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ずうっと歳上の方が泣いているところをはじめて見た気がする。どうしてかはわからないけど、次から次にこぼれる涙をしずかに手でぬぐっていて、後でわたしの父の名前がその方のお父さん(旦那さん?)の名前と一緒だと言っていた
別れ際、何度も会釈し合った
もう会うことはないでしょう
春は歩き出すと帰れなくなる。
理想と今を生きることと
あんなに輝いてみえたものたちは
近づくと輝きを失って
通り過ぎた風を感じて空をみつめる
理想を熱烈に追うのなんてきらいだ、きらいだ
なのに辞められない
自分の外にあるものを
自分にはないものを目の隅で追い続けてきた
そんな自分を恥じて斬り殺そうとして
切り落としてはまた出てくる芽を放置して
手に入りそうになくて恥じてまた切り落として
と思ったら手に刃は持っていなくて
ただ手で捻り切ろうとしていただ
おふろあがり
冬のうちは記憶が霞んでた
半そでの季節が来たようで
心がぱちぱちはずんでる
まだ空は暗くなりきってない
ベランダに出て
風を感じてみたくて
頭を振ってみたり
身を乗り出してみたり
紺色の空に
人の明かりがにじんでる
ぼんやりと
かすんで、やさしい
おふろあがりに
半そでを着るのがうれしいの
生きていかねばならぬ
いつの世も苦しく
いつの世も美しく
いつの世も洋々と
いつの世も流れゆく
そこにはいつも輝きがあった
落ちては二度と上がれない溝があった
涙の出ない哀しみがあった
言葉のぬくもりが
あたためきれない寒さが
共鳴の音が
人里の孤独が
深い祈りがあった
今日か昨日か十年前か
足元おぼつかなく気がつけば
流れ流され泳ぎ溺れ
水面に浮かべば
目のつぶれそうな光にまた来る波
耐え難い苦しみがここにある