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ナッジで伝わるプレゼンに⑦:実は危険な無料イラスト

フロリダ効果が行動を操る?

プレゼンでのイラストの注意事項をお話しするに当たり、私の好きな心理実験を紹介します。

【フロリダ効果】学生グループに単語を組み合わせて短文を作るように指示した。あるグループには「フロリダ※」「健忘」「シワ」「シワ」「白髪」など高齢者を想起する単語を含めた。その後、学生たちを別の教室に移動させたところ、高齢者を想起したグループは歩く速度が倍くらい遅かった。
これは、高齢者を想起することによって、実際の歩行行動も高齢者っぽくなってしまったためと考えられる。
(引用:D.カーネマン「ファスト&スロー」(上))

※米国人にとってフロリダは、年金受給の高齢者が暮らす場所のイメージがある。

この実験では、プライミング(先行刺激)として高齢者をイメージすると、その後の行動も高齢者っぽくなるというものです。
例えば、最初に金持ちの話をした後に「赤」をテーマにした連想ゲームをすると「フェラーリ」が出やすくなり、最初に野菜の話をした後だと「トマト」が出やすくなる現象です。「あなたがフェラーリと答えたのは、実は誘導されたからだ」と説明しても、相手は「私が考えたもので、誘導されてなんかいない」と答えるでしょう。プライミング効果は相手の無意識に働きかけることもあるため、悪用される懸念もあります。

フロリダ効果を知らずに発表すると

フロリダ効果は適切に使うことで、相手を望ましい行動へと促すこともできるナッジです。しかし、発表者がフロリダ効果を知らないと、相手の無意識にネガティブなイメージを植え付ける一因になります。
無料イラストやゆるキャラを多用しているスライドがよく見られます。無料イラストには役所のお知らせに使われ過ぎて、「陳腐なイメージ」が定着しているものも少なからずあるのが現状です。「ゆるキャラを用いたマーケティング」などでない限り、ゆるキャラはスライドテーマに直結していないでしょう。
かわいいと思って使った画像も、相手に「役所っぽい」というフロリダ効果のスイッチが入ったら…そのプレゼンは期待した効果を得られない可能性があります。私は行動経済学の観点から、スライドは厳選し、検証の上で用いることを推奨します。

①イラストはプレゼンの中で明確な役割がある場合に限り、使用
②イラストのフロリダ効果を検証(無料イラストやゆるキャラは要注意)

シンプルが一番

スライドでは、イラストに視線が集まります。相手は文字情報を見るのが疲れるので、イラストに意味があることを期待します。にもかかわらずメッセージ性の低い、「ただかわいいから載せてみた」というイラストがあったらどうなるでしょうか?相手は重要なイラストとそうでないものを瞬時に区分しなければならず、脳に負荷が加わります。
イラストはメッセージの具体化、記憶定着、イメージの共有という明確な役割があると、見る側は心地よいでしょう。どうしてもイラストを多用したいのなら、文字を削り、イラストだけでストーリーが成立するくらい「イラスト意味を持たせる」というのも面白いと感じます。
プレゼンの上級者は実に巧みにイラストに役割を持たせ、ポジティブなフロリダ効果が発動するように設計しています。

ちなみに私は重要なスライドのみシルエット画像を使っています。唯一カラーにしているのは、「ナッジ象」です。プレゼン冒頭でナッジ象を登場させ、一気にポジティブなフロリダ効果を発動させます。これ以外は原則シルエットなので、作るのもシンプル、見る側もシンプルです。

スライド4

今日も最後まで読んでくださりありがとうございます。

※YouTube「たけばやし博士」で1日おきに、120秒ナッジトリビアを発信しています。チャンネル登録していただけますと、励みになります。


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