場違いな駅のホームで、むかしのことに思いを馳せている

殊更することもない暇な時間、駅のホームに立ち尽くし、ありもしないことに延々と思案を巡らせていると、いつの間にか額は窓にぴたとくっつき定期的に吐かれる息に白む外界の景色が、たったいま思案を巡らせていたあれこれの様相に変貌して、ああ彼女がいるではないか、とぼやいてみても、烏は鳴くし虫は飛ぶし風は運ぶのだが、彼女だけはいつまで経っても現れぬ、絶望的な程に穏やかな田園風景には案山子が一つ、自らの責務も忘れ打ち払われた木立の隙間で思わず微笑に皺を寄せる、横直線に開いた木棒の先端の指先にまで彼女はおらぬ、完全無欠な世界で太陽の光を浴びながら窓は巡り巡っていく、道は荒れ果て草陰はやすらかに息はやはり白む、息を吐ききり、肺胞に何ものも残っていないのがしかと分かってしまうと、水稲は刈られ、穂の切っ先に串刺しになった蠅は再び飛ぶこともあるまい、雑踏の中、喧噪に耳を悩ましながら、目はぎらぎら、なんの必然も因果も無いまま、立ち尽くしている。

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