ナッジ研究者が見たニュース③:コロナ報告書のFAX提出
手書き報告書は現状維持バイアスの賜物?
「ついに、手書き報告書のFAX提出が見直される」ーーこれはコロナ禍での明るいニュースだ。
手書き報告は負担も多く、転記ミスも多い。そして、行動経済学的に見ると、相手に対し忠実に報告するモチベーションを失わせるダメなナッジ(スラッジ)である。
なぜ、今まで手書きとFAX提出が続いたのか?現状維持バイアス以外の理由があるなら教えてほしい。
手書きの家計調査ではバイアス多発?
この件で思い出したのが昔、私が協力した家計調査である。調査票へは鉛筆で手書きするよう指示があったが、私は既にエクセルで家計簿をつけていたので、調査票の様式に合わせて修正し、印刷した。実物の調査票そっくりに仕上がった。期限日、係員に提出したら、「困ります。手書きで書き直してください。」との指示。
私は「手書きは読みづらくありませんか?何より統計処理するときに、システム入力しますよね?最初からデータで渡したら全てが丸く収まりませんか?」と提案した。だが、どうやら私の提案は飛躍しているらしく、「所定の様式に鉛筆で手書きする決まりになっています。御理解ください。」と係員。
これを言われると「決まりを理解していない私が悪い」という気になり、これ以上係員の方を困らせても申し訳なく、2時間かけて全て鉛筆で書き直した。なんて罰ゲームだ。
その結果どうなったか?文字数の多い項目は書かない、毎週定期的に購入していたものは月末にまとめて計上する、転記ミスの見直しや検算はしないなど、記載が荒っぽくなった。私以外の全員が正しく記載していれば、私のいい加減さは打ち消されるだろう。しかし、おそらくかなりの人が手書きを面倒くさいと感じ、同様の手抜きをする傾向が強まるだろう(社会的手抜き)。バイアスは統計を歪ませる。記載方法によるバイアス発生は、予防可能なのに、なぜ?
それとも、調査主催者はこのバイアスを事前に把握した上で、補正する高度なアルゴリズムを開発したのだろうか?それよりも最初から記載の負担を減らせば丸く収まるのに。…当時の悶々とした思いが、このニュースで蘇った。
コロナ報告書も電子化・簡素化にした方がよい
手書きのコロナ調査票は電子データに比べて、記載内容が雑になっている可能性がある。ただでさえ、多忙な現場。意味のない作業に労力は割きたくないし、手書きになると、決裁者も起案内容に手直しをする意欲がなくなるだろう。そして、医療機関も焦ると役所の電話とFAX番号を間違えることもあり、そうなると役所では電話を受け取るたびに、不快なピー音に悩まされる。医療機関が正しいFAX番号に送信しても、役所のFAXで紙詰まりすれば届かない。こんなにボトルネックだらけのフローチャート、誰か1人でも喜ぶ人がいるのか?
手書き報告が消滅することを、心から歓迎する。
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