ハリファイバーの消失 ~YPはなぜハリ禁止を許せないのか~
※本記事は筆者の個人的な考察から書かれています。予めご了承ください。
ハリファイバーが死んだ。
2022/7/1施行のリミットレギュレーションにて《水晶機巧-ハリファイバー》が禁止になる旨が6/12に発表となった。
個人的には、別れを惜しむ気持ちもありつつ「やっと禁止になってくれた」という気持ちが大きい。ハリファイバーにはさんざんお世話になったし感謝もしているが、デッキの多様性を奪っていたという点において「いつ禁止になってもおかしくない」とは思っていた。
しかし巷ではハリファイバー禁止に怒りの声を上げる人ばかり。「KONAMIはプレイヤーの気持ちを分かってない」とか「どれだけのデッキが人権を奪われると思っているんだ」とか「何で今更禁止にするんだ」とか。
何故プレイヤーたちはそこまで怒っているのか。今回の制限改定、何がいけなかったのだろうか。今回はこの件について個人的な考えを纏めたので記事にしたいと思う。
1.ハリファイバーの歩みを振り返ってみる
《水晶機巧-ハリファイバー》は2017年11月に発売された「LINK VRAINS PACK」で初登場した。当時は10期初期で新マスタールールが施行されてからまだ間もなかったということで融合・シンクロ・エクシーズを主体としたテーマデッキは大きな弱体化を受けていたが、そうした状況に一石を投じたのが「LINK VRAINS PACK」だった。既存テーマに新たなリンクモンスターを与え、強化して新ルールでも楽しく遊べるために考案されたセットだった。新規も再録もそれなりに良かったが、この中でも頭一つ抜けていた存在がハリファイバーだった。
ハリファイバーは「チューナー1体以上を含むモンスター2体」という比較的緩い条件で出せるリンクモンスターであり、マーカーも右下・左下と更なる展開を狙う上では使いやすく、何よりデッキからレベル3以下の好きなチューナーをリクルートすることができ、更に相手ターンにEXデッキのシンクロチューナーに変身することもできる…やれること多すぎない?
一度場に出せば好きなチューナーをリクルートできるだけでなく、マーカー2つの先にEXデッキのモンスターを展開可能、更にEXデッキから追加でチューナーを供給可能と、シンクロ召喚を主体としてきたデッキにとっては願ったり叶ったりな1枚だった。しかし強すぎたことが災いし、様々なカードとの組み合わせで環境を高速化させる一因となった。
単純な話、リクルートしたチューナーと合わせて簡単にLink-3モンスターになることができたのが問題だった。当時のトーナメントシーンを正確に覚えているワケではないが、まだ制限カードだった《グローアップ・バルブ》を呼び適当なLink-3になったあと、バルブ自身の蘇生能力からLink-4まで繋がるのが問題だったし、そのLink-4筆頭であった《ファイアウォール・ドラゴン》(エラッタ前)も問題だった。
(コイツも当時大問題になり禁止にまでなった)
とにかく能力の拡張性が高すぎて「人権カード」的な扱いを受けており、シングル価格が2000~3000円に到達するほどの人気となった。後に2019/1~のリミットレギュレーションで制限カード指定を受けシングル価格は若干下降したものの、再録されるまで2000円前後の価格をキープしていたことからもその強さは疑う余地はないだろう。
2.何故みんなハリファイバー禁止に怒っているのか?
私見ではあるが、Twitter等で見る限りハリファイバー禁止に怒っている人の大半はいわゆる「カジュアル勢」であると思う。トーナメントで優勝を目指し、日々環境について研究・考察しデッキの調整を行う「ガチ勢」とは違い、好きなデッキで楽しみながら勝つことを目指すライト層のプレイヤー達である。
ここ数年のコロナウイルスの流行で実店舗での大会が少なくなり、リモートでの対戦を行う機会も増えた。個人同士でのやり取りもあれば、多人数で集まっての対戦を行う「交流会」の開催も盛んである。そうしたカジュアル勢にとって楽しくデュエルをできる土壌が整ったというのも一因としてはあるだろう。カジュアル勢からしたら「わざわざショップまで行って大会に出て、ガチ勢に当たって何もできないまま負ける」といったフラストレーションが溜まる要因がなく、ただ楽しく対戦ができるのだからそっちの方が良いだろう。そのせいか、カジュアル勢の人口は体感的に増えているように感じる。その影響から、相対的に「ハリファイバー禁止に怒る人」の割合が多いように感じるのだろう。
では、カジュアル勢が今回の禁止に怒っているのは何故か?
それは「所持デッキのデッキパワー低下」に繋がるだからではないかと考えている。
例として、TG(テックジーナス)というテーマの話を挙げよう。
このテーマはアニメ出身で、3体のシンクロモンスターを使用してシンクロ召喚される《TG ハルバード・キャノン》をフィニッシャーとしている。しかし10期当時のマスタールールでこのカードを出すには、召喚条件である「シンクロモンスターのチューナー+チューナー以外のシンクロモンスター2体以上」を場に揃えるのはかなり難しかった。何せシンクロモンスター3体を揃えるだけでも大変なのに、シンクロモンスターの展開にリンクマーカーが3つ自陣側に向いたリンクモンスターまで必要となる。
だがTGは10期で新規である《TG トライデント・ランチャー》を得た。
このカードは自陣側にリンクマーカーが3つ向いているだけでなく、召喚時の効果でTGを大量展開できる。その上、リンク先のTGに対する耐性付与まであるのだからTG使いとしては理想の新規だっただろう。そしてこのカード、ハリファイバーとの相性がめちゃくちゃ良いのだ。
TGのテーマ内のカードだけではLink-3であるトライデント・ランチャーを出すのは少々難しかったが、適当なTGチューナーと《TG ワーウルフ》さえ手札に揃えば、その2枚からハリファイバーを出すことができ(他の展開パターンもある)ハリファイバーがリクルートしてくるTGチューナーとハリファイバーの2体でトライデント・ランチャーのリンク召喚へ繋がり、そこからの大量展開でそのままハルバード・キャノンに繋げることができた。
この例からわかるのは、ハリファイバー1枚のおかげで「適当な組み合わせ」の「手札2枚」から「必要な特定カードをリクルートできる」ということだ。つまり「手札の消費を抑えつつ」「再現性の高い展開が可能」「かつリソースを増やすことができる」ということである。今回はTGを例に挙げたが、これは他の幾つかのテーマにも当てはまる。
そしてこれにより与えられる恩恵として「テーマ格差の補完」「テーマ純構築のハードル低下」の2点が挙げられるだろう。
「テーマ格差の補完」は言わずもがな、デッキパワーが底上げされることによるテーマ毎のデッキパワー格差の補完である。先ほどのTGの例で言えば、ハリファイバーのおかげで通常なら手札3枚を消費して召喚しなければならないトライデント・ランチャーが手札2枚から展開可能となり、フィニッシャーまで繋げることができる。遊戯王におけるデッキパワーは「必要な初動札の枚数」がある程度の基準になっていることから、手札2枚=ハリファイバーから理想盤面へ繋げられる展開が可能になるデッキはそれだけでデッキパワーが底上げされ、多くのデッキと対等に戦えるようになっていったのだろう。
「テーマ純構築のハードル低下」について。テーマデッキを組むプレイヤーは少なからずテーマ純構築(テーマ外のカードを極力減らす、ないし0にする構築)を目指しているだろう。これについてもハリファイバーは貢献している。例えばTGの例を見るとTGチューナー+ワーウルフからハリファイバーになり、リクルートしたTGチューナーと合わせてトライデント・ランチャーを召喚。とハリファイバー以外はTGカードだけで展開が完結する。特定カードをピンポイントでリクルートできる能力からテーマ外の余計なカードを入れる枠を削り、EXデッキ1枚の枠だけで納められるのは純構築を望むプレイヤーからすれば願ったり叶ったりだっただろう。
こうした背景から、カジュアル勢がより今回のハリファイバー禁止に非難の声を上げているものと思われる。
(重ねて言うが、これはあくまで筆者の個人的な考察であることをご了承頂きたい)
3.結局ハリファイバーは何がダメだったのか?
正直、大半のプレイヤーは「ハリファイバーはいずれ禁止になるだろう」ということは分かっていた。後述するが、このカードを場に出した時点で完成する最終盤面というのは遊戯王のプレイヤーならばある程度は予想でき、かつそれがハリファイバーの素材である「チューナー1体以上を含むモンスター2体」から成立するのはあまりにも強すぎた。これは半ば周知の事実であり一部のプレイヤーから不満の声が出ていたのも事実。そうした理由からプレイヤーからも「ハリファイバーはいずれ禁止になるだろう」と思われていた。
個人的な話になるが、私は紙の遊戯王で「P.U.N.K.」デッキを組んでいる。このテーマは2022/4/23発売の「POWER OF THE ELEMENTS」で新規カードを2枚獲得しており、元々「デッキビルドパック グランド・クリエイターズ」で初めて登場した際に他のパーツを集めていた私は新規を使ってどんな展開が可能か考えたりネットで調べたりしてみた。その結果が…これである。
《No-P.U.N.K.セアミン》1枚から《水晶機巧-ハリファイバー》→《幻獣機アウローラドン》と経由し、最終的に盤面には《フルール・ド・バロネス》《ヴァレルロード・S・ドラゴン》《超雷龍-サンダー・ドラゴン》が揃う。これが項の最初に言ったハリファイバーから揃う汎用妨害盤面である。魔法・罠・モンスター効果いずれか無効×2とサーチ不可という後攻からすれば「どうすればいいんだ?」と言いたくなるような盤面だ。「P.U.N.K.はどこ行った?」と言いたくなる盤面でもあるが。
※上記とは別展開になるが、《アーティファクト-ダグザ》召喚から効果でデッキの《アーティファクト-デスサイズ》をセットしてハリファイバーを召喚→相手ターンにハリファイバー効果で《TGテックジーナス ワンダー・マジシャン》を召喚しセットされたデスサイズを割って特殊召喚、相手のEXデッキからの特殊召喚を封じつつ2体でバロネスをS召喚する、という荒業もあった。
問題なのは、「P.U.N.K.」デッキに限らずハリファイバーを出せるデッキほぼ全てで(細部が異なる場合は多いものの)同様の展開が再現可能という点だ。この展開に必要なのは「ハリファイバーを出せる」+「メインデッキに《ブンボーグ001》(または《ジェット・シンクロン》)と《幻獣機オライオン》と《ネメシス・コリドー》を採用しておく」という点だけで非常に緩く、どんなデッキでも採用可能である点から多くのデッキに採用された。そして本当の問題は「元となったテーマに関係なく、汎用Sモンスターで封殺盤面を構築できる」という点だ。ハリファイバーからこの盤面に辿り着けるデッキはこれより弱いテーマモンスターを出す意味が薄く、どのテーマでも最終盤面が似たり寄ったりになることから多様性を奪っていたとも言える。
先述したTGデッキですら、ハリファイバーからTGチューナーをリクルートしてトライデント・ランチャーへ…ではなくブンボーグからアウローラドンへ、そしてバロネスとサベージへ…と展開した方が妨害数も増え盤面の総攻撃力も高くなるため、最大限突破され難い盤面を構築したいならこちらのルートを取らない理由はない。
本来ハリファイバーは様々なデッキに可能性を与える拡張性があったと言えるが、元々持つカードパワー故に逆に可能性を否定する存在にもなっていたと言えるだろう。
4.本当にハリは禁止にするべきだったのか?
先に述べておくが、私個人としてはこの禁止は「やるべきだった」と思っている。何なら半年前にやっておくべきだったとすら思う。
ハリファイバー+アウローラドンを用いた展開も『遊戯王マスターデュエル』で多用されていたことから多くのプレイヤーに認知されており、この展開を嫌うプレイヤーも多かったことから禁止となるのは時間の問題だったように思う。
先に述べたように、結果的に全てのデッキの展開の帰結点を似たり寄ったりなものにしていたし面白味がなかったのは事実であり、今後刷られるチューナーモンスターやSモンスターによって更に相対的に強化されることも大いに予想できたので、禁止は妥当だろう…と思う。
禁止を非難する人々の意見もわかる。長年使っていた展開ルートが使えなくなることからデッキが弱体化するのが許せない…それだけ自分のデッキに愛着があるということだろう。だがこれまでも制限・禁止で様々なデッキが弱体化、ないしは消滅したという歴史の上で今の遊戯王というゲームは成り立っている。弱体化したからといってそれほど愛着のあるデッキなら容易に手放したりはしないだろうし、新しい可能性を模索してデッキを更新していって欲しい。
5.最後に
ハリファイバーは2017/11に登場してから約4年半、様々なデッキを支え続けてきた。それだけに影響を受けるデッキも多く、またプレイヤー諸氏もハリファイバーが禁止となることで寂しさを感じることだろう。ただ決まってしまったものはもう変えられない。各プレイヤーはハリファイバーを惜しみつつも自分のデッキの新たな可能性について模索していって欲しいと願う。
余談だが、ハリファイバー+アウローラドンのパッケージの後継者として、《警衛バリケイドベルグ》が注目されており、現在価格高騰中とのこと。緩い条件から出せるLink-2の機械族というのがアウローラドンを出すための条件にマッチしているから…らしいが、自身でモンスター数を水増しできない点から思考停止で代用として投入するのは危険だろう。投入の際はよく考慮して欲しいところだ。
では今回はここまで。
ここまで読んで頂き、ありがとうございました。
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