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Intel iMac 5K RetinaからMac Studioに乗り換えるまで(移行編)

本記事は実際にIntel iMacからMac Studioに環境を移行してみて直面した問題、解決したこと、未解決の問題等を纏めたものです。移行に際し行った調査、準備については準備編の記事をご覧下さい。

認識されないディスプレイ

よーし旧環境から移行するぞと意気揚々とMac Studioの電源を入れるもディスプレイには何も表示されず…。USB-Cケーブル1本で映像とデータを両方やり取りしようとしていてMac Studio前面に挿していたのですが、背面側のTBポートに差し直すとすんなり認識しました。

前面の端子がTB4になっているのはM2 Ultraモデルのみなのでご注意下さい。

Retinaは偉大だった

新環境のディスプレイは27インチのQHD(2560x1440)にしたのですが、思ったよりも文字がひどく滲んで読みづらいです。ディスプレイまでは約1mの距離を取っています。iMacのRetinaに慣れ親しんだ人であればもしかしたらLGのUltraFine 5KやAppleのStudio Displayにしないとストレスを抱えるかもしれません。自宅の庭を掘って石油が出るのを待ちましょう。

QHDはドットがはっきり見える。「書類」のような複雑な漢字は滲む。
Retinaは細かい字でも潰れない

ただ僕は視力が右1.5左1.2ほどあるため、見えすぎているだけかもしれません。

繋がらないTime Machine

旧環境のデータはNASのTime Machineに全部置いてあったのですがそのNASのTime Machineがうんともすんとも反応せず、仕方がないので旧マシンを隣で起動してPeer to peerでデータを移行することに。

旧マシンのUtility > Migration Assistantを開けばデータを送れます。ちなみに旧マシンは2TB SSDだったのですが全データを移行したらそれだけで半日かかりました。

拒まれるGoogleキーボード入力

まず最初にApple IDのパスワードの入力を求められたのですが、キーボードが何をやっても反応しません。

正確にはCommandやSpace、Tabなどは反応するのでIMEの問題かと思いキーボードセッティングをApple純正の入力に切り替えたら無事文字が打てるようになりました。

Google入力を削除、再インストールしてもどうにも使えなかったのですが、その後10時間ほど放置して再び触ってみたら何故か使えるようになっていました。

立ちはだかるセキュリティの壁

VenturaのSystem PreferenceはiPhoneやiPadのような見た目に変わっていて最初は面食らうと思いますが、Privacy & SecurityからSystem Extensionsを有効にする項目を見つけることが出来ます。

一旦シャットダウン > 電源ボタン長押し > Optionを選択 > Continue > メニューバーのUtility > Startup Utilityから外部エクステンションを許可という手順を踏めば解決出来ます。Apple製品は年々セキュリティが強固になっていきますね。

Universal AudioのApolloが認識されなくて焦ったのですが、UADのバージョンが若干古かったのか、最新にしてMacとApolloを再起動したら無事認識されました。何かしらをインストールする度にSystem Extensions関連が大騒ぎしますが慌てず騒がずAllowしていきます。

Apolloに限らずですが、Venturaは何をインストール/アンインストールするにも必ずOSが許可を求めてきます。Montereyを触ってる時よりも一層監視が厳しい気がします。

いざ、DAWを起動

折角なのでApple Siliconモードでどこまで動くか確認していきます。NuendoをApple Siliconで起動すると膨大な時間のプラグインスキャンが行われ大量のプラグインがBlocklist送りになりました。慌てずに最新バージョンにアップデートしていきます。

ここは人それぞれですが、僕の環境でApple Siliconに移行していないクリティカルなソフトウェアは

  • Vienna Ensemble Pro 7

  • UAD DSP(VST3以外は対応、ただしNuendoがVST2切り捨て)

  • Source-Nexus 1.3

  • Empirical Labs Arousor(3.2ベータで対応済)

  • Neural DSP Darkglass Ultra(その他一部のNeural DSPプラグイン)

  • ADPTR MetricAB

でした。細かいものだと他にも色々ありますが、いずれなんとかなるでしょう。気づいたものがあれば追記しようと思います。KONTAKTは7だけでなく6からでもApple Silicon対応でした。あとMASSIVEが対応していたのもちょっとびっくり。

ちなみにRosetta 2で起動すると今のところVEProを除いて問題なく動いています。ただ、M2 + Venturaに変わって以来どうSystem Preferencesを弄ってもホストDAWをVEPro側から再生/停止出来なくなりました。(M1 + MontereyではRosettaで上手くいっていました)

VSTやAUでは既にAS対応しているものでもAAXのみ未対応というものが少なくないため、Pro Toolsユーザーは要注意かなと思いました。

またこれはプラグイン関連ではないのですが、Stream Deckのプロファイルの表示がよく分からない崩れ方をしたり、仮想MIDIケーブルが外れてしまったのを全部つなぎ直したのは中々に面倒でした。

オーソライズ、オーソライズ、オーソライズ…

完全に前の環境のプロジェクトを動作させるにはプラグインのオーソライズが必要になります。こういう時はiLokでのライセンス管理の移行の楽さを実感しますが、マシンオーソライズにしていると"旧環境で"iLok License Managerを開いてdeactivateしなければならないので要注意です。

他社のマシンオーソライズ系も片っ端からやり直していくことになります。ちょっと手間取ったのがIK MULTIMEDIAでした。

再オーソライズしてもT-RackS 5だけ「オーソライズされてへんで」と言われたのですが、Custom Shopを起動してRestore Purchaseすることで認識されました。

実際に速くなったのか

正直びっくりするほど快適です。

DaVinci Resolve

旧環境ではキャッシュ無しでは単純にプレビューすることもままならず、トランジションやテロップを仕込もうものなら激しいコマ落ちを引き起こし心眼で編集するしかなかったのですが、M2 Maxだとヌルヌル動きます。

Topaz Video AI

4Kへのアップスケールのプリセットを使った際の変換の処理速度(fps)は下記のようになりました。

  • M1 MacBook Air (mid 2020): 1.9fps前後

  • M2 Max Mac Studio: 6.4fps前後

Intel iMac (mid 2019)の頃はM1 MacBook Airの半分〜60%ほどの速度だったので、それと比べるとおよそ5倍速と考えて良さそうです。

Nuendo

旧環境でバッファサイズ1024で75~90%くらいで動いていた約80トラックのミキシングセッションが、新環境だとRosetta 2で起動してバッファサイズ32でドロップアウト無く動作します。

バッファサイズは32

ちなみにこんなこともあろうかとApple Silicon対応済プラグインだけでミックスしておいたので、Apple Siliconモードでの負荷も並べておきます。

こちらもバッファサイズは32

ほんまか??

また、旧環境ではどうやっても動かずステム書き出しを多用して乗り越えたこの曲のミックスセッション(280トラック)を試しに開いてみたらバッファサイズ192まで下げても安定動作しました。

一方、サンプルを沢山使った制作用テンプレを使うとストレージからのストリーミングの能力がやはりボトルネックになるようです。これまでは重量級のサンプルを外部のWinサーバーマシンやMacBook Airに委ねていたのですが、試しにストリングス類をMac Studioに接続したTB3 SSDにコピーしてWinサーバーと鳴らし比べてみたところ、下記の設定が「全パート一斉にレガートランをしてもドロップアウトが起きない限界」でした。

使用したサンプル

  • Spitfire Studio Strings(マイクポジションx4)

  • Abbey Road Two(マイクポジションx1)

Mac Studioで完結させる場合

  • Nuendoのバッファサイズ: 192

  • VEProのBuffer: 3

  • VEPro上のレイテンシ表記: 12.0ms

  • 使用ストレージ: TB3接続のNVMe SSD(実測2.0GB/s程度)

Winサーバーを使う場合

  • Nuendoのバッファサイズ: 768

  • VEProのBuffer: 3

  • VEPro上のレイテンシ表記: 48.0ms

  • 使用ストレージ: 内蔵NVMe SSD RAID(公称6.6GB/s)

Mac - Win間は1Gbpsの有線接続ですが、こうして比べるとLAN内であってもマシンを跨ぐとそれだけでかなりパフォーマンスが落ちるのを感じます。スループットだけではなくレイテンシーも肝になるんだなと。

今後はなるべく一台完結にした方が動作も軽くて電気代も節約出来て良さそうです。VEProがAS対応するタイミングがちょうど良い機会かもしれません。テンプレやサンプルの移行が面倒過ぎてそう簡単に上手くはいかないんですけどね。

と言いつつもう少しテンプレをパフォーマンス重視になるように最適化してみたところMac Studio完結で

  • Nuendoのバッファサイズ: 128

  • VEProのBuffer: 1

  • VEPro上のレイテンシ表記: 2.7ms

くらいまで追い込むことが出来ました。この設定で弦が5パート一斉にドロップアウト無しでレガートランするのは中々壮観です。この最適化はMac + Cubase/Nuendo + VEProに限定される話なのでまたの機会に…。

ただ実際の制作では弦しか鳴らさないなんてことは勿論ないので、もう少しバッファサイズやASIO-Guardにマージンを持たせて制作することにはなりそうです。

OBS

30分ほど配信してみましたがiMacのような発熱やファンの騒音は無く快適でした。

TONEX

Advancedで機械学習させた場合

  • Intel iMac: 約60分

  • M1 MacBook Air: 約90分

  • M2 Max Mac Studio: 約80分

でした。TONEXの機械学習は現状ではApple SiliconのGPUを使ってくれないので特に恩恵は無さそうです。もし使うようになってくれたら10分や20分で終わるようになるんでしょうか。

メモリ容量選びは慎重に

これはIntel時代からそうなのですが、体感でBig Sur、Montereyに上げたあたりからActivity Monitor上でのメモリ使用量が思ったよりもすぐ上がってしまうようになりました。

これまで弦、金管、木管を全てロードしてもRAM 64GBのWinサーバーではせいぜい30〜40GB程度しかRAMを消費しなかったのですが、Mac Studioだと倍近くメモリを使用している印象を受けます。

大事をとって96GBの構成にしたのですが、プリロード量を少なめに設定してもオーケストラ + ドラムくらいまでしかRAMが保たなかったので、本当に完全なる1台完結を目指すのであれば

  • ステレオミックスのパッチだけを使う

  • サンプルのプリロードを限界まで減らす

  • M2 Ultraの128~192GB RAMを選ぶ

といったことを工夫、検討すると良さそうです。とはいえ、Activity Monitorのメモリが黄色くなっても直ぐにマシンが激重になるわけではないのですが。

本体のストレージ容量も慎重に

まだ試していませんが、外付けSSDのサンプルを内蔵に移せばレイテンシー、スループット双方の面で更に快適になるだろうと予想しています。内蔵SSDは単純に読み込みが速い(7.4GB/s)ですし、「読み込んでくれ」という命令を発してから実際にデータが返ってくるまでの待ち時間が外付けより短いとしたらサンプルライブラリを再生する上で有利なのは間違いありません。

Mac Proと違ってMac Studioは内蔵ストレージを後から追加できないので、余裕をもった容量を選ぶのが良いと思います。

スピード以外の恩恵

とにかく静かです。今まではちょっと重いセッションを開いたりビデオ会議をすると本体ファンが激しく回って発熱も騒音も凄まじかったのですが、M2 Maxはうんともすんとも言いませんし熱くもなりません。おかげで空調の必要性が下がりました。心なしか冷房も効きが良いです。

まとめ

Mac Studioに移行した恩恵とリスクをまとめると今のところこんな感じです。

恩恵

  • CPUはとんでもなく速い

  • メモリもとんでもなく速い

  • ストレージも異様に速い

  • 静かで熱くならない

リスク

  • クリティカルなツールがちょいちょい非対応

  • 価格が高い(経費で落とせない)

  • 拡張性が無くスペック選びがシビア

  • 5K Retinaを選ぶとディスプレイも高額

  • 外部機器、ツールがMac Studioの速度に付いてこれず足手まといに

  • 買い控えていると次のmacOSが来る可能性がある

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