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直感でわかるナッジ【実践編】②:コミットメント。よく聞くけど、どういう意味?

※このnoteはインターネットラジオVOICY「ドクター紅と竹林の土曜の行動経済学」(2020年2月8日放送)の内容をベースに書き下ろしたものです。
登場人物 ドクター紅(くれない):ナッジの魅力に気付いた公衆衛生医師。竹林博士:ナッジの面白さを伝えるのが大好きな研究者。

【まずは具体的に決めて宣言してみる】

紅(ナッジ勉強中の医師):竹林博士は学会の大会事務局長で大忙しみたいですね。

竹林(健康行動経済学研究者):はい、令和2年7月11日から青森県立保健大学で第29回日本健康教育学会学術大会が開催されます(※)。さっきも学会情報をTwitterにアップしました。※その後、コロナの影響により令和3年度に延期になりました。

紅:竹林博士は最近SNSの投稿回数が増えて、正月も新年の目標をアップしてましたね。今年はスキーを30回まで抑えるって目標でしたよね?

竹林:あの頃はこんなに雪不足になるとは思っていなかったので(笑)。さて、この時間は決意や宣言をテーマにしたナッジを考えていきます。ここでクイズです。

問 大学生に12月26日締切の課題を出したところ提出率は33%だった。別の学生には課題に取り組む具体的な時間と場所を宣言するよう指示したところ、提出率は何%になっただろうか? 
A 50% B 75% C 100%

竹林:答えはBの75%です。この実験から、どんなことが言えるでしょうか?

紅:実験のためにクリスマス明けを締切にしたことを学生が知ったら、この先生はさぞ恨まれたことでしょうね(笑)。

竹林:言いたいのはそこではないので、ナッジ的観点でお願いします。

紅:学生は課題の大切さをわかっていても、つい遊んでしまうものですが、「決めたことは実行したい」という人間の本能に訴えると、重い腰が上がるということですね。

竹林:はい、これは「コミットメントと一貫性」というナッジです。コミットメントとは「予め将来の行動を縛っておくこと」で、例えば行動を宣言すると「実行しないと恥ずかしい」という思いが働き、実行の可能性が高まります。そして、単に「やります」よりも「〇時にこの場所でやります」と具体的に決める(実行意図:implementation intention)のがお勧めです。

紅:私も学会発表の予行演習をすると一念発起しましたが、「夕食後でいいか」「風呂に入る直前でいいかな」と先送りしているうちに、結局やらない日もあって…。

竹林:「夜になるとセルフコントロールが緩み、だらしなくなる法則」発動ですね。疲れていると楽な方に流されやすいので、冷静なときに前もって決めておいた方がよいですよね。特に、既に行っている習慣にリンクさせると成功確率が高まります。

紅:「風呂に入る直前の22時、居間で予行演習をやる」という感じでしょうか?

竹林:はい。このコミットメントと一貫性ナッジは紅先生の仕事にも応用できます。検診のお知らせを、受診予定日時と場所を自分で記載する様式にしたら、受診率が3倍に上がった事例があります。
 紅先生もわかると思いますが、受診率を1%上げるのにも、とてつもない労力やコストがかかります。それを、様式を変えるだけで3倍にした。これがナッジのパワーです。

紅:これはいいですね。

竹林:まとめますと、大学の課題や腕立て伏せ、検診のように「大切なのはわかっているが、つい先送りしてしまう行動」を実行に移すには、具体的な行動計画を立てることが効果的です。そして、宣言すると、さらに成功率が高まります。

紅:私は宣言してもつい破ってしまうタイプなんですが…。どうしたらいいでしょう?

竹林:大阪大学の大竹文雄先生は講演でこうおっしゃっていました。「あなたが阪神ファンなら、宣言を守れなかった場合、巨人軍に寄付をするというルールにする。」

紅:それは、諦めそうになったときも最後の力をふり絞れそうですね。でも、私はあまり野球を見ないのですが…。

竹林:もしも紅先生が旭富士派なら北勝海ファンクラブに、聖子派なら明菜ファンクラブに、バーン・ガニア派ならニック・ボック・ウィンクルファンクラブに、オスカル派ならベルサイユ王朝に、時代派ならコース編集部寄付をするルールにすればいいのです。

紅:…例えが昭和ですね(笑)。

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