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IR背負い投げ、一夜限りの復活

こんにちは。GO齋藤です。IR系Advent Calendarもいよいよゴールが見えてきましたね。これまでの皆さんの記事、楽しく拝見させていただいてきました。本日は私の呟きにお付き合いいただければと思います。

まずは簡単に自己紹介。IR経験は2011年〜2016年の5年間だけ。千葉にあるファッション系ECサイト運営会社で株式価値向上(=高いバリュエーションの維持)に奔走しました。この期間を除くと、基本的にはセルサイドでのリサーチに長く身を置いていますが、一時期ロングオンリーのバイサイドでポートフォリオマネージャーも経験しました。
今回は資本市場を取り巻く3主体全てを経験した者として、IRがどうあるべきか伝えられれば良いなと思っています。

今回のタイトル「IR背負い投げ」は事業会社在籍中にコーポレートサイトで執筆していたIRブログのタイトルです。決算内容を中心に機関投資家・個人投資家分け隔てなく簡単にしっかりと会社の状況が分かるようにとの思いから書き続けていました。今日はその頃を思い出しながら、書き綴っていきたいなと思っているので、しばしお付き合いください。

こんな経歴ですので、私の元には「良いIRの人いませんか?」「IR人材ってどう育成すれば良いですか?」といった類の質問が多く寄せられます。私はIRに必要な要素は「素顔のままで」「愛」「社交性」だと思っています。一つ一つ説明していきます。

「素顔のままで」。自社のことを投資家に伝える際、嘘をつかず、正直に伝えるのは当然のことって誰もが思っていますよね。でも本当にこれってできていますか?業績が良い時には聞かれたこと以上のことを伝えていると思います。逆に業績が悪い時にそれってできていますか?IRには企業と資本市場を結びつける役割がありますが、それは決して化粧した姿を見せることと同義ではありません。常にありのままの素顔を伝えていく必要がありますし、それが資本市場からの信頼に繋がっていきます。株価を上げることがIRの仕事ではありません。どこまで開示するかは難しい問題ですが、悪い部分を隠すことだけは止めるべきだと思います。私はこれまで多くのIRパーソンと会ってきましたが、意外に悪いことを悪いと言える人は多くありませんでした。自社株を多く保有するマネジメントだと、悪い時でも「調子良いです」と言ったりしちゃいます。そりゃそうですよね、自分の金融資産価値を下げるようなことは本能的に言いませんよね。私は、IR担当者は自社株を持つべきでないとすら思っています。セイムボートという発想もあるでしょうが、私は1株でもその会社の株を保有していたら、ネガティブな発信をしない自信がありました。故に株式は保有しませんでした。話が逸れてしまいましたが、ファンダメンタルズが悪い時の発信力・対応力が中期でのファン作りに繋がっていきます。化粧はPRに任せましょう。

「愛」。IR担当者はどんな人がやるべきか?金融経験者がIRに適しているのは間違いないと思います。ただし、それは必要条件であり、十分条件ではないと思っています。どういうことかと言うと、資本市場で相対する方々は金融の世界しか知らない人たちが大半で、その業界特有の言語を用います。本人たちもこのことに気がついていませんが、両方を経験した私からすると、会話のキャッチボールができていない理由のほとんどが共通言語で話していないことを知っています。金融出身の方は共通言語で対話できるので、未経験者よりも順応が早いということなんです。明日から一人で頼むというのであれば金融経験者に任せるしかありません。しかし、金融経験者で事業のことを自分事として語れる人は実は多くありません。それが十分条件ではないという理由です。自社の魅力、優位性を正しく伝えるには、事業をしっかりと理解する必要があります。その会社の良いところも悪いところも含め愛情を持って理解していなければ、真のIRはできません。あ、でも恋は盲目とばかりに良いことしか見えなくなっては駄目というのは「素顔のままで」でお伝えした通りです。
IRというと兎角専門性が高いように思われますが、私は若手プロパーが幹部になっていくための登竜門にIRというファンクションがなっていくべきとすら思っています。適切なIRを行なっていくためには、企業内の各部署から情報を吸い上げる必要があります。可能であれば、外部からどのように自社が見られているのかを社内に還元することも必要だと思います。正直この動き、外様には難しいです。プロパー社員だからこそできる動きだと思いますし、ここで培った全社横断的な関係構築・強化が後のマネジメント力向上に繋がっていくのではないでしょうか。私が駆け出しの頃対応していただいていた方で取締役になっているケースは少なくありません。そんな方々が愛を持って自社のことを話すこと、資本市場でどのように見られているかを理解していること、が長期のファン作りに繋がっていくと私は信じています。

「社交性」。IRは自社のファンを作る営業活動です。そのために、誠実に嘘偽りなく、市場と対話し続けていくのです。決算という数字は、どんな伝え方をしようとも、同じ数値でしかありません。しかし、その裏側にある行間は伝え方によって如何様にもなります。ここで行われる建設的な対話こそが投資家・発行体双方にとって価値あるものになっていきます。一般的にはGive and Giveこそが良いIRと思われがちですが、Give and Takeこそがあるべき姿です。投資家と発行体は対等な立場ですから、お互いに切磋琢磨し自社の株式価値を高めていくのが理想だと思います。そのための対話力、理解力を含めた社交性がIRでは重要になっていきます(ただ仲良くすれば良いというものではありません)。

上場株に投資する機関投資家は、日本株専門であれば4,000社の中から投資する企業を選びます。グローバルファンドであれば分母はもっと大きくなります。投資レポートを書くセルサイドアナリストのカバレッジ可能企業数は20〜30社ぐらいでしょうか。現在最も多くのライティングアナリストを抱えるファームでも50名程度の規模ですから、単純計算1,500社しか1ファームでカバレッジできません。このことを念頭に置いて、誰にどのようにメッセージを発信し、自社のファンを増やしていけるかがIRの大命題になっています。IRをきちんとやってもバリュエーションが切り上がる訳ではありません。しかし、きちんとしたIRによって、適切なバリュエーションが常に付与されるようになります。それを目指して、IRを是非頑張ってください。

2022年は米国金利上昇によるバリュエーションクラッシュで、IR担当者にとっても、投資家にとっても受難の一年だったと思います。2023年も薔薇色とならないでしょう。なかなか中長期の目線で対話ができないかも知れません。しかし、そんな時でもしっかりと自社の将来的な株式価値をしっかりと伝え続けてください。頑張りましょう!

最後に。私はここ数年ずっと人的資産をどうやってバリュエーションに織り込むか考えています。財務諸表では人材はコスト(人件費、労務費など)でしか認識されません。これからは人材が生み出す付加価値をきちんとバリュエーションに織り込むべきなのですが、なかなか難しい課題です。一人当たりの生産性や粗利率の変化で人的資産を語ることはできますが、それを数値化し、バリュエーションに落とし込むのは現状至難の業です。何か良い方法があれば是非教えてください。もしくはその基となるデータ開示をお願いします。時代はHR(Human Resource)からHC(Human Capital)に移っています。それを意識した開示を楽しみにしています。


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