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【三好の2018シネマランキング】

今年もやって参りましたこのシーズン。今年はいよいよ字数が爆発してしまったためnoteにて公開。例年お楽しみにいただいている読者の方も多いということで有難く、それでは発表させていただきます。

■2018年は劇場&DVD総鑑賞数139本、うち2018年封切作(イベントや映画祭での新旧作含/劇場・DVD・配信問わず)が85本。今年は例年以上にクセの強いわがままなラインナップですが、からこそ自信を持ってお勧めできる12本です。それでは、どうぞ。

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特別賞. 「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」

タイの進学校を舞台に、高校生たちのカンニングを描く。すぐれたプロダクションデザインに魅力的なキャスト、文字通り息が止まるほど緊張感に満ちた抜群の演出力。タイのメジャー映画を新次元に引き上げる快心のエンタメ作品で掛け値無しに面白い作品であるばかりか、この映画、僕が仕事で担当するアジア映画の商談会で日本配給社が契約されたという大変誇らしい個人的な思い入れも!日本でもヒットして本当に嬉しい!これ、まじで面白いですから。

次点.「バトル・オブ・ザ・セクシーズ」

1973年、女子テニス王者ビリー・ジーン・キングと55歳落ち目のテニス選手ビリー・リッグスの間で繰り広げられた異例の「男女対抗テニス試合」を描く。かたや当時の性差別にさらされながら自らの「性」に敬意を求め、かたや落ち目の人生を誰より自覚しながら再起をかけて、いずれも負けられない理由が積み上がってついに激突する、燃えるプロレス的展開が最高。開始5分で面白い映画だと確信できる。「女性は重圧に弱い」など作中で繰り広げられる時代錯誤な見下げた差別発言はしかし21世紀の日本でも少しも変わっておらず(某大学の入試差別など記憶に新しいが)、からこそこの映画その勝利を目撃することは「今」見てこその意味がある。

10. 「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」

「まだ見たことのないもの」を見られることこそ映画のもっとも原初的なよろこびであり、それを活動する肉体その一身に体現してみせるのがトム・クルーズ。もはや頭おかしいんじゃないか(褒めてます)、な彼の肉体の挑戦を続々と目撃し、また映画史に目配せをしながら「こんなシーン見たことねえよ(パリのチェイスシーン!)」を連発更新していくアクションの数々。そして彼女のスピンオフ映画が出るなら何本だって付き合うぜ、な我が愛するヒロイン=イルサなど、これはもう「映画」の満願全席。最高でしょう。

9. 「ウィンド・リバー」

舞台はアメリカ、ワイオミング。月が照らす夜の雪原を裸足で必死に駆ける女性のショットから本作ははじまり、まさしくこのシーンが作品を貫く最たる重石となる。私見だが9.11以降アメリカ/世界で作られる映画での「服喪/弔い/手向け」の手つきはより切実なものとなり、何度取り戻したいと願ってももう取り返せない「喪失」といかに向き合うか。煉獄のような苦しみと向き合い、せめてもの手向けとしての“映画による”鎮魂。素晴らしいドラマなうえに、スナイパー映画、リベンジ/アベンジ映画としても超優秀。今だに1位にしたいくらい大好きな一本。

8.「ファントム・スレッド」

仕事と自己実現/存在表明が完璧に同一化した男が、自分の人生に”愛する他者”を迎え入れたときに生まれる“引き裂かれ”、かたや相手の人生とその仕事を誰より邪魔したくなく応援したい一方でそう振る舞うほどに自分の存在価値が透明になっていく妻の“引き裂かれ”。この双方の“引き裂かれ”から美しくねじれた終着まで、を極上の映画的官能のうちに描きこむ。とにかく全てのショットが完璧にキマっていく、と思えば撮影は監督本人!

7.「心と体と」

すべての場面で何/誰が光に照らし出され、また影のうちにいるか。2時間の物語をおよそ「光」の演出だけで語りきってしまった驚異の一本。光や明るみ、そして影や夜、がそれぞれ何を象徴し、いかにして全てが明るく照らし出され、何も隠さぬ喜びに満ちた「光」に包まれるまで至るか。鑑賞後、劇場の外に出て陽光のうちに歩き出すのがあれほど悦ばしい映画体験があったろうか。語りの洗練も素晴らしく、一番ヤバくてシリアスな場面が一番笑えて面白い、という不謹慎さはしかしこの映画のもたらす希望でもあり、個人的に昨年の傑作「ありがとう、トニ・エルドマン」と並べたりも。

6.「ワンダー 君は太陽」

お涙頂戴のベタ泣かせ映画と敬遠するなかれ。この映画は(作中でも暗示される太陽系のように)主人公オギーという中心とそれをめぐるひとりひとりの物語を丁寧に編み上げることによって、すべてのキャラクターその振る舞いに深い視線を与えることに成功した。登場するキャラクターすべての幸せを願わずにいられない一本(特に長女、長女よ…)。ぜひご覧になった際に驚いて頂きたいので詳しくは明かしませんが、この映画の構造/しかけが明らかになるあるシーン、そのシンプルさとさりげなさが非常に上手くまたやさしかったのが忘れがたく、上位インは譲れませんでした(これ話したいので、みなさんぜひご覧になってください)。

5.「アイ, トーニャ 史上最大のスキャンダル」

当人が選べぬ出自の不条理を背負わされ、努力さえも報われず自己効力感を徹底的に剥奪され続ける悲運のホワイトトラッシュ・ヒロインの人生に「アメリカ」を集約してみせる。ニュースバリューに翻弄され消費され、こすられきった先にもなお人生は続く。画面越しに観客にまで啖呵を切りながら、自らの人生に尊厳を引きつけることを決して諦めない、ラストの負けざる者の精神をとくと見よ。

3.「否定と肯定」

厳密には国内封切は2017年ですが福岡封切が2018年だったのもあり、だしとにかく見てしまった以上はこれは絶対にTOP3(同立3位に2本です)に入れないわけにはいかない個人的重要作。ある出来事を伝えようとした時、そこには必ず伝え手の意思や解釈が介入することは不可避だが、だとしてどこまでが演出や解釈の域で、どこからを歪曲や捏造と判断すべきか。フェイクニュースや裏取りも定かでない安手の言説がマジョリティを獲得し得て、かつその発言権がひとしく皆に与えられるこの現代、我々に必要な態度とは何かを本作は教える。「歴史」と「責任」への意識。かつとにかくめちゃくちゃスリリングで超面白い映画でもあるので、絶対に絶対に見ることをお勧めします。

3.「ゴースト・ストーリー」

不慮の事故で夫を突然亡くした妻のもとへ夫がシーツ姿の幽霊となって帰ってくる、が、妻には彼の姿は見えず夫はただ彼女を見守るだけしかできない。映画は純粋なふたりの死別メロドラマであると同時に近年の映画トレンドとしての「幽霊」、そして超普遍的な「自分が死んでなお遺るものとはなにか」という問いにまで対峙していく(ほんとはもっと色々書きたいがなるべく知らずに驚いて欲しいので自粛)。監督が本作を作るにあたり参考にした映画がシャンタル・アカーマンの長回し撮影と、アピチャポン・ウィーラセタクンの「ブンミおじさんの森」だったというのは超納得。全カットポストカードにしたいくらい素敵なのも含め、めちゃくちゃ良い映画です。ぜひどうぞ。

2.「スリー・ビルボード」

怪物級の一本。とりわけ脚本はここ数十年書かれたあらゆる「劇映画」脚本のなかで最上だと断言する。近年映画が「観客の求める感動へ効率的にリーチするための感動モジュールのパッケージ」になっていくのと他方、ひたすら「とりとめのない現実を再演する」ことで観客側で映画的な体験を結ばせるものとが双方あるなか、この映画は徹底してそのいずれでもない、“いま・現実”の気運を召喚・圧縮・活写しきる「劇映画=創作」だからこそやれること、をこれでもかと見せつける驚異の達成。ひたすら横滑りを続けながら予測不能にあらゆるものをなべてゆき、やがてそれらすべてを感情の苗床として図太い横串として貫いた先に想像もしないドラマの落着を見届けさせる。なんてものを作ってしまったんだ、と心底戦慄させられる大大大大大傑作。

1.「アンダー・ザ・シルバーレイク」

どう考えても映画的には「スリー・ビルボード」が最上位で間違いないのだが、一種のラブレターとして僕はこの映画を今年のTOP1に選ぶ。失踪した彼女の捜索を続けるなかでやがて電波系みたいな妄想に取り憑かれていく主人公青年の5日間、という物語を表とし、その背景で無数の映画/音楽/ゲーム/ほか様々なポップカルチャーを大量に引用参照しながら140分間ひたすら観客をほのめかしまくる。人間は探究心から、あるいは欲深さからあらゆる”あらわれ”をそのまま受け止めるに飽き足らず、そこにそれ以上の意味を持たせたがるが、それら行為はせいぜい自分のもっている知識や経験のうちから想像/妄想する一種の期待や思い込みを投影しているに過ぎず、じゃあそんな行為は不毛で意味がないか、といえば絶対にそうではない。少なくともそうして夢中になっている間は死ぬほど昂揚して楽しいものだし、そこから豊かで多様な読みや解釈が生まれていくことそれ自体が希望である。そうして僕らはずっと文化、と呼ばれる”あそび”とひたすら戯れ続けるのだ(ということでこの映画はぜひホイジンガの「ホモ・ルーデンス」とセットでお楽しみ頂きたい)。俺の思う「文化」の楽しみと必要の大概がここに詰まっている。見ている間中ずっとたのしい、たのしいよぉ、たのしいいい!となっていて、本当に幸せだった。

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ということで以上12本でした。

2019年もたくさん映画見られると良いな。だし映画を見てまた今年もみんなの感想を交えたお話しもたくさんできたら良いなと願う三好でした。では、ではー。

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