tsubuyaki


夜もすがら音楽を聴きながら語る久々に会った二人−−−−−の横で寝袋に顔を埋める私。
目が覚めてしまい眠ろうと試みるが、話し声というより音が気になって眠れない。聴覚過敏とまでは言わないが、耳に侵入してくる音でストレスを感じやすい体質なので、入眠は困難だった。



ふと、細い線のような声が聴こえてきた。


その音はライブ映像で、ボーカルは泥酔し、チューニングの合わないギターを弾いている…ようだった。話している内容を聞いているだけなので、詳しいことはわからない。でも、その消えそうな歌声は確かにヘロヘロだった。息苦しい音だ、心臓の辺りがグラグラし、息をしづらくなってきている。




綱渡りだ、ふとそう思った。目を瞑って暗い部屋で聴くその音は、今、目の前で、人が死ぬかもしれない、けれど、私にはなんにも、できない。そんな状況にものすごく似ていた。命の綱を渡る彼、綺麗事や自己満足の言葉が枯れて、最早何も言えない、彼が綱から落ちても私はどうすることも出来ない。だからって、そこから立ち去ることも出来ない。事の顛末を、彼が生還する瞬間を見て安堵したいという気持ちで釘付けになって見ている。足元が暗い。照明の関係でなく、黒い煙のような何かが這っているからだ。私は幽霊じゃないのに、自分の足を視認できない。ぐらつく。彼の口元とアコースティックギターのボディだけ、オレンジ色に照らされている。乱用にて正気じゃない状態に自ら陥ることが幾多とあったであろう彼の、その一部始終を見ている。ストロングゼロで現実をふやかして歌っているその先にあるのは明日なのか、崖なのか。本当に俺の血は赤いんだろうか。



ポリエステルが私の呼吸を邪魔する。



オー、ダニー・ボーイ。どうか歌ってくれないか






ある意味すごく良い音だったのに、こころに残っているひどく重いこの闇を忘れたくなくて、改めてYoutubeで観られない。


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