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「釜山港へ帰りたい」 - 韓国初訪問記 - 少し村上春樹風

僕はいま釜山空港内のスターバックスでこれを書いています。そうです、「釜山港へ帰れ」の釜山です。実はタイトルしか聞いたことがなくてどんな歌か知らないのですが。

気の早いクリスマスソング(英語です)が流れる店の中で、世界中どこのスターバックスでも同じデザインのテーブルに座り、いつもと同じグランデサイズのコーヒーをいつもと同じ紙カップで飲んでいると、自分が今いる場所を忘れそうになります。窓の外に見えるいくつもの工場やビルの看板には紛れもなくハングル文字が並んでいますし、周りのテーブルからはあの日本語を逆さまに読んだような韓国語が聞こえてきます。だけど、そんなことはアメリカでもあり得ることなんですね。コリアンタウン近くでスターバックスに入ったら、今よりもっと多くのハングル文字や韓国語の会話に囲まれることだってあるかもしれません。

国際空港なんてものはその建物の目的からして何処でも似たり寄ったりなのでしょうし、スターバックスはコーヒーショップというより、今や無国籍性の象徴と呼んでいいかもしれません。そして店内無料WIFIを利用してのインターネット! そこには旅にはつきものである筈の非日常性のかけらもありません。

だったら一体、なぜ、韓国くんだりまで行かなくてはいけないのかとあなたは聞くかもしれません。わざわざ10時間以上も飛行機に閉じ込められなくても、スターバックスなんてアーバインにも(大阪にも、あるいは千葉中央ニュータウンのイオンモールにも)あるじゃないの、と。

もちろん、本当はあなたはその理由を知っていますね。そう、出張です。仕事です。新しいウエブサイトを立ち上げるための打ち合わせとソフトウェアの説明、という極めて散文的な、つまらないとさえ言える事情が、僕を生まれて初めて韓国まではるばる運んできたことを。2泊3日の日程を終え、次の出張地である大阪へのフライトを待っているところです。

このように世界が狭く没個性的に、だけど便利になっていることに対して、僕としては異議を申し立てるつもりは全くありません。グローバル、という実体のない魔法の呪文のようなキーワードが僕の仕事を、つまりは僕と家族の生活を成り立たさせているわけですので。そして、それでもなおと言うべきでしょうか、僕の韓国初訪問はとても刺激的で未知の経験に満ちた楽しい3日間でした。

仕事先の人達は空港到着から帰国までの綿密なスケジュールを組んで待ち構えていました。何時にホテルに迎えに来て、何時にどの店で食事をするかまで。僕のことは英語しか話せない日系アメリカ人と勘違いしていたそうです。彼らが案内してくれたおかげで自分では思いつきもしなかったようなものを食べることが出来ましたし、観光スポットのような場所に連れて行ってもくれました。

唯一1人の時間がとれた早朝にはホテルの周りをぶらぶら歩きました。釜山の街の風景は日本と似ているようで、やはり少し違います。当たり前と言えば当たり前ですが。24時間営業の食堂に入り、読めないメニューを写真を頼りに朝食を注文しました。少し不安でドキしながら、何が起こるかわからないことにワクワクする、あのざらっとしたヒフ感覚は1人で異国を歩かないとなかなか得ることができない種類のものです。

旅と言えるほどのものではなく、単に数日滞在しただけですが、やはり来てよかったと思います。スターバックスで書き始めて、機内に移動して続きを書いています。釜山から大阪までわずか一時間半。そこでは次なるアンチドラマチック、終わることのない日常が待ち構えています。はたして、そんな機会がこれからあるのかわからないけど、僕はまた釜山港へ帰りたい。

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