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前哨戦の意味合い


「前哨戦の意味合いを考えることはとても大切」という持論が自分にはある。


前哨戦とは、後に控える大目標へ向けた調整・試走といった位置付けのレースだが、その観点からも前哨戦を100%の状態で挑むことはまずない。
どのレースを前哨戦とするかは各陣営の思惑によって異なるが、セオリーとしてトライアルやステップレースと位置付けられているレースはどの陣営も前哨戦として使ってくる事が多いだろう。賞金の足りない馬が、前哨戦として使ってくる有力馬の隙を突いて賞金加算を目論むといったケースもあり、これもまた競馬の醍醐味のひとつである。


ここでは既に十分な賞金を持っている有力馬の前哨戦に絞って話を進めていきたい。




有力馬の前哨戦は、先述の通り「調整」「試走」という要素が強い。陣営からも「本番に繋がる競馬ができれば」などといったコメントが頻繁に出るように、あくまでも本気で狙っているのは次だということ。この辺りは競馬ファンならば言わずと知れた共通認識だろう。



重要なのはここから。

陣営が口にする「本番に繋がる競馬」とは何なのか、そしてレースを終えた時に今回の競馬が本番に繋がる内容だったのかをそれぞれ考える。これがとても大事だと自分は思っている。

これに関しても競馬ファンならば当たり前と思うかもしれない。しかし実際のところ、この作業をしっかり出来ている人は全体的に見てもかなり少ないように感じる。
こうして偉そうに言っている自分でさえしっかり出来ているかは分からないし、寸分の狂いなくしっかり考えられるようにするため努力している日々だ。



本番を想定したレースの組み立てが前哨戦において大事だということはこれらの観点からも分かるだろう。
しかし、前哨戦で派手なパフォーマンスを披露するような馬がいた場合、どうしてもその強さに目が行ってしまい内容を忘れがちになる。もちろん、明らかに能力が抜けていると分かれば本番でもそこまで心配する必要はないが、OPクラスの中で能力が抜けている馬はそう多くない。

そもそも昨今の日本競馬は、強い馬ほどステップレースを使わずにぶっつけ本番で挑むことが主流となっており、昨年(2022年)の中央G1・全24競走において約3ヶ月以上の間隔を空けて勝利したソダシ(ヴィクトリアマイル)、イクイノックス(天皇賞・秋)の2頭はともに日本トップクラスと言える実力馬。前哨戦を使わなかった理由は様々あるものの、試走をせずに本番へ向かう事ができたのは少なからず「勝てる」という自信があったからだろう。


話が少々逸れてしまったが、普通なら上級クラスになると各馬の実力差は拮抗する。だからこそ、ぶっつけで本番に挑むのではなくしっかり前哨戦を叩き、余力を残した状態で本番に繋がる競馬をする必要がある。
そのような状況下、前哨戦で多少派手なパフォーマンスを見せたところで他の馬たちが100%の状態でない以上、そのパフォーマンスを過大評価する事はできない。むしろ、自身のベストパフォーマンスを見せたという意味では手の内を明かしてしまったと捉えることもできる。

だからこそ、前哨戦はパフォーマンスよりも内容がとても大事だという結論に繋がる。




近年、圧倒的な強さを誇っていたアーモンドアイやグランアレグリア、コントレイルなどをはじめとしたスーパーホースたちが軒並み現役を引退し、特に昨年は『絶対王者不在』の年であった。
ぶっつけ本番のローテーションが主流になりつつある中、休み明けでG1を勝利した馬が2頭のみだったのはそれを強く象徴しているが、絶対王者が不在の時代=“トップ戦線の実力差が拮抗している時代”だからこそ、なおさら前哨戦の意味合いをしっかり考える必要がある。



前哨戦について考える上で昨年から代表的な例を挙げるならば、大阪杯と日本ダービー。前者はポタジェ、後者はドウデュースが勝利しているが、ともに前走は上がり3F最速で敗れている。
ここで注意すべきは最速の上がりを使えばいいということではなく、しっかりと次走に繋がる内容であったかを考えることが重要。


ポタジェに関しては、大阪杯の前哨戦として金鯱賞に出走し、結果としては4番人気で4着。2200m(AJCC)を使った後だからなのか、はたまた戦前からの作戦だったのか、スタートして後方に下げる形を選択。いつもとは違う戦法でメンバー最速の上がりを繰り出したものの、この一戦で「切れる馬ではない」という事が明確になった。
本番の大阪杯ではスタートから先行ポジションを確保し、ラストまでしぶとく伸びて勝利。メンバー強化も相まって8番人気と大きく人気を落としていたが、前哨戦の内容をフルに活かした素晴らしいG1制覇である。

ドウデュースに関しても同様、日本ダービーの前走・皐月賞では後方追走から大外を回し、メンバー最速の上がりで3着。しかし、人気としては1番人気に支持されていただけに世間からは「絶望的な位置」などとレース後に回顧されていた。
本番の日本ダービーでは他の有力馬と同じような位置取りから、直線は素晴らしい末脚と抜け出しのタイミングで勝利。皐月賞を前哨戦としてしまうのは賛否両論あるかもしれないが、前走でしっかり使える脚を計った事が栄光のダービー制覇をもたらしたのは紛れもない事実である。


例として挙げた上記2パターンはたまたまどちらも前哨戦より人気を落としての勝利だったが、このように前哨戦で価値ある内容を消化していても本番はメンバーが強化される事もあって評価が落ちてしまいがちである。

特に前者のポタジェにおいては、金鯱賞ではジャックドールが逃げてレコード勝ちを収めるという派手なパフォーマンスを見せ、本番の大阪杯でも2番人気に支持されていた。しかし結果はポタジェだけでなくレイパパレ(金鯱賞2着)にも逆転を許す形に。ハイペースの展開だった点も敗因として挙げられるが、レースを引っ張ったのはジャックドール自身であり、そもそも逃げる競馬しかしてこなかった事がそのような要因を招いてしまったのも事実。逃げの戦法が悪いとは言わないが、レースの形が限られてしまい、それに乗じて展開にも左右されてしまうため、特にG1などの上級条件では諸刃の剣になってしまいがちである。


上記は分かり易く説明するために本番で勝利した馬を例に挙げたが、本番で敗れはしたものの前哨戦の内容を活かしてレースぶりが良くなったというケースも多々ある。
結果や着順は他の馬との兼ね合いもあるため前哨戦を好内容で走ったからといって必ずしも本番で良い着順が得られるとは限らないが、馬本位で考えるならばレースぶりが良化することは先々のための大きな収穫となる。



賞金が少ない馬や実力的に大舞台だと少々厳しいという馬にとっては前哨戦とはいえ出来る限り結果が欲しいのも事実で、レース内容だけで語れるほど甘い世界でない事も十分に理解している。

ただ、OPクラスの馬は条件クラスの馬よりも番組が選べるという大きな利点があり、理想の番組選びができればおのずと目標も立てやすく、目標へ向けた準備(今回で言えば前哨戦の組み立てなど)もしやすくなる。
上級条件になればなるほど一戦一戦の内容がより濃いものになり、競馬ファンとして見ている自分はその過程を考える事が何よりの醍醐味だと感じているため、今回は前哨戦の意味合いについて書かせて頂いた。

そうした中で、概念を覆すようなスーパーホースが現れたらまた楽しくなるし、前哨戦から地道に経験値を積み上げてきた馬がスーパーホースを撃破するというのもまた競馬ならではの醍醐味である。




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