、自己救済を図っている――と、そんな状況がなんとなく想像できます(1番サビがヒントになっています)
それは根本的な救いではないかもしれません。
ただ、こいしが彼女自身を保つために必要なプロセスであることは確かです。
こいしの笑顔の裏にある背景を思うと、涙腺が緩んでくるぜ……
あくまでもこの曲は二次創作ですが、この誰にも知られることのない懊悩は、あるいは原作のこいしも近い経験をしていそうな、そんなリアリティが感じられますね。
まぁ元から創作なんだけどさ


もしもーし、今貴方に次の曲持っていきまーす

聞き慣れぬ少女の声にを振り返ると、そこにはライブ用スピーカーを担いだこいしちゃんg
(爆音により鼓膜消滅)

お姉ちゃんがこの曲良いって言ってた

  • 人恋し、夢悟り(原曲:少女さとり ~ 3rd eye、ハルトマンの妖怪少女)

同じくりすとらさんからお姉ちゃんメインの1曲。
原曲ゴリゴリに使っているので、原曲に近いアレンジが好みの方にはオススメ。
歌詞の内容的には、妹に対して若干重い愛情を注ぐお姉ちゃんって感じ。
この曲紹介してええんかこいしちゃん。
やめなさいこいし

こっちの曲はお姉ちゃん達と話すネタになるかも!

  • 胎児の夢(サークル:凋叶棕)

こいしのスペルカード名をタイトルに掲げた1曲。
かの奇書『ドグラ・マグラ』に登場する教授の学説が元ネタです。
ラストのほうでは巻頭歌がまるっと歌詞に流用されていて、こいしの歌というよりは『ドグラ・マグラ』の歌みたいな感じなっちゃってますが、まぁ無意識なら仕方ない。


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