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京都大賞典 回顧~偶然ではない復活劇~

概要

2:24.7(37.2-36.4) ペース:S
12.7 - 11.9 - 12.6 - 12.5 - 11.9 - 11.5 - 11.5 - 11.8 - 11.7 - 11.6 - 11.8 - 13.0
5~11F目まで11秒台が続く底力勝負。上がり最速もディアマンミノル(4着)の35.9、とかなり遅め。内枠からベレヌスが逃げを打つと、序盤はスローペースで展開。1000m近くからペースを上げるとそこから終盤まで全く緩まずに展開した。直線入り口でベレヌスを交わしてキセキが先頭に立つとそのまま押し切りを図るが、外からじわじわとアリストテレスが差を詰める。ゴール前まで2頭の激しい競り合いが続くが、その後ろからマカヒキが忍び寄る。苦しくなったキセキを交わした内のアリストテレスだったが、そこに外からマカヒキが猛追。僅かに外のマカヒキが接戦を制し、自身約5年1ヶ月ぶりの勝利を果たした。8歳8か月での重賞勝利はディープインパクト産駒の最高齢重賞勝利記録を更新する見事な復活劇だった。

レース展開

序盤

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スタート直後で好発を決めたベレヌス(黒)が2馬身ほどのリードを取っています。ステイフーリッシュ(赤)はそこそこの位置を、ダンビュライト(黄)は逃げの手もあったでしょうがここで妥協して外の2番手を取りに行っています。(やはり画像を使うととても分かりやすくて良いです。)

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そこに出負けしたキセキが押して前を狙いますが、コーナーの入りでダンビュライトの外に落ち着いています。アリストテレスも行きたがっていましたがミルコJが抑えます。この時点で既に隊列は確定します。そのため序盤はスローペースに落ち着きました。キセキは騎手によって競馬のスタイルが分かれる馬なのですが和田Jは先行策を選んでいますね。個人的には差しのキセキをもう一度見たいのですが……。

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ちなみに、この後コーナーの入りでダンビュライト(黄)が内に切れ込むのですが、ここで半馬身ほど内にいたステイフーリッシュ(赤)を押し込む形でその内にいたヒュミドール(青)とアイアンバローズ(白)を弾いてしまいました。ここで大きく頭を上げているのがアイアンバローズです。ドミノ倒し的に連鎖してこうなってしまったのでこれは可哀想ですね……。

中盤以降

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中盤以降も隊列はほぼ変わっていません。変わったとしてもヒュミドールが一列分ポジションを下げたところでアイアンバローズも同様に一列分後ろに下げざるを得なくなっただけです。向正面に入るとベレヌスがペースを上げました。写真でもわかる通り、この半馬身後ろで外に控えているダンビュライトが圧を加えています。どちらかと言えば圧を加えられる前に斎藤新Jが勝手にペースを吊り上げたように感じますが……結果的にプレッシャーのかかる逃げになってしまいました。意味ないですよね。

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残り1000mをまもなく迎えるところですが、この辺りで各馬の手が動き始めます。そしてマカヒキ(黄)はこの時点でガンガン追い始めています。近年のマカヒキは今回のような底力が求められる競馬になると台頭しますが、それ以外ではキレ負けを起こしてしまいます。歳を重ねてズブさがますます酷くなってしまった現在、この乗り方は最良に間違いなく近いと言えるでしょう。

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画像の大きさが少し変なのはこのフレームを取りたかったからです。4コーナーのカーブでは殆どの馬がスパートをかけています。この図で顕著なのは前を走るキセキ(橙)とマカヒキ(後黄)でしょう。この2頭は「切れ味勝負ではかなり分が悪いが底力の試されるロングスパート勝負なら得意」という特徴でかなり類似しています。ここでの2頭のアクションは全くと言っていいほど同じで、片や早め先頭を狙うもの、片や鞭を打って手綱をしごいて前を追うものという構図になっています。ここで大外を回されている2番人気ヒートオンビートはかなり苦しい競馬になってしまいました。こういう展開ではなるべく動かず、前が止まったところを自慢の末脚で出し抜くような競馬が理想なだけに自分から負荷をかけて外々を押し上げる形は不本意です。大外を引いた宿命でしょうか。

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既に4角で手が動いていたベレヌスは早々に一杯になってしまいましたが、その真後ろに続いたダンビュライトもお釣りが残っていません。好位でじっとしていたアリストテレスのミルコJはここで外に持ち出しています。今日はパーフェクト連対のミルコJでしたが、今週は追い出しを待たせる意識が全日で強かったと思います。これが功を奏した形だと言えるでしょう、ここでもタイミングは完璧です。後方ではオセアグレイトも外に持ち出しているのですが、これは4角で詰まったのを打開するためです。あまりスムーズな競馬とは言えませんね。

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坂の上りでキセキが先頭に立ちます。これに外から迫るアリストテレスとヒートオンビート。マカヒキはこの内にいます。勝負の分かれ目となるのはこの後で、まずはヒュミドールがステイフーリッシュ(前赤)とマカヒキ(後黄)の間を割ってこようと狭いところを突きます。が、画像でお分かりのように2頭に挟まれてしまいます。ヒュミドールはこの後外に進路を求めますが後述の影響でそこもあまりスペースがなく、結局は伸びきれませんでした。序盤の立ち回りといい、直線の進路選択といい、全てにおいてスムーズさを欠いてしまいましたね……。

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そして、この後アリストテレスはマカヒキの進路を潰しに内に切れ込みます。これはアリストテレス自体が競り合いで力を発揮するという自身の特性も踏まえての判断だと言えます。そしてこれは成功しました。マカヒキには一度下がり、後退気味のステイフーリッシュを避けて外に持ち出すロスが生まれます。この外の後ろにいた馬は若干煽りを食らう形になり、またしてもヒュミドールは被害を受けてしまいます。

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この時点でアリストテレスはほぼ勝ちに近い状態だったのではないでしょうか。完璧なタイミングの追い出し、マカヒキの進路カット、そして競り合いにも勝ち、あとは凌ぎきるだけです。

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最後の最後にマカヒキが前を交わせたのはやはり執念に似た何かなのでしょう。ダービー馬に輝き、世代の頂点に輝いてから5年。凱旋門賞制覇の夢を見たあの3歳の頃から5年。既に若い頃の切れ味は鳴りを潜め、近走は二桁着順も多くなってしまったマカヒキ。走るたびに「まだ走っていたんだ」「もう引退させてあげてくれ」と囁かれていた彼に最後の一押しを与えたのは、そんな自身の意地だったのでしょう。終いに見せた伸びは在りし日のマカヒキの豪脚そのものです。
諦めなければ必ずしも結果が出るわけではないことは既に数々の名馬が証明している限りです。この馬の2つ上にあたるダービー馬ワンアンドオンリーも、神戸新聞杯の勝利を最後に6歳まで現役を続けましたが勝ち星を掴むことはできませんでした。しかし、諦めなければ今日のような結果が残せることだってあります。挑戦し続けることの意味を、マカヒキが改めて教えてくれたような気がしました。これだから競馬は最高なんですよ。

回顧

・1着マカヒキ…底力勝負ならまだ戦えることを証明する一戦です。前が早めに動いたこともあり、ポジションも絶好の位置でした。最後は13.0と急激にラップが落ちたのも良かったです。
・2着アリストテレス…春は折り合いを欠く競馬が続きましたが今日はしっかりと折り合えていましたし、馬群の中でじっと我慢して追い出しも完璧でした。3冠馬をあと一歩まで追い詰めた菊花賞、初重賞のAJCC同様に底力勝負は向いていましたが外のマカヒキの伸びが一枚上でしたね。
・3着キセキ…終始強引に運んだツケが最後に伸びなかった要因そのものです。自身も底力勝負は得意なタイプで、このような条件なら勝利は近いはずで、今日は立ち回りの雑さが結果に直結してしまいました。そもそも器用な競馬ができていればここまで勝てない馬ではないでしょう。
・4着ディアマンミノル、5着ロードマイウェイ…前が止まったところで余裕があった分差を詰めてきたと言えるでしょう。特にロードマイウェイは近年底力方面にシフトしている印象があります。アドマイヤジャスタもそうなのですが、不振に陥っているジャスタウェイ産駒はスパートで速い脚が使えなくなるのが原因だと推察します。
6着オセアグレイト…4角で少し追い出しを待たされたのが痛かったです。そこがスムーズなら3着まで際どかったと考えています
・8着ヒートオンビート
…外から早めに追い上げるのが不本意な形なのは間違いありません。大外枠から外のポジションを取らざるを得なかった時点で今日の展開では苦しいです。
・10着ヒュミドール…底力勝負は適性に合致していましたがやはり不利が大きく影響しています。着順以上に濃い内容で、巻き返しは近いうちに来ると思います。
・12着アイアンバローズ…1コーナーの不利で終わってしまいました。今回は度外視できる結果です。
・13着モズベッロ…底力勝負は得意なのですが、有馬記念同様全体が速めに巡行すると苦しくなる馬で、そもそも中盤から11秒台が連続する今日のラップはこの馬にとって厳しかったのではないでしょうか。

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