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TONEXを「正しく」使う方法

アンプや歪みペダルの音を正確に再現出来るIK MULTIMEDIAのTONEXですが、アンプに直接繋いで弾いた時の音と同じ音で演奏するには一工夫、いや二工夫必要です。

本記事では、ソフトウェアだけでTONEXを使う場合と、ソフトウェア、ペダルの両方で同じ音を出したい場合の2つのケースについてTipsを記述します。

主に自分で機材をキャプチャーする方向けの内容になります。

ソフトウェアだけで使う場合

ソフトウェアだけで使う時に最も難しいのはTone Modelのキャプチャー時に

TONEXへの入力信号と実物のアンプへの入力信号のレベルを揃えること

です。ここが揃わないと、ソフトウェアで弾いた時にゲインが高く/低くなってしまうという結果に繋がります。レベルを揃えるためには次のどちらかを行います。

  • インターフェースの入力ゲインを上げる

  • リアンプボックスのアッテネーションを下げる

しかし、何dB上げ下げすればいいのかを耳だけで判断するのは困難なので、TONEX(オーディオインターフェース)とアンプそれぞれへの入力信号を測定し比較することになります。

アンプの入り口のレベルを推定する

キャプチャー時にアンプの入力段に入る信号はそのままでは測定出来ないので、リアンプボックスを活用します。つまり、次の2つの信号の大小を比較します。

  • オーディオインターフェースにギターを直接接続した信号

  • リアンプボックスを経由してオーディオインターフェースにループバックさせた信号

これはお使いのインターフェースやリアンプボックスによって結果が変わるはずですが、メーターや逆相キャンセル等を使って頑張って探します。リアンプボックスの減衰量は0dBの状態で始めるのが分かりやすくて良いと思います。これによってリアンプボックスの出口(≒アンプの入り口)とオーディオインターフェースの入り口のレベル差が概ね把握出来ます。

※本記事ではTONEX Captureを使っていることを前提に記述していきます。

リアンプボックスから出た信号をオーディオインターフェースのHi-Z入力で捕まえればレベルが測れるというのはやや根拠の薄い理屈なのであまりここの数値は信用し過ぎない方が良いと思います。

テスト信号のレベルを推定する

次は、自分のギターの出力とキャプチャー用テスト信号のレベルを概ね合わせていきます。概ねにしか合わせられないのは、ギターによって出力が大きく異なるからです。

TONEXでキャプチャーをする直前の状態でリアンプボックスをオーディオインターフェースにループバック接続し、TONEXのテスト信号(ギターの演奏の音)を再生してレベルを測定します。

これを自分のギターからインターフェースに直接繋いで弾いた時のドライシグナルと比較して、何となくのレベル差を測ります。これはお使いのギターによって結果が10dBほど違うこともあると思います。自分のどのギターがどれくらいの音量なのか普段から把握しておくのがオススメです。

やってみると分かりますが、テスト信号はかなりホットなので恐らく自分のギターの方が音が小さいと思います。足りない分をインターフェースの入力ゲインで補います。この時にクリップしないように気をつけます。

何故こんなにホットな信号なのかというと、恐らくそうしないとS/N比が悪くなってしまい非演奏時に「サーッ」というノイズが顕著に聴こえてしまうからでしょう。

リアンプボックスのアッテネーション量を決定する

あとはリアンプボックスのアッテネーション量を決めたらキャプチャーが始められます。

仮に±0dB設定のリアンプボックスを通した信号がインターフェースの入力より1.5dB大きかったと仮定し、テスト信号と合わせるためにオーディオインターフェースの入力ゲインを10dB上げたとすると、設定すべきリアンプボックスの減衰量は

(-10) + (-1.5) = -11.5 dB

となります。この設定でTone Modelをキャプチャーした上でインターフェースの入力ゲインを+10dBに設定して演奏すれば、アンプに直接接続して演奏した場合と同じ音になります。

あとは出来上がったTone Modelに対して耳で入力ゲインの微調整を加えてもらえれば、ストレス無く実物に忠実な音で演奏出来ると思います。

ペダルでも同じ音を出したい場合

ペダルの入力感度を基準にする

ここで1つの大きな手がかり(または問題児)が現れます。TONEXペダルです。

折角ならソフトウェアでもペダルでも実機でも同じ音を出したいですよねということで、TONEXペダルでも同じ音を出す方法を考えます。ここで見極めなければならないのは

TONEXペダルの入力感度とオーディオインターフェースの入力感度の差

です。折角ハードウェアという世界中誰もが共通して使える基準を手に入れたので、ここではオーディオインターフェース側の入力感度とTONEXペダルの入力感度が同じになるところまでオーディオインターフェースの入力ゲインを調整するのがオススメです。TONEX Pedalの入力トリムは0dB固定にしておくと考えやすいです。

デフォルトの状態だとTONEX Pedalの入力ゲインはかなり高いので、基本的にはインターフェースの入力も上げる方向の調整になると思います。

リアンプボックスのアッテネーション量を決定する

オーディオインターフェースの入力ゲインをペダル基準で既に決定しているので、ここではテスト信号とのレベル差を考える必要はありません。先程同様の足し算引き算でリアンプボックスのアッテネーション量を決めて下さい。

±0dB設定のリアンプボックスを通した信号がインターフェースの入力より2.5dB大きかったと仮定し、TONEX Pedalの入力と合わせるためにオーディオインターフェースの入力ゲインを13dB上げたとすると、設定すべきリアンプボックスの減衰量は

(-13) + (-2.5) = -15.5 dB

となります。この設定でTone Modelをキャプチャーした上でインターフェースの入力ゲインを+13dBに設定して演奏すれば、アンプに直接接続して演奏した場合と同じ音になります。

この調整が済めば

  • 実機に直接接続した状態

  • ソフトウェア版TONEX

  • ペダル版TONEX

で違いが分からないレベルの同じ音での演奏が楽しめると思います。最後に、

  • オーディオインターフェースの入り口

  • TONEXペダルの入出力

でクリップが生じていないか再確認して下さい。生じていなければ地球上どこででも同じ音での演奏を楽しむ準備はOKです。

何故こんなにややこしいのか

それは

  • キャプチャー時に出力されるテスト信号の大きさ

  • インターフェースの入力とリアンプボックスの出力の音量の関係性

がユーザーの環境に依存するからです。KemperやQuad Cortexであればテスト信号の大きさは必ず全ユーザーで共通ですし、本体への入力とキャプチャーアウトの出力音量の関係も全ての個体で同じなのであんなに簡単にキャプチャーしシェアすることが出来るのです。

そういう意味ではTONEXはキャプチャーをする人にとって今の所かなりチャレンジングなテクノロジーだなと思います。ただし、一度全てのキャリブレーションをとってしまえばストレスはなくなりますし、他のギタリストと全く同じ音で弾くことが出来ている安心感も得られるので手間をかける価値はあると思います。

キャプチャーをしないギタリストへのアドバイス

もしあなたが自分の機材をキャプチャーすることなくTONEXを使うのであればもっと話は簡単で、入力をクリップさせないという鉄則だけを守って自由に音作りして下さい。

何故なら、他人の作ったTone Modelを使う際に実際にその機材に自分のギターを繋いで鳴らした音を再現するのは難しいからです。なので、頭を柔軟にして純粋に良い音にすることだけを意識して音作りして下さい。

一点だけ気をつけて欲しいのが、TONEX(KemperやQuad Cortexも含む)のEQはアンプ内部回路のEQではなく、アンプ+キャビの前後に配置するEQだということです。言い換えればDAWで録音したデータに後でEQをかけたり、アンプの前段にイコライザーのペダルを置くのと同じです。つまり、アンプそのもののEQの挙動を後から再現、制御することは出来ないということです。

今後(2023年3月9日以降)ViViXからシェアするTone Modelは全て上記のキャリブレーションを行った上でキャプチャしていきます。TONEX Pedalを使用される場合はTRIM INを0dBに設定(デフォルト状態)して頂ければ私の持っているアンプに直接ギターを繋いだ時と大体同じ音になります。


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