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なぜ生きるのか、どう生きるのか。:宇久島メガソーラー篇

今週頭、大変複雑なニュースが飛び込んできた。

五島本でも取材した、五島列島最北端の島・宇久に日本一のメガソーラーが着工という報道。

離島を覆う太陽光パネル152万枚 「日本一」のメガソーラー本格着工へ 長崎・宇久島

長崎県の五島列島・宇久島(うくじま)と隣の寺島(いずれも佐世保市)で計画中の国内最大級の大規模太陽光発電所(メガソーラー)が、令和7(2025)年末の運転開始を目指し5月末にも本格着工する。完成すれば両島の面積の1割超は太陽光パネルに覆われる。地元では景観の悪化や土砂崩れの発生を懸念する声も上がっている。

島の1割がパネルで
計画は「宇久島メガソーラーパーク」事業で、京セラや九電工などが計約500億円を出資する事業目的会社「宇久島みらいエネルギー」(同市)が、約1500億円を資金調達して宇久島と寺島にメガソーラーを建設する。

同社によると、両島の面積計約26平方キロの約3割を占める事業用地のうち、約2・8平方キロに太陽光パネル152万1520枚を設置するといい、両島の面積の1割以上がパネルで覆われることになる。

年間発電量は51・5万メガワット時で、一般家庭17万3千世帯分に相当するとし、電力は本土との間に延長約64キロの海底ケーブルを敷設して九州電力へ売電する。住民説明会資料は「日本一の規模を誇る」とうたっている。

公的アセスなし
計画を巡っては、住民団体の全国組織「全国再エネ問題連絡会」と地元住民団体「宇久島の生活を守る会」が2月、県と佐世保市へ公開質問状を提出。「環境面だけでなく防災の観点からも問題がある」として事業の中止を求めている。

出力4万キロワット以上のメガソーラーには令和2年から国の環境影響評価(アセスメント)が義務づけられたが、両島の事業は既に工事計画の届け出が済んでいたため対象外。また県のアセスは太陽光発電所を対象事業としていない。このため、地元市長や知事、環境相の意見を踏まえた経済産業相による勧告の機会がないまま、事業が進められている。

また、事業地のうち0・68平方キロについて同社は4年8月と5年3月、林地開発許可の変更許可申請をしているが、県の審査結果はまだ出ていない。

同社は、自主的に環境影響評価(自主アセス)を行ったとした上で、「反対活動を行っている団体には事業者として引き続き丁寧に対応していく」としている。

工事を担当する九電工によると、昨年11月から本格着工へ向けた住民説明会を始め、既に作業員宿舎や変電施設、寺島の仮設浮桟橋、資材置き場などの整備工事が進んでいる。

同社は「5月末か6月初めには、パネルを置く架台の設置など本格着工の見通し」としている。

初期消火は消火器
同事業はもともと、ドイツの開発会社と京セラ、九電工などが平成26(2014)年に計画を発表したが、2年後にドイツの会社が撤退した。

また両島では風力発電開発の「日本風力開発」(東京)などによる大規模陸上風力発電計画も進行。風車を最大50基(出力最大10万キロワット)建てる計画で、平成26年に環境アセスの第3段階「準備書」が国に提出されている。

同社は昨年、洋上風力発電事業を巡って衆院議員の秋本真利被告=受託収賄罪などで起訴=に多額の資金を提供したとして、前社長が贈賄罪で在宅起訴。同社は準大手ゼネコンの前田建設工業の持ち株会社「インフロニア・ホールディングス」に買収された。

一方、メガソーラーを巡っては今年1月、和歌山県すさみ町の山林火災で太陽光発電所の発電設備が延焼したほか、3月には鹿児島県伊佐市の太陽光発電所で火災が発生、消防隊員4人が負傷するなどした。

太陽光パネルの火災が発生した場合について、宇久島メガソーラーの事業目的会社は「島内に400カ所以上配置される変電設備付属の消火器を使って、50人ほどの保守要員が初期消火するほか、水での消火は感電リスクがゼロではないため、対策を地元消防と協議している」としている。

出典:産経新聞

実は五島本の中でも冒頭で書いたのだが、宇久島は平成の大合併で佐世保市に吸収され、それまで独立した自治体として稼働していた様々なセクションが九州本土の佐世保市管轄に統合されてしまった。

その結果、教育委員会ひとつをとっても本庁の意向なしでは実行の権限も予算も動かせず、島としての意思決定ができない事態が頻発している。

という話を今週はご紹介したい。

宇久島取材で上陸直後に受けた重たい洗礼

五島本の取材は、大きく分けて8つの島を合計10日間で取材してまわるという恐ろしい弾丸ツアーだったのだが、(自分で引いたスケジュールなので文句は言わないが)一度もケンカすることなく全行程をともにしてくれたカメラマンには本当に感謝しかない。

で、もう付き合いの長い間柄なので、だんだん言葉にしなくてもお互いが感じていることがわかるようになってくる。特に取材あるあるは一通り一緒に経験してきているので、このときも、二人の脳内はファーストコンタクトから一致していた。

別の島の取材に遊び半分でついてきてしまったがゆえに、
ヘロヘロになりながらスタッフが撮ってくれた
俺達のSENAKA!
ちなみにここからのカットが、五島本の表紙になった。
というか、した!

前日と当日の小値賀島での取材を終え(ちなみに小値賀は宇久のすぐ南の島)、フェリーでのぼって宇久島に着いてまずは宿にチェックイン。もともと半日コースだったため、島で見ておくべきポイントを聞いてからぐるっと周回しようと、カメラマンとふたり、軽い気持ちで新聞を読んでいるおじさんに声をかけた。

「何の取材ね?観光ね?」
無愛想に顔を上げたおじさんは、宿のオーナーだった。
まずい。これはいきなり大物を釣ってしまった、と我々は思ったのだが、After the Festival。

立ち上がったオーナーは、喫茶コーナーに我々を招き、コーヒーをいれてくれた。
時は14時。そして翌朝4時にはフェリーに乗って次の島へ向かわねばならない。日がのぼっている間に島をまわり、名物のレンコ鯛をメインとする夕食をきちんといただいて早めに就寝、朝3時には起きないとMAZUIという強行スケジュールなので、1分でも時間は惜しい。

こちらが実食したレンコ鯛。
昭和の結婚式で、引き出物に入っていた鯛のお頭は、
その多くがここ宇久島で水揚げされたレンコ鯛だった。

しかし、ここでそのようなそぶりを見せようものなら、その後の時間すべてをロストすることを我々は野生と長年の勘で察知した。

うながされたソファに座り、吉凶やいかに、と取材趣旨を説明。
数秒、間を置いて、オーナーは語りはじめた。

「まわってもらったらわかると思うけど、この島には観光のための看板がほとんどない(その理由は、冒頭の権限が本庁に移行したためというくだりに戻る)。あんたたちがどこを見るかは任せるけど、台風やらで風力発電がダメになって(この当時は計画そのものが上記産経の記事にもある事件などの影響で暗礁に乗り上げていた)、相変わらず松浦(九州本土にある長崎県松浦市)からの火力発電頼み。
(おそらく、オーナーは発電事業くらいしかもう生き残る術がないのに、と言いたかったのだと解している)

オレはもともと島の人間じゃなかけど、嫁がここが地元やもんでこっちに来たんよ。ただ、福岡市内にも店ばもっとると(聞けばフリーランスの事務所のすぐ近所だった)。
あと、●●耳鼻科わかる?(これがまたなんと、後藤の自宅のすぐ近所のでっかい耳鼻科だった)あそこの院長は、島内じゃ仕事がない若い子を看護師として採用しよる。

なにが言いたいかって、この島は、もう島の人間だけじゃどうしょうも再生できん。あんたたち福岡とか、都会の人が一緒になって盛り上げてくれんと」。

我々のなかで、「あ、これは凶ではなく吉だ」と心が動く。
まぁ正直、自然環境に勝てなかった凶事はあれど、我々はそれ以外では割と吉事にめぐりあってきた。というか、そもそも取材とはそういうものだったりする。
(「こいつらにはちゃんと話してもいいか」と思ってもらえる空気を早めに出しているのだ、ということにしておいていただけたらと)

さて、ここで、我々が受けたミッションが観光本としてのオーダーであれば、この時間は正直あまり益にはしにくい。
しかし、今回我々が背負っているお題目は、「列島のあらましを拾ってくること」。
これ以上のあらましは、このあと自力で島内をめぐってもないように思った。

一度もクロージングをかけることなく、オーナーに想いの丈を語ってもらうこと30分。
御礼を言ってコーヒーを飲み干し、我々は重たい足取りで、しかし「だからこそ、自分の目で見なければ」という重責感を携えて、その後の取材を遂行した。

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