お正月のカレーライス
元気をもらった食事関連で思い出した。
お節料理が苦手な私のために、おばあちゃんが毎年お正月に作ってくれたカレーライス。お正月だから、と肉がやたら豪華だったりおばあちゃんのこだわりがつまっていてものすごーくおいしかった。
おばあちゃんは破天荒なおもしろい人だった。カレーにも何か常人では思いつかない食材が入っていたのではないかと思う。
普通に作ってるだけだと本人は言っていたが、私が普通に作っても色々工夫してもどうしても再現できないのだ。名店とか星三つとか、そんなすごいカレーも何度か食べたが、おばあちゃんカレーを超えていかない。
隣で一緒に作るとか、作っているところを見せもらうとか、受け継ぐ努力をしておけば良かったなと思う。4年前、おばあちゃんは100歳目前で亡くなってしまった。
でもね。
おばあちゃんはオリジナルの死生観を持っていて、天国と現世は行ったり来たりできるものだと考えていた。そうなっちゃった後も時々こっちに遊びにくるから気にしないで、とかカジュアルにいう。なんでもおばあちゃんのお母さんやお父さんは割とちょくちょく天国から出張してきていて、亡くなった後も何度も会って話したり笑ったりしていたのだそうだ。
その話を最初に聞いたとき、私はまだ子供でちょうどお化けが怖い年頃だった。
「怖いことあるか、出てくるのはおばあちゃんなんだよ?」
といわれても、おばあちゃんである以前にお化けだと思うと怖い。
「おかあさんやめてよ、そんなことあるわけないじゃない」
泣き出しそうな私をフォローするつもりだったのか、おばあちゃんの娘であるうちの母は少し強い調子で抗議した。
「あるんだよ、ちゃんとこの目でみて話もしたんだから」
おばあちゃんも大きな声でまじめに言い返す。そうして母娘喧嘩が始まった。あるんだ、いやあるはずない、等々としばらく言い合った後、
「じゃあ、私が死んだら出てきて証明してあげるよ」
おばあちゃんは自信満々で言い放った。
「どうぞ出てきてくださいよ。そしたら信じますよ。この子怖がるから、私の前にだけ出てきてね」
「ああそうだねそうしましょう。大丈夫よ、あんたのママの前にだけ出てくるようにするからね」
おばあちゃんはにっこりと笑った。
今のところおばあちゃんに再会したという話は聞かない。おしゃべりな母のことだからもしそんなことがあれば速報レベルで知らせてくると思うのだけれど、双方そんな話をしたことすら忘れてしまったのだろうか。あるいは、何もかもが複雑化した世の中だから天国からの出張もそんなに簡単ではなくなったのかもしれない。私も、今ならさほど怖がらずに受け止められる気はするのだけれど。