見出し画像

古傷

“古傷が痛む”なんて、厨二病が聞けば喜びのあまりブリッジしたまま歩き出すほどかっこいいフレーズがある。

アニメや漫画で、傭兵や戦士などとして生きる渋くてかっこいいおじさんキャラが

「くっ、、、古傷が痛みやがる」

何かとつけてはこのセリフを吐くのだ。

壮絶だったであろう過去や出来事をこちらに想起させる言葉“古傷”。

古傷と言うハンデを背負いつつ今を懸命に生きるその姿勢。

なんともかっこいいと思えてしまう。

実は、私もたまに“古傷が痛む”のだ。
しかし、前述した意味合いのかっこいい古傷ではなく、痛む度に自分の情けない過去に毎度悶絶している。

私の古傷は右拳にある。
17歳、当時高校二年生の時にできたものである。

三つ歳の離れた弟との喧嘩でできた傷。
当時はお互いに絶賛反抗期で、なんとも折り合いが悪く、何かとつけては喧嘩をしていた。

当時の喧嘩の原因も今はもう思い出せないが、どうせくだらないことだったに違いない。

舞台は弟の部屋、弟は自分を慰める為に使用したティッシュの塊をなぜか捨てずにベッドの脇に一つずつ並べていた。

これも当時弟を毛嫌いしていた要因の一つだった。

そんなイカ臭い部屋で、いつも弟と戦っていた。

ティーンエイジャーで三年の差は非常に大きい。

ほぼ大人と子供の戦いである。

私は成長期を終えていたのだ。

小学生からやっていたバスケットボールの恩恵で、弟より体格も筋肉量も大きく勝っていた。

弟は中学からバレーボールをはじめていて、運動の習慣はあったがまだまだ発展途上、私が負けるはずがなかった。

しかし、結論から言うと負けてしまった。
圧倒的な大敗北である。

先制の攻撃は私から。

右肘を締め、左腕で鋭くジャブを放った。

私は当時、「ホーリーランド(ストリートファイトを題材にしたボクシング漫画)」にハマっていた。

これが良くなかった。

中途半端なボクシングの知識を携えて、弟との喧嘩に臨んだのだ。

ジャブ、ジャブ。
まずは様子見。

弟はいつもと違う戦い方に困惑していた。

そして弟が反撃に出たその瞬間、必殺のカウンターパンチを右肩に当ててやろう。
そんな魂胆だった。

弟の顔にパンチを放つなんて危ないことはしない、出来なかった。
そこまでの憎しみはなかったのだ。

ただ、弟よ、お前にはこの右拳で肩パン一発。

兄の力を知り、これからは存分に弟として立場を弁え、この私にひれ伏すが良い。

そんな心情で放った右のカウンターパンチだった。

ーーーピキッ

弟の左肩に当たった瞬間、私の拳から異音がした。

よくない音、人差し指と親指付近の骨にそれぞれヒビが入ったのだ。

一泊遅れて痛みがやってきた。
痛みで悶絶した。

そして殺気を感じた。

そんな状態の私に、弟は容赦なく顔面めがけてパンチを放ってきたのだ。

憎しみがこもっていた。

これはヤバい、当たるわけにはいかないと咄嗟に避けようとした。

が、避けられなかった。

弟の放ったパンチは私の顎先に衝撃を与え、脳を揺らした。

視界が一瞬真っ暗になり、白い打ち上げ花火が光ったようにチカチカしていた。

弟はお構いなしに、次は腹を攻め立ててきた。
ダメージを吸収しきれず、息が出来なくなった。

このままではヤバい、と思った私はなんとか弟から撤退した。

弟は追いかけてこず、部屋の中から何かを叫んでいた。

右拳のヒビは病院へ行かず、放置した。
親には弟と喧嘩して負けてできたヒビだなんて、到底言えなかったのだ。

それ以降、弟と喧嘩をすることはなくなった。

それ以降、弟は明らかに私を見下したように話すようになった。

ことあるごとに、「でもお前おれに喧嘩で負けたじゃん」と言ってくるのだ。

私の兄としての威厳はなくなってしまった。

兄として、弟を男としてステップアップさせることができたのだ。

逆に兄として誇らしいことではないか。

どうにか自分を納得させた。

私にとっての古傷は、そんな情けないものなのである。

来月、私は地元へ遊びに帰る予定がある。
弟のいる地元だ。

弟に会うことを考えると、毎度このセリフが頭に流れる。

「くっ、、、古傷が痛みやがる」

おわり。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?