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ビヨンセ、デコトラ、パチンコ

あのビヨンセがタワレコ渋谷に来たらしい。

たしかに昨日の夜、「JAY-Zが日本のクラブにいた」「ビヨンセも一緒なんじゃないか」という目撃情報と推測が、タイムラインに流れてきていた気がする。

そしたら昨日の今日で、タワレコ渋谷とソニーミュージックのTwitterアカウントから、「緊急決定」と銘打ったものが発表された。最新アルバム『COWBOY CARTER』の正式なプロモーションの一貫なのか、彼女の旅行気分ついでの気まぐれなのかは定かではないが、

11時半からCD販売
先着150名で13時からビヨンセのサイン会をやるわよ!
来れるやつは来い!

という驚きの告知が、なんと販売開始の30分前に解き放たれたのだった。

ちなみにそのころ我々はオフィスで、

「男性って己の性器に愛着ありすぎじゃないか? 息子とか言ってんの、普通に考えておかしいよね」「ウチらもVaginaを娘と呼ぶか〜」「えー、本日、娘の調子不良につき〜」「娘が大怪我を負ってしまいました!」「いやなんでだよ、理由が知りたい」「娘!娘!娘!」

などと娘劇場を繰り広げていたところだった。

そんなくだらないことにリソースを割いていたおかげで(せいで)、タワレコの件を知ったのは残念ながら全てが〈済〉の状態になってからだった。ビヨンセ来日という神聖な出来事と自分の世界線が交わることはついぞなかったのだが(それこそが人生)、なんとなくネットで情報を後追いしていると、

ビヨンセの圧倒的「神」性が、
紛れもない「神」の部分が、

ファンによる取り乱し動画(スマホ画質)からも出まくっていて、それだけで「なんかすごいもんみたな」感があった。

チョコレート色のボディスーツ、同系色のロングジャケット。ブロンドにカウボーイハットを搭載した姿。

来てくれてありがとうと何度も合掌し、投げキッスを送り、錯乱状態のファンをアルカイックスマイルで受容し、妊婦のファンのお腹にまで慈悲深く触れるお姿……。

ビヨンセ、神じゃん。
………神、じゃん????????


ところで、「〇〇(人名)、マジ神✨」的な表現というのは、基本的には比喩表現である。神レベルに匹敵するほどあなたは素晴らしい!という感嘆を意味する。これは裏を返せば、神レベルであるとはいえ神そのものではないということにもなりうる。頑張ってもニアリーイコール(≒)神がいいところ、ということだ。

学園ドラマにて、クラスのお調子者くんが、テスト前に陰キャくんからノートを借りるたびに「お前マジ神! サンキューなっ!」とさわやかにのたまうシーンを思い浮かべれば自明だろうが、そこに神などいやしない。

都合よく動いてくれてありがとう。これからも搾取させてください。俺の役に立ち続けてください。こちらは何も提供しねーけどな! あばよ!

そういう意味での神。

神と肩を並べる個体としてどころか、名前のある人間として陰キャくんが認識されているかどうかも正直あやしい。この場合の神というのは、もはやただの語尾なんじゃないか。句読点なんじゃないか。いや、言葉ですらもなく、勢い(概念)だけなんじゃないか。可哀想に。

しかし、ビヨンセは違う。
「マジ神」ではなく「マジ、神」なのだ。
一神教の神。
イエス、アッラー、ヤハウェ、ビヨンセ。

タワレコ渋谷の売り場を作った人も、ビヨンセがとにかく神だということを伝えたかったらしい。

女神降臨
ビヨンセ新作緊急販売
渋谷店限定

厳密に言えば

!!!女神降臨!!!

なので、最小限の文字数でタワレコ店員の興奮がうまく伝えられているコピーであるといえばまぁそうなのだが、あのビヨンセがタワレコの地に降り立ったことを「女神降臨」と表現するのは、チョット軽すぎるんじゃあなかろうか?とも思ってしまった(とくに韓国のウェブトゥーン人気作のタイトルも『女神降臨』なので、より軽い印象を受ける)。

ジェンダー平等の観点で言葉尻を捉えようというわけではない。女医、女子アナ、女性議員。「男性〇〇とは言わないのにね、あーはいはいManだけがHumanなんですね」。たしかに「女神」もそういった議論の俎上に載せられる単語のひとつであるため、その指摘は正しい。

ただ、ビヨンセを見て思ったのはそういうことではなかった。

この人は「「「「「 神 」」」」」である。
シンプルに、ただそれだけだ。

神がタワレコに来てくださった。
それは女神降臨!とかいう次元のことなのだろうか?

神のお時間を1時間頂戴するのに、一体どれだけのUSドルが必要になるのか……。想像するだけで胃が痛い(しかも本日時点でのレートは1ドル151.34 円)。

だから、もう少し「ありがたがっている感」を出せる日本語を、先ほどから真剣に検討している。

  • 神、顕現!

  • 神の御成り!

  • 神出鬼没の神来たり!

  • 神の権化がビヨンセ? ビヨンセの権化が神?

  • ビヨンセが舞い降りたこの地には、本人立ち去りしあとも、いまだ後光が差すーーー

  • ひれ伏せ! いや、おもてをあげよ。その目でしかと神を見つめよ。

  • 神がいらっしゃったようですが〜、木原さーん、そらジロー?

こうやってフレーズを並べてみると、「ありがたがっている感」や「神が来てる感」をリアルに演出するには、それなりの文字数と大袈裟なにぎやかしが必要になるな、と実感した。

神社が無駄に赤かったり、変な紐とかがいっぱいぶら下がっていたり、仰々しくセンターに賽銭箱が置いてあったりするのも、考えてみれば納得だ。そうでもしないと「神が来てる感」というのは演出できないんだと思う(神道は多神教ではあるが)。

ジャパニーズDIVA浜崎あゆみのロゴの由来が、実はアユのAだけではなく神社の鳥居だったというのも、あまりにも「正解」な感じがする。

私個人としては無宗教だが、ビヨンセには祈りをささげたい。

神よ、ビヨンセよ。この世の醜い争いのすべてを、お鎮めください。
これ以上暴力を許さないでください。
自らがふるった暴力を、「これは暴力ではありません」と言ってしまえる権力を、つまりはその種の暴力を、この世から根絶してください。
心からお祈り申し上げます。

あとー、、、できればうちの近くにミスドもほしいです。
お手隙のときに。



P.S.

友人からのタレコミによると、ビヨンセ新譜のアドトラックのボディがデコトラだったとのこと!!!昨年末よりデコトラにハマっていた筆者、大興奮の情報である!!!

実物を見た人のツイート。拝借失礼します

しかも、なんというか、びかびかのゴテゴテのよく知られた形のデコトラをノリで作っちゃいました、という感じではなく、ありもののボディに横断幕をかけただけ(に見える)いたって簡素なものを走らせているのも、文化盗用を免れていて絶妙なバランス感だと思った。

というのも筆者は、海外のポップカルチャーがデコトラをMVなどに使うことに関して、どこかで期待していた反面、懸念もしていたからである。

トラックのデコというのは、表面的なお飾りにとどまるものではない。飾り行為は、「2024年問題」なども抱えつつ日本で過酷な長時間労働に従事する物流・運送業者が、より楽しくより誇りを持って働けるよう各々行なっている、渾身の工夫なのだから。れっきとした地盤のある「労働者の文化」の上っ面だけをかすめとる奴がいたら、それは間違いなく文化の盗用である。外国人ならなおさら。ビヨンセのトラックは、とりあえずそうなってはいなさそうだったのでホッと胸をなでおろした。

それはさておき、トラックの下に刻まれているセリフ

燦めく姿一目見てしかと感じた運命なら燃えて舞います恋の歌

これは一体なんだろうと気になった。フレーズを全文そのまま検索してみたところ、こちらがヒットした。

作画が『北斗の拳』だなぁと思ったら、どうやら本当に北斗の拳の原哲夫が関わっているらしかった。この歌は、原哲夫が90年代にジャンプで描いていた漫画、『花の慶次』のタイアップ機種として2007年に誕生したパチンコ「CR花の慶次」のサウンドトラックである模様。動画のコメント欄には、歌と機種がいかに愛されていたかがわかる言葉の数々が並んでいる。

2回ほどメロディをシャドーイングしてみたらずいぶんと自分の音域に合っていたので、カラオケでの十八番にできるよう、練習してみるつもりだ。

当面のプレイリストは、ビヨンセの新譜と花の慶次、この二本立てでいく。

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